ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

papporopueeee

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26. エピローグ

淫魔と探偵

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「つかれたー……」

 自室に着くなり、シオンはベッドに倒れ込んだ。

「クックッ、今回も楽しませてもらったぜ?」
「はぁ、サナはいいよね、観てるだけなんだからさ。ボクなんて、命の危機を感じちゃったよ」
「誰かさんが犯人を挑発したからだよなぁ? ものの見事に逆上させる手腕は煽り師として一流だったぜ?」
「……そうでした。ボクのせいでした」

 シオンは潜り込むように枕に顔を埋めた。

「そう落ち込むこともねえさ、シオン。お前の暴言のおかげで事態が動いたのは確かなんだ。ただ、あの短髪の片思いが露見して、キレた変態にいたぶられただけさ。気にするな」
「慰めになってないよ……」
「短髪は、変態がおさげのこと好きなのがわかってやる気が出てきたとか言ってたなぁ。クックッ、あれは恋のバトルでもあったわけだ。いまごろ、勝者はベッドの上でしけこんでるかもしれねえなぁ?」
「止めてよ! 知り合いのそういう話するの!」

 シオンはふよふよと漂うサナへ向かって枕を投げつけた。
 しかしサナはそれを軽々とキャッチしてみせる。

「おっと……それよりシオン。終わった気でいるかもしれねえが、まだ事件は解決してないぜ?」
「え? ……ああ、そうだった。サナ、”最終確認”」

 シオンが告げると、その体に刻まれている紋様が発光し始める。

「おいおい、やる気ねえな。事件の締めだぜ?」
「だって、もう犯人は確定してるようなもんだし……。”事件の犯人は佐藤 津だ”」
「”YES”」

 サナの持っている枕にもYESという文字が浮かび上がった。

「さて、それじゃあ回収するぜ?」

 シオンの右腕全体から首元まで刻まれていたサナの眷属の証。
 その紋様が光を発しながら拡散するように宙へ溶けていく。

「ぅっ……!」

 紋様が消えていく度に、シオンの口からは声が漏れる。
 光に照らされているせいか、その頬は紅潮しているようにも見えた。

「ぁ……はぁ……っ」
「イったか?」
「そんなわけないでしょ!」
「そりゃ残念だ」

 枕を抱えながらカラカラと笑うサナ。
 ブラウスから見え隠れする右手の指先と首元には、シオンに刻まれていた紋様が浮かび上がっていた。

「これでサナにとっても事件は解決。後は代償だけど……」
「さて、今回は右腕一本と少しってところか。どうするかな……?」

 サナは指先の紋様を舌先でなぞりながら、シオンを視線で舐め回した。

 この時だけはシオンは契約者ではなく、サナにとっての獲物となる。

「なるべく軽めでお願いします……」
「そういうわけにはいかねえよ。契約だからな。きっちりと等価値を取り立てさせてもらうぜ……♡」

 サナがじわじわとシオンへ接近する。

 YESと書かれた枕を突き付けるように、シオンへと迫っていく。

「なっ、なな、なに……?」
「どうしたぁ……? 顔が赤いぜ、シオン?」
「さ、サナこそ、なんか興奮してない?」
「そりゃ淫魔だからな。これからシオンに支払ってもらう代償を考えただけでイキそうだぜ?」
「っ!」
「クックッ、あんまり焦らすのも可哀想だ……」

 サナはペロリと自らの唇を舐め上げ、釣られてシオンは喉を鳴らした。

「十八女思音に告げるぜ。お前が支払う代償は――」



” 十八女思音が最も可愛いと思う女装姿で1分の自撮りビデオを作成しろ ”



「うわあぁあぁ! また女装だああぁぁぁっ!!」

 シオンはサナから枕をぶんどると、顔を埋めて叫び始めた。

「もう少しで一人遊びも追加できたんだけどなぁ……惜しかったなぁ」
「なんにも惜しくないよ! 最悪だよ!」
「クックッ、また姉の服を黙って借りるか?」
「それじゃあ最も可愛いと思うの部分がクリアできないもん! やだあぁぁっ!!」
「ってことはお買い物も必要だなぁ……。幸いにも髪型は最高に可愛いもんなぁ。ウィッグ代が浮いてよかったなぁ?」
「良くない! なんにもよくない!!」

 その時、シオンのスマホが通知音を鳴らした。

「ん? ……クックッ、シオンがうるせえから姉が心配してるぜ?」
「うぅっ……誰のせいだと思ってるんだよ……」
「返事のついでに、下着を貸してもらう交渉もしたらどうだ? ほら、前に――」
「もう止めて! 過去の傷を広げないで!!」

 騒ぐふたりを他所に、またもスマホが通知音を鳴らす。

 画面には相田三葉からのチャットが表示されていた。

『今日はほんとにありがと! 撮った写真送っとくね!』

 続けて送られてきた写真。

 そこには三葉、純夏、嶺二。
 そしてシオンが並んで写っており、編集で文字が書き加えられていた。



” 事件解決記念!
  これにて一件落着、お後がよろしいようで。
                   なんてね♪ ”
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