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22. 調査:写真
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「わっ」
部室の扉を開けた途端に、強い風が一行を迎え入れた。
「窓閉めるの忘れてた……」
三葉の呟きには一欠片も反省の色が見られない。
それでも、誰も不注意を咎めることはなかった。
「……」
開け放たれた窓から入り込む風がカーテンを揺らし、差し込む夕日が部室を赤く染め上げている。
頬を撫でる風は爽やかな一方で、めくれ上がったカーテンの裏には人影が隠れていそうな。
輝く赤は綺麗だけれど、その中に混ざり込んだ暗がりが不安を煽り立てる。
まるで自分たちの心の中を写し込んだような、そんな夕暮れの部室にシオンは戻ってきた。
『そもそも、窓を開けて閉めなかったのはシオンだけどな?』
『そうだっけ……?』
「このアルバムよ。カラスくんがUSBメモリを壊した瞬間の写真を保管してるのは」
アルバムがぎっしりと詰まった棚から、三葉は少しも迷うことなくそれを取り出した。
ずっしりとしたアルバムはテーブルの上に置かれ、それを写真部の3人が囲む。
その様子を、シオンは入り口付近から眺めていた。
『シオンの門番にどれほどの意味があるのかねぇ……』
『いないよりはマシなの! ……多分』
シオンは津が逃亡しないよう入り口を固める役割であり、写真を確認するのは部員の3人の役目だ。
門番が一番頼りないことはシオンも自覚している。
「……じゃあ、開くよ?」
三葉が顔を見回しても、誰も声を発しない。
シオンも、純夏も、嶺二も。
じわじわと近づいてくるその瞬間に、緊張を隠し切れていない。
津もいまのところは大人しい。
部室までの道のりでも一切口を挟むことなく、抵抗もなく、ここまでついてきている。
「……っ、確か、後ろの方にあったと思うんだけど……」
そう言うと、三葉はページを先頭からめくり始めた。
1ページずつ、1枚ずつ確認するように。
「…………」
三葉は黙々とアルバムをめくり続けている。
しかしやがて沈黙に耐えかねたのか、気まずそうにその口を開いた。
「……当たり前だけどさ。私、その写真見るの初めてじゃないんだよね」
「……僕もですよ」
「でも、当時は特に何も思わなかった。もちろんカメラなんて意識してなかったし、カラスくんの表情がすごく可笑しかったから、そっちばっかり見ちゃってたせいもあるのかなとは思うけど……。レイくんは?」
「まあ、だいたい同じです」
「俺は写真は見たことないっスね」
「……ぷふっ」
純夏の言葉を受けて、突然三葉が笑みを零した。
「むしろ、カラスくんは壊したUSBメモリを直接片付けてるじゃない」
「うっ……そうっスね」
「ふっ、ふふっ……あの時のカラスくん、可笑しかったなー。破片を片付けるのはいいんだけど、箒で床のゴミまで巻き込んで掃いちゃってさ。それで、ゴミが入り混じってるビニール渡しながらサトシンに謝ってるんだもん。そりゃ怒るよ……あははっ」
「いや、だって手で拾い切れなかったっスから、仕方なく……」
「そう、そうだよね……うん、仕方ない……。でもさ、そんな仕方ないくらいに細かくなっちゃった破片を見たとして、私たちに判断できるのかな。カメラ機能があるのかどうかなんて」
「……わかりそうにないっスね」
三葉の言葉に同意したのは純夏だけだった。
「うん、カラスくんと同じ。私も多分わかんない。きっとわかるのは……」
「……」
「……嶺二さん」
写真部の名を冠しているものの、カメラに詳しい部員は少数派であり、この場には嶺二しかいない。
自然と示し合わせることもなく、三葉もその指の動きを止めて。
みんなが嶺二を見ていた。
嶺二の言葉を、待っていた。
部室の扉を開けた途端に、強い風が一行を迎え入れた。
「窓閉めるの忘れてた……」
三葉の呟きには一欠片も反省の色が見られない。
それでも、誰も不注意を咎めることはなかった。
「……」
開け放たれた窓から入り込む風がカーテンを揺らし、差し込む夕日が部室を赤く染め上げている。
頬を撫でる風は爽やかな一方で、めくれ上がったカーテンの裏には人影が隠れていそうな。
輝く赤は綺麗だけれど、その中に混ざり込んだ暗がりが不安を煽り立てる。
まるで自分たちの心の中を写し込んだような、そんな夕暮れの部室にシオンは戻ってきた。
『そもそも、窓を開けて閉めなかったのはシオンだけどな?』
『そうだっけ……?』
「このアルバムよ。カラスくんがUSBメモリを壊した瞬間の写真を保管してるのは」
アルバムがぎっしりと詰まった棚から、三葉は少しも迷うことなくそれを取り出した。
ずっしりとしたアルバムはテーブルの上に置かれ、それを写真部の3人が囲む。
その様子を、シオンは入り口付近から眺めていた。
『シオンの門番にどれほどの意味があるのかねぇ……』
『いないよりはマシなの! ……多分』
シオンは津が逃亡しないよう入り口を固める役割であり、写真を確認するのは部員の3人の役目だ。
門番が一番頼りないことはシオンも自覚している。
「……じゃあ、開くよ?」
三葉が顔を見回しても、誰も声を発しない。
シオンも、純夏も、嶺二も。
じわじわと近づいてくるその瞬間に、緊張を隠し切れていない。
津もいまのところは大人しい。
部室までの道のりでも一切口を挟むことなく、抵抗もなく、ここまでついてきている。
「……っ、確か、後ろの方にあったと思うんだけど……」
そう言うと、三葉はページを先頭からめくり始めた。
1ページずつ、1枚ずつ確認するように。
「…………」
三葉は黙々とアルバムをめくり続けている。
しかしやがて沈黙に耐えかねたのか、気まずそうにその口を開いた。
「……当たり前だけどさ。私、その写真見るの初めてじゃないんだよね」
「……僕もですよ」
「でも、当時は特に何も思わなかった。もちろんカメラなんて意識してなかったし、カラスくんの表情がすごく可笑しかったから、そっちばっかり見ちゃってたせいもあるのかなとは思うけど……。レイくんは?」
「まあ、だいたい同じです」
「俺は写真は見たことないっスね」
「……ぷふっ」
純夏の言葉を受けて、突然三葉が笑みを零した。
「むしろ、カラスくんは壊したUSBメモリを直接片付けてるじゃない」
「うっ……そうっスね」
「ふっ、ふふっ……あの時のカラスくん、可笑しかったなー。破片を片付けるのはいいんだけど、箒で床のゴミまで巻き込んで掃いちゃってさ。それで、ゴミが入り混じってるビニール渡しながらサトシンに謝ってるんだもん。そりゃ怒るよ……あははっ」
「いや、だって手で拾い切れなかったっスから、仕方なく……」
「そう、そうだよね……うん、仕方ない……。でもさ、そんな仕方ないくらいに細かくなっちゃった破片を見たとして、私たちに判断できるのかな。カメラ機能があるのかどうかなんて」
「……わかりそうにないっスね」
三葉の言葉に同意したのは純夏だけだった。
「うん、カラスくんと同じ。私も多分わかんない。きっとわかるのは……」
「……」
「……嶺二さん」
写真部の名を冠しているものの、カメラに詳しい部員は少数派であり、この場には嶺二しかいない。
自然と示し合わせることもなく、三葉もその指の動きを止めて。
みんなが嶺二を見ていた。
嶺二の言葉を、待っていた。
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