ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

papporopueeee

文字の大きさ
上 下
55 / 68
21. 追及:証拠

1

しおりを挟む
 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。

「リフォームに必要な工具が欲しい」

「工具?」

「それはなんですの?」

 ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。

「人族が使う道具や」

 ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
 九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。

「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」

「旦那様は人族のようなことを言うんやね」

 確かに、今の発言は迂闊うかつすぎたかもしれない。

「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠とさかもゴミです」

 気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属けんぞく

「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」

「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」

「ギンコは?」

「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」

「尻尾割れてるくせに偉そうに」

「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」

「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」

 今日もバチバチにやり合っている二人。
 ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。

「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」

「ウル~ッ」

 圧倒的癒やし!

 急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。

「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」

「仕方ありませんね」

 いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
 よっぽど太陽が嫌いらしい。

 そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
 ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。

 背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。

 さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。

「どう見ても人間には見えへんよな」

 自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。

 別段、変化はない。
 ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。

 ホンマかよ――

 と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。

 おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
 彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。

「これ何の魔法?」

 ギンコが無言で首を振る。
 喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。

「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」

 息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。

 俺、そんな魔法使えないんやけど……。

「あと、もう一つ」

 またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。

「うおぉ!」

「これも子供騙しです」

 これなら誰が見ても人族だ。
 大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。

 近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。

 到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
 街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかをかついでいる。

 大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。

「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」

 人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。

 こういう時は――

「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」

「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」

「そんな感じです」

「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」

「ありがとうございます」

 普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
 ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。

 早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。

「初めてなんですけど」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」

「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」

「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」

リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠とさかをカウンターに取り出す。

「……………………」

 さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。

 すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。

「待ってろ」

 続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
 目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。

「デスクックだ」

 やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。

 「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」

 ツレが倒した、と言いそうになる口をつぐんで頷く。

 疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
 ごめん、クスィーちゃん。

「金貨千枚を出す。構わないか?」

 ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。

 この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。

「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」

「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」

「ドワーフ! ありがとうございます」

 あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。

「デスクックってレアモンスターなんか?」

「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」

 相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
 でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。

 見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。

 俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それ、あるいはあれの物語

鬼霧宗作
ミステリー
 これは、それ――あるいはアレにまつわる物語。それをどう読み解こうが、どう解釈しようが、それはあなたの自由です。  並べ立てられた、短くとも意味深な物語。  それらの解釈は、人それぞれで良い。 ※現在、第二話まで掲載中。  こちらは不定期更新となります。

孤島の洋館と死者の証言

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お嬢様と少年執事は死を招く

リオール
ホラー
金髪碧眼、まるで人形のような美少女リアナお嬢様。 そして彼女に従うは少年執事のリュート。 彼女達と出会う人々は、必ず何かしらの理不尽に苦しんでいた。 そんな人々を二人は救うのか。それとも… 二人は天使なのか悪魔なのか。 どこから来たのか、いつから存在するのか。 それは誰にも分からない。 今日も彼女達は、理不尽への復讐を願う者の元を訪れる…… ※オムニバス形式です

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

となりの音鳴さん

翠山都
ホラー
 新たに引っ越してきたコーポ強井の隣室、四〇四号室には音鳴さんという女性が住んでいる。背が高くて痩身で、存在感のあまりない、名前とは真逆な印象のもの静かな女性だ。これまでご近所トラブルに散々悩まされてきた私は、お隣に住むのがそんな女性だったことで安心していた。  けれども、その部屋に住み続けるうちに、お隣さんの意外な一面が色々と見えてきて……?  私とお隣さんとの交流を描くご近所イヤミス風ホラー。

勿忘草 ~人形の涙~

夢華彩音
ミステリー
私、麻生明莉は村を治めている『麻生家』のお嬢様。 麻生家に生まれた者はその生涯を村に捧げなくてはならない。 “おきて”に縛り付けられている村。 「私は自由に生きたい。何も縛られずに、自分の心の向くまま。……それさえも許されないの?」 これは、抗うことの出来ない“役目”に振り回され続ける明莉の悲運な物語。 勿忘草(ワスレナグサ)シリーズ第2弾 <挿絵 : パラソルさんに描いて頂きました> 《面白いと感じてくださったら是非お気に入り登録 又はコメントしてくださると嬉しいです。今後の励みになります》

処理中です...