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第1話 勇者パーティー
しおりを挟む「エイリーン、君をこのパーティーから追放する」
勇者カイトがわたしにそう告げる。
そうなって当たり前だ。
むしろ、追放してくれてありがとう。
もう無理ってところまで来てたんだ。
わたしは一応これでもフォーブス伯爵の娘だ。
父は中立派の中堅貴族で、のほほんと生きて行けるはずだった。
だけど兄であるヨハネスが、魔王討伐の勇者パーティーの賢者に選ばれてしまったのだ。
いや、そこまではいい。
だが兄が一言、
「エイリーンの食事が食べられないところへは、どこにも行きません」
国王命令なのよ?
受諾一択でしょうが!
兄がごねにごねまくって、ちょっとしたスキルがある以外はごく普通の貴族の子どもとして育っていた私が割を食ってしまった。
まだ13歳だったのに、勇者パーティーに入れられてしまったのだ。
「リーンがいなくなるなら、私も出て行くよ」
兄ヨハネスは当然のようにこう言った。
「でもな、ヨハネス。
これからは魔族が跋扈する魔王領なんだぞ?
エイリーンちゃんは多少戦えるけど、制約が多いだろ?
貴族のお嬢様なんだし、無理させたら可哀そうじゃん」
「イヤだ!
いかな勇者で親友でもあるカイトの言葉でも、それだけは聞き入れられない‼」
「道中の移動のため、ラム君は連れて行きますね」
わたしは従魔の黒仔ヤギのラム君をそっとなでた。
このもめ事には大きな理由がある。
わたしの料理が絶品だからだ。
実はわたしは転生者なんだ。
前世では、フードライター兼料理研究家をしていた。
世界中を飛び回って食材を探し歩き、美食の数々を尽くし、家庭でも作れるように手に入りやすいで名店の味の再現料理を作って動画配信していたのだ。
企業案件をこなしたり、本だって数冊だしたり、テレビにだって出ていた。
とても充実した日々を過ごしていたんだ。
そんなわたしが飛行機事故に遭って、乗っていたみんな全員が神様の元に連れていかれてしまった。
神様はわたしたち一人一人に異世界に転生するかしないかを聞いてくれて、すると言った人に特別な能力を与えてくれた。
それで私は転生してもいいけど、大好きな仕事をこちらでも続けたいと伝えた。
「つまり君は異世界で食材を探して、美食の数々を尽くし、料理を作って紹介したいということか?」
「そうですね、動画配信は難しかったら大丈夫です。
でも一番は美味しいものしか食べたくないんです。
あと異世界には、米とか味噌とか醤油とかがないんですよね?
それも困るんですけど……」
「ふむ、それでは君には料理に関するすべてのスキルと、欲しい食材を出せるスキルを与えてあげよう。
安心して異世界で暮らしておくれ」
「ありがとうございます!」
そうして転生したわたしは、思った通りこの世界の激マズ料理が耐えられなかった。
カチカチの焼きすぎの肉に、ゆですぎの野菜たち。
ぼそぼその固いパンなど、喉を通らない。
それで2歳で外に出て美味しい食材(主に植物)を採取したり、3歳で厨房に入って料理を始めた。
それから伯爵家のコックに料理技術を伝授して、料理学校の教師にしたんだ。
10歳にして料理本も出版した。
なかなかのベストセラーになって、今でも売れている。
全体を底上げすればおいしい料理が生まれてくるわけで、その目論見は当たった。
それで安心して、楽しい食生活を送れるようになったんだ。
もちろん自分一人で楽しむのではなく、家族にも食べてもらった。
そのせいで家族はとんでもない美食家になってしまった。
だって神様のくれたスキルで作っているからね。
兄がごねたのはある意味、わたしの自業自得でもあった。
だからと言って13歳のわたしに魔王討伐の旅は過酷だった。
まず普段から馬車を使ってたから、以前ほど歩いてなかったしね。
戦えないこともなかったけど、相手が食材の場合だけなんだ。
これは食材を探すためのスキルとして与えてもらったみたい。
だから最弱の魔獣であるゴブリンですら倒せない。
食べられるものなら、何でも倒せるんだけど。
オークなんて得意だよ。
ゴーレムはダメだと思っていたら、岩塩のゴーレムがいてその時は倒せたね。
アレはいい食材だった。
わたしが世界一好きだったヒマラヤの塩に勝る旨さだったよ。
でもすぐに体力がなくて、足手まといになってたんだ。
途中で黒仔ヤギのラム君に出会ってなかったら、このパーティーについていくのは無理だった。
ラム君はわたしたちが途中で出会った魔獣の子どもだ。
小っちゃくて柔らかそうな仔ヤギだったから、すごくおいしそうに感じた。
「ラムチョーップ」
そう包丁振り上げたら、プルプル震えて「助けて欲しい」って泣き出したんだ。
「あなた、喋れるの?」
「はい、包丁怖いです。
言うこと聞きますから、食べないでください」
「でもラムチョップ、食べたかったんだけど……」
「ぼく……力持ちです。
それに収納スキルもあります。
岩も登れるから、おねえさんを背中に乗せて歩けます」
それでみんなと相談した。
わたしの従魔にして、乗り物兼非常食として連れていくことにしたんだ。
ラム君はたいへん有能な従魔だった。
わたしが戦えないのでみんなが戦闘している間見学しているんだけど、ラム君が守ってくれるんだ。
そんな時はふたりでお茶会の準備する。
お茶はその辺の木から食材鑑定で探したものだ。
デザートは街や村に寄った後ならお菓子を作るし、移動中なら干した果物や日持ちするクラッカーのジャムのせだ。
これは戦闘を済ました、みんなへのご褒美でもある。
「ラム君はそんなに強いのに、どうしてわたしの従魔になったの?」
ここまで強いと簡単に従魔契約を棄却して、逃げ出せると思う。
「リーン様のご飯、大好きだからです。
それに食材認定されたら、動けなくなっちゃうんです。
おいしく食べられるって、本能で察知しちゃったんです。
だから食べないでください」
「食べないよ。
裏切らなかったらね」
かわいいペットを食べるヒトはいません。
そんな役立たずなわたしが残っていたのは、食べ物に関する鑑定能力とこのパーティーで料理ができるヒトが他にいなかったせいだ。
勇者のカイトは火加減が出来なくて、お肉を真っ黒にしてしまう(だからわたしの料理を食べる)。
5歳年上の兄ヨハネスは伯爵家の嫡男で、家事など1つもやったことはないので未知数(普段からわたしの料理を食べる)。
シーフの狼獣人のティナは基本生肉しかださない(でもわたしの料理は食べる)。
聖女のルシアは不器用過ぎて、食材を別の変なものに変える(もちろんわたしの料理は食べる)。
精霊術士のライラはなぜかいつも毒入りにしてしまうんだ(それでもわたしの料理は食べる)。
わたしが1度熱を出して作れなかったときにライラに作ってもらって、大変なことになってしまった。
みんなが食べる直前にたまたま水が欲しくて近くの調理済みの鍋を見たとき、食材鑑定でその料理が毒だって察知したんだ。
もうちょっとでライラは魔王軍のスパイとして、みんなに殺されるところだったんだよ。
ラム君の進言で教会でスキル判定して、毒付与のスキルがあるってわかったからよかったけど。
誰も死ななくて本当によかったよ。
ライラを殺したら、彼女の精霊が黙ってないしね。
つまりわたしがいなくなったら、たぶん一番マシなので兄が作らないといけない。
家でもこの旅でもわたしが作っていたから、それに耐えられないと思ったのだ。
だからといって兄は、このパーティーの要の賢者なのだ。
出て行かれたら、魔王を斃せるとは思えない。
でもでもね、この2年わたし頑張ったよ。
料理だけでなく、洗濯やその他もろもろの雑用もわたしがやるしかなかった。
わたしが戦闘であまり役に立たないからだ。
ラム君に会うまでは荷物持ちもさせられていた。
訓練も受けていないごく普通の貴族子女としてありえないほど歩いたし、日焼けもして髪も肌も荒れてしまった。
それだけならまだしも、この行軍に耐えられる体ではなかった。
元々強くなかったのに、成長期に体を壊すほどの運動をしてしまったからだ。
もしかしたら前世の記憶から、戦うこと自体を心が否定しているのかもしれない。
しかもこれからは食材でない魔族やアンデッドしか出ない魔王領だ。
わたしが行っても戦えない。
体力も、気力も、限界に来ている。
これ以上体調を崩したら、死んでしまう。
だからもうお願いだから、この勇者パーティーからわたしを追放してください!
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