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24. 最終推理
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「みっともないですね、佐藤先生」
「……なに?」
シオンの発言に対して、津は不愉快そうに眉根を寄せた。
「いま、なんと言いましたか? 十八女君。烏丸君の声がうるさいせいでよく聞こえませんでした。もう一度お願いできますか?」
「ぐっ!」
津が純夏を踏みつけた。
もう一度愚弄すれば、更に純夏を痛めつける。
そう言っているのだろう。
それでも、シオンは一歩も引き下がることなく、津をまっすぐに見据えて答えた。
「何度でも言いますよ、先生。恋敵だからと言って、烏丸くんに嫉妬する姿は見苦しい。そう言ったんです」
「何ですって……?」
『……あん? シオン、なんか推理と違くねぇか?』
サナの言う通り、純夏への恨みと三葉への恋心に関連性は見いだせていない。
『……脚色した方がダメージ高いかなって』
『そのために短髪とおさげを恋人ってことにするのか? クックッ、そりゃ嫌だろうなぁ。盗撮するほど焦がれてる女と、盗撮カメラをおしゃかにした男が恋仲なんてなぁ』
「恋敵……? 烏丸君に嫉妬……? はて、いったい何のことなのか――」
「今更隠す必要なんてありませんよ。部室を盗撮し着替えを覗いていたことから、先生が相田さんに気があるのは明白です。誰だってわかります。というか、どうなんですか盗撮って。意味がわからないですよね。生徒に恋するのは理解できないですし、ましてや疚しい気持ちで見るだけでもありえないんですけど、よりにもよって盗撮って……。その髪型はなんのために七三にしてるんですか?」
意図的な誇張。
根拠のない決めつけ。
反論を許さない言葉攻め。
そして意味のない罵倒。
探偵としてはあるまじきだが、人質を助けるためゆえ仕方ない。
うん、仕方ない。
「……っ、十八女君は大した根拠もなく私を罵倒しているようですが――」
「そして相田さんと烏丸くんが付き合っているのは周知の事実ですから。先生もふたりがラブラブなのはもちろん知っていましたよね。わかりますよ、烏丸くんはあなたとは対照的な好青年ですし。ちょっとそそっかしいところはありますけど、陰湿な盗撮犯と比べたら全然可愛気があります。だから嫉妬したんですよね。そして、プリンを食べて濡れ衣でふたりの破局を願ったんですよね。いやー、ほんと醜いですね、モテない男の人の嫉妬って。しかもプリンを盗み食いとかやることがショボくないですか? そんなんだから失恋するんで――」
「していない! 私は、まだフラれたわけじゃない!!」
「っ!?」
髪を振り乱し、必死な形相で、ツバがこちらまで飛んできそうな勢いで。
津はシオンの言葉を否定した。
「こんな奴に嫉妬なんてするものか! こいつは、こいつはミヨとは付き合っていないはずだ! こいつが片思いしているだけだ!! 知ってるんだ、私は! こいつとミヨが両想いなんてありえない! ああそうだ! こいつは、私のミヨに色目を使って……! こんなやつにミヨのプリンはもったいない! こいつがミヨからのプレゼントを口にするなんてあってはいけないんだ! ……だから、制裁してやろうと思ったのに、それなのに!!」
紳士的な言葉遣いも、整えられた髪型もかなぐり捨てて。
津は本性を現した。
『……ね、ねえ、サナ?』
『んー?』
『サナの助言通りに先生の知られたくないことを推理したんだけど……よく考えたらそれって神経を逆撫ですることだよね。本当に、これで事態は好転するのかな?』
『……知らね』
「……なに?」
シオンの発言に対して、津は不愉快そうに眉根を寄せた。
「いま、なんと言いましたか? 十八女君。烏丸君の声がうるさいせいでよく聞こえませんでした。もう一度お願いできますか?」
「ぐっ!」
津が純夏を踏みつけた。
もう一度愚弄すれば、更に純夏を痛めつける。
そう言っているのだろう。
それでも、シオンは一歩も引き下がることなく、津をまっすぐに見据えて答えた。
「何度でも言いますよ、先生。恋敵だからと言って、烏丸くんに嫉妬する姿は見苦しい。そう言ったんです」
「何ですって……?」
『……あん? シオン、なんか推理と違くねぇか?』
サナの言う通り、純夏への恨みと三葉への恋心に関連性は見いだせていない。
『……脚色した方がダメージ高いかなって』
『そのために短髪とおさげを恋人ってことにするのか? クックッ、そりゃ嫌だろうなぁ。盗撮するほど焦がれてる女と、盗撮カメラをおしゃかにした男が恋仲なんてなぁ』
「恋敵……? 烏丸君に嫉妬……? はて、いったい何のことなのか――」
「今更隠す必要なんてありませんよ。部室を盗撮し着替えを覗いていたことから、先生が相田さんに気があるのは明白です。誰だってわかります。というか、どうなんですか盗撮って。意味がわからないですよね。生徒に恋するのは理解できないですし、ましてや疚しい気持ちで見るだけでもありえないんですけど、よりにもよって盗撮って……。その髪型はなんのために七三にしてるんですか?」
意図的な誇張。
根拠のない決めつけ。
反論を許さない言葉攻め。
そして意味のない罵倒。
探偵としてはあるまじきだが、人質を助けるためゆえ仕方ない。
うん、仕方ない。
「……っ、十八女君は大した根拠もなく私を罵倒しているようですが――」
「そして相田さんと烏丸くんが付き合っているのは周知の事実ですから。先生もふたりがラブラブなのはもちろん知っていましたよね。わかりますよ、烏丸くんはあなたとは対照的な好青年ですし。ちょっとそそっかしいところはありますけど、陰湿な盗撮犯と比べたら全然可愛気があります。だから嫉妬したんですよね。そして、プリンを食べて濡れ衣でふたりの破局を願ったんですよね。いやー、ほんと醜いですね、モテない男の人の嫉妬って。しかもプリンを盗み食いとかやることがショボくないですか? そんなんだから失恋するんで――」
「していない! 私は、まだフラれたわけじゃない!!」
「っ!?」
髪を振り乱し、必死な形相で、ツバがこちらまで飛んできそうな勢いで。
津はシオンの言葉を否定した。
「こんな奴に嫉妬なんてするものか! こいつは、こいつはミヨとは付き合っていないはずだ! こいつが片思いしているだけだ!! 知ってるんだ、私は! こいつとミヨが両想いなんてありえない! ああそうだ! こいつは、私のミヨに色目を使って……! こんなやつにミヨのプリンはもったいない! こいつがミヨからのプレゼントを口にするなんてあってはいけないんだ! ……だから、制裁してやろうと思ったのに、それなのに!!」
紳士的な言葉遣いも、整えられた髪型もかなぐり捨てて。
津は本性を現した。
『……ね、ねえ、サナ?』
『んー?』
『サナの助言通りに先生の知られたくないことを推理したんだけど……よく考えたらそれって神経を逆撫ですることだよね。本当に、これで事態は好転するのかな?』
『……知らね』
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