66 / 68
25. 最終局面
2
しおりを挟む
部室の中に軽い音が響き渡った。
どこかで聴いた覚えのある音。
それを三葉は津への答えとした。
「なっ……なにを……!?」
何をしているのか理解できないという津の狼狽。
シオンも三葉が何をしているのかわからなかった。
この状況でそれをする理由がわからなかった。
「……ふっ……何って……。写真撮影だよ、サトシン?」
音の正体は、三葉のスマホのシャッター音だ。
三葉は自身と津の姿を写すように自撮りをしていた。
「サトシンが無理やり証拠消させるからさー……新しく作っちゃった♪」
「なっ!?」
「ふふっ、これはもう言い訳できないよねー。女生徒にこんな密着して羽交い絞めとかさー……誰かに見られたら終わりだよ」
「渡しなさ――」
「渡すわけないじゃん」
三葉が腕をブンと振ると、その手からスマホが空へと投げ出された。
「っ!?」
スマホの向かう先には誰もいない。
ただ一直線に、開け放たれた窓の向こうへと――
「くっ!」
津が腕を伸ばしても届かない。
咄嗟に駆けても及びもしない。
落下音すらも聞こえない距離へ、津の暴行を収めたスマホは飛んで行った。
「これでもう逃げられないよ。ここで何したって、あのスマホにはバッチリ証拠が写ってる。落下の衝撃でスマホが壊れるなんて期待はしないでね。写真部部長でありスマホ派筆頭の私が、そんなヤワな物使ってるわけないから」
「……言ったはずですよ。あなたの盗撮映像を拡散することもできると」
「上等……変態の言いなりになるよりはマシ」
三葉が強がっていることは、シオンでもわかった。
「……あなたのスマホに電話をかけ続け、画面を着信状態に変えてしまえばすぐにあの写真を見られることはありません。写真を見られる前に私が回収することも可能です」
「だったら、早く取りにいかないと。ほら、私たちのことは放っといていいよ。これからカラスくんを保健室に連れて行って、バンちゃんに色々報告しないとだし。私たちも忙しいんだよ」
「ええ、もちろんすぐに行きますよ。きついお灸をすえたらね」
一度は窓に駆け寄った津が、再び三葉へと歩み寄る。
確かな怒りを露わにした津を前にして三葉も後退るが、その後退は棚に阻まれてしまった。
「本当はその肢体を傷つけることはしたくなかったんですけれどね……。でも仕方ない。痛みに勝る教育はありませんから。安心していいですよ……死にたくなるほど痛いでしょうけど、顔だけは傷つけませんから」
シオンが叫んでも、駆け出しても間に合わない。
津の左手が三葉の首を掴み、右手は握り拳を構え。
三葉はその目をぎゅっと瞑って。
純夏が起き上がった。
「ミツ先輩!」
「えっ、きゃぁっ!」
純夏は三葉を抱きながら倒れ込み、その小さな体の上へ覆い被さった。
「っ! この期に及んで! お前はっ、まだ私からミヨを奪うのかっ! お前は!!」
津が純夏の横腹を蹴りあげ、背中を踏みつけ。
それでも、純夏は決して三葉の上から退かなかった。
「カラスくんっ! カラスくんっ!!」
「だいっじょぶ……ぐっ、だいじょぶっス……!」
「こっんのっ……!」
ついに津は純夏の根性に業を煮やし。
両手で傍らにあったパイプ椅子を持ち上げた。
『サナ!!』
『使ってもいいのか?』
『さすがにこれ以上はマズいよ!』
あんなものを無防備な背中に振り下ろされたら、良くて後遺症だ。
淫魔の力がどうとか言っている場合ではない。
『早くっ、急いで!』
『まあそう慌てるなよ。わざわざアタシが出しゃばらなくても、非力なシオンが無茶やらなくても。写真部のケリは写真部がつけるってよ?』
『え?』
パイプ椅子が振り下ろされるその間際。
重い打撃音が部室の中に鳴り響いた。
「あ゙っ、がはっ!?」
苦痛の声を漏らし跪いたのは津だ。
倒れ込むその体の陰には、重厚なフィルムカメラを両手で支える嶺二の姿があった。
「はっ……はっ……!」
嶺二の息遣いは荒く、酷く興奮した様子で。
手に持ったフィルムカメラには赤黒い液体が付着していた。
「お、お前っ!!」
「っ、ああぁぁぁっ!!」
振り返った津に向かって、もう一発。
「っ――!!」
そして、津は倒れ伏した。
「はぁっ……はぁっ……!」
「…………お、終わった?」
シオンの疑問に答える人間はいない。
純夏は苦しそうに呻き。
三葉は必死に純夏の名を呼び続け。
嶺二は倒れ伏した津に追撃を入れ始めた。
「は?」
「あぁっ! ああぁっ!! うわああぁぁっ!」
「ちょ、倉持先輩! もういいですから! それ以上は死んじゃいますからっ!!」
人を殴ったことによる興奮と、反撃を恐れるあまりの恐怖から暴走した嶺二はシオンだけでは止められず。
結局三葉とのふたりがかりでようやく止まってくれて。
幸いにも津は死んではいなかった。
どこかで聴いた覚えのある音。
それを三葉は津への答えとした。
「なっ……なにを……!?」
何をしているのか理解できないという津の狼狽。
シオンも三葉が何をしているのかわからなかった。
この状況でそれをする理由がわからなかった。
「……ふっ……何って……。写真撮影だよ、サトシン?」
音の正体は、三葉のスマホのシャッター音だ。
三葉は自身と津の姿を写すように自撮りをしていた。
「サトシンが無理やり証拠消させるからさー……新しく作っちゃった♪」
「なっ!?」
「ふふっ、これはもう言い訳できないよねー。女生徒にこんな密着して羽交い絞めとかさー……誰かに見られたら終わりだよ」
「渡しなさ――」
「渡すわけないじゃん」
三葉が腕をブンと振ると、その手からスマホが空へと投げ出された。
「っ!?」
スマホの向かう先には誰もいない。
ただ一直線に、開け放たれた窓の向こうへと――
「くっ!」
津が腕を伸ばしても届かない。
咄嗟に駆けても及びもしない。
落下音すらも聞こえない距離へ、津の暴行を収めたスマホは飛んで行った。
「これでもう逃げられないよ。ここで何したって、あのスマホにはバッチリ証拠が写ってる。落下の衝撃でスマホが壊れるなんて期待はしないでね。写真部部長でありスマホ派筆頭の私が、そんなヤワな物使ってるわけないから」
「……言ったはずですよ。あなたの盗撮映像を拡散することもできると」
「上等……変態の言いなりになるよりはマシ」
三葉が強がっていることは、シオンでもわかった。
「……あなたのスマホに電話をかけ続け、画面を着信状態に変えてしまえばすぐにあの写真を見られることはありません。写真を見られる前に私が回収することも可能です」
「だったら、早く取りにいかないと。ほら、私たちのことは放っといていいよ。これからカラスくんを保健室に連れて行って、バンちゃんに色々報告しないとだし。私たちも忙しいんだよ」
「ええ、もちろんすぐに行きますよ。きついお灸をすえたらね」
一度は窓に駆け寄った津が、再び三葉へと歩み寄る。
確かな怒りを露わにした津を前にして三葉も後退るが、その後退は棚に阻まれてしまった。
「本当はその肢体を傷つけることはしたくなかったんですけれどね……。でも仕方ない。痛みに勝る教育はありませんから。安心していいですよ……死にたくなるほど痛いでしょうけど、顔だけは傷つけませんから」
シオンが叫んでも、駆け出しても間に合わない。
津の左手が三葉の首を掴み、右手は握り拳を構え。
三葉はその目をぎゅっと瞑って。
純夏が起き上がった。
「ミツ先輩!」
「えっ、きゃぁっ!」
純夏は三葉を抱きながら倒れ込み、その小さな体の上へ覆い被さった。
「っ! この期に及んで! お前はっ、まだ私からミヨを奪うのかっ! お前は!!」
津が純夏の横腹を蹴りあげ、背中を踏みつけ。
それでも、純夏は決して三葉の上から退かなかった。
「カラスくんっ! カラスくんっ!!」
「だいっじょぶ……ぐっ、だいじょぶっス……!」
「こっんのっ……!」
ついに津は純夏の根性に業を煮やし。
両手で傍らにあったパイプ椅子を持ち上げた。
『サナ!!』
『使ってもいいのか?』
『さすがにこれ以上はマズいよ!』
あんなものを無防備な背中に振り下ろされたら、良くて後遺症だ。
淫魔の力がどうとか言っている場合ではない。
『早くっ、急いで!』
『まあそう慌てるなよ。わざわざアタシが出しゃばらなくても、非力なシオンが無茶やらなくても。写真部のケリは写真部がつけるってよ?』
『え?』
パイプ椅子が振り下ろされるその間際。
重い打撃音が部室の中に鳴り響いた。
「あ゙っ、がはっ!?」
苦痛の声を漏らし跪いたのは津だ。
倒れ込むその体の陰には、重厚なフィルムカメラを両手で支える嶺二の姿があった。
「はっ……はっ……!」
嶺二の息遣いは荒く、酷く興奮した様子で。
手に持ったフィルムカメラには赤黒い液体が付着していた。
「お、お前っ!!」
「っ、ああぁぁぁっ!!」
振り返った津に向かって、もう一発。
「っ――!!」
そして、津は倒れ伏した。
「はぁっ……はぁっ……!」
「…………お、終わった?」
シオンの疑問に答える人間はいない。
純夏は苦しそうに呻き。
三葉は必死に純夏の名を呼び続け。
嶺二は倒れ伏した津に追撃を入れ始めた。
「は?」
「あぁっ! ああぁっ!! うわああぁぁっ!」
「ちょ、倉持先輩! もういいですから! それ以上は死んじゃいますからっ!!」
人を殴ったことによる興奮と、反撃を恐れるあまりの恐怖から暴走した嶺二はシオンだけでは止められず。
結局三葉とのふたりがかりでようやく止まってくれて。
幸いにも津は死んではいなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
時の呪縛
葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。
葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。
果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる