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第4話 待ち伏せ

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 私とエイモスが結ばれて2年ぐらいたっただろうか。
 私は今も彼といて、一緒にパーティーを組んでいる。
 メンバーは私たち2人だけ。

 私が彼を大好きなのと、彼が私の料理を気に入っているから。

 攻略に行かない日は2人でよく市場に出かける。
 エイモスが食べたい食材を買って、私が好きなように調理する。
 お気に入り料理が出来たり、時にはちょっと失敗したりすることもあるけれど、楽しいひと時だ。


 彼は私の大事な人だから、アンタ呼びは止めた。
 なんとなく突き放している呼び方に感じるから。

 そんな私を周りは幸運な女の子と呼ぶ。
 誰にも捕まえられなかった、エイモスを捕まえたから。
 私がすごく美しくなった、強くなったとも言われる。

 私としては捕まえたつもりはない。
 だって彼は自由な有翼族だから。
 私はただ彼の側にいたいだけ。
 彼の羽はフワフワで暖かい。

 それは彼の心そのものなのだ。


 
 2年たったしそろそろロックゴーレムの湧きを確認しに行こうと、2人でガーリン鉱山に転移した。

 様子がおかしい。
 もっとロックゴーレムがいてもいいはずだ。

 だがそこには別の人がいた。

 傷んだ黒髪に、汚れてところどころ破れたドレス。
 初めて見た時は美少女だと感じたが、今は険しくギラギラとした憎しみを浮かべた顔をしている。
 あの時の女子高生の聖女だ。


「やっと来た。待ったかいがあったわ」

「どうしてここが?」

「貴女、聖女の広範囲魔法でここの魔獣を倒したでしょ。
 その痕跡が残っていたのよ。
 私が追跡したの。
 この魔法を確立するのに1年もかかったわ」

「どうしてそんなくだらないことに時間を使ったの?
 あなたは聖女として大切にされてたんでしょ?」

「されてたわ、訓練中の3年と討伐1年目まではね」


 彼女は憎々し気の私を睨みつけた。

「貴女がわたしの聖女の力を奪ったから、わたしに戦う力が足りなかった!
 いったいどうやったの?

 わたしが主人公に憑依したはずなのに、踏み台の貴女がいなかったからこんな目に遭ったのよ‼
 本当はわたしではなく、力のない貴女が断罪されるはずだったのに」


 何を言ってるんだ。この人は。
 主人公に憑依?
 本当はこの見た目じゃなかったってこと?

 でも私は向こうと同じ顔をしている。


「私はなにもしていないわ。
 あなたがあの森にいたのは知ってたし、騎士たちに大切にお姫様抱っこされて連れていかれるのは見たわ。
 でも触るどころか、近寄りもしてないのに、どうやってあなたの力を盗むの?」

「あの場にいたなら、付いてくるのが普通じゃない!」

「そう思えなかった。
 彼らは黒髪の聖女であるあなたは探していたけど、私のことは探そうともしてなかった。
 私は生まれつき茶髪で黒髪じゃなかったから、聖女だと思われないと思ったし。
 あなたは大事にされて、私は大事にされないのは目に見えていた」


「やっぱり貴女もあのラノベを読んでたのね。
 正確にはWEB小説だけど」

「だったら読んでないわ」

「嘘!」

「嘘じゃない。
 私はスマホやパソコンを与えられてなかったの。
 学校支給のタブレットはあったけど祖母に毎日履歴をチェックされてて、WEB小説なんか読めなかった」

 祖母はなぜか私がタブレットで売春の客を探したり、家出先を物色したりすると思いこんでいた。
 テレビドラマの見過ぎなんだよ。
 閉校時間まで図書室で本を読んでる私にそんなことができるわけもない。


「じゃあ貴女は何も知らなかったのに、あそこから逃げ出したというの?」

「ええ、それこそ図書室のラノベの情報を元にね」

「だったら余計いるはずでしょ。
 ラノベでは力のない方が結果的に愛されるんだから」

「……だってあれはフィクションだから。

 現実では魅力も力もない役立たずが、愛されるわけないじゃない。
 ラノベの中だって、追放された後特別な力に目覚めるから愛されたんだよ。
 女神に会ったわけでもないし、自分になんの力を感じなかった。
 だから聖女を求める騎士には近づかなかったの」


「だったらなぜ攻撃魔法が使えるのよ」

「知らないわ。
 夜森の中で過ごしていたら獣に襲われて、魔力があるってその時わかったの」

「それイベントだ。
 わたしがやるべきイベントを盗んだんだ!」

 聖女の彼女は少しずつ近づいてきた。


「あなたは騎士に暗くなる前に大事に連れ帰られてたじゃない。
 そんなにやらなきゃいけなかったんなら、あなたがあそこに残ってたらよかったのよ。
 ずっと呑気に寝てるから、イベントすっぽかすのよ。
 私はあの時死ぬかと思った。
 あなたはその時安全な所にいたのよ」

「盗んだわたしの力を返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せ!」

 そう叫んで飛びかかってきたときに、エイモスが私を抱いて後ろに飛びのいた。


「なによ、そいつ魔族じゃない。
 魔族は敵なのに!」

「私のいる国では魔族は敵じゃないわ。
 彼は大切な恋人よ。
 あなたも王子と婚約って新聞に出てたじゃない」

「そんなのとっくに破棄されたわ。
 エリオット様は元の婚約者である公爵令嬢の元へ戻ってしまった。
 わたしに聖女の攻撃魔法があれば、魔王にだって勝てたのに……」


 この人たち負けたの?
 私がエイモスを見ると、彼は頷いた。

「惨敗で王子とこの聖女以外は皆殺しだって。
 王子も大けがで足1本失ったらしい」

 私は彼女の方を振り返った。
「でもあなたは治癒魔法が使えるでしょ?」

「使えるけど欠損なんて治せないわよ。
 貴女は治せるんでしょ?」

「治せないわ。私に治癒魔法と防御魔法は使えない。
 エリオットとかいうあなたの王子には悪いけど」


 すると聖女の彼女は私の腕をがっちりつかんだ。

 目が怖い。
 なんだか狂信的な力を感じる。


「わたしを捨てた男なんて、もうどうでもいいわ。
 強い攻撃魔法はほとんど使えないけど、一つだけ使えるものがあるの」

 すると彼女の手がものすごく熱くなった。


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アンタ呼びが人を突き放しているかどうかは、その土地柄や個人の感覚で違うと思います。
キラがそう感じているという設定です。

元女子高生聖女様は、物理攻撃や聖女魔法じゃない攻撃魔法は得意なんでしょう。
Aランクの狩場を乗り越えられるぐらいですから。


WEB小説の内容は召喚による聖女候補が2人いて、髪の長い方(美人でしとやか)が強い力を持っているけど、短い方(美人というより愛嬌子犬系)に頼まれて力を貸してあげてたのに、魔王討伐後に裏切られる。
でも長い方を愛していた王子によって、裏切り者は断罪されるって感じの話。
何となくありそうですよね。

でもキラは愛嬌系ではなく、ハンサム美少女系。
王子のところに行ってたら別のドラマがあったでしょうね。

この設定、余程面白いアイデアが見つからない限り、私は書かないです。
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