ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

papporopueeee

文字の大きさ
上 下
47 / 68
18. 推理:方法

1

しおりを挟む
 疑惑の視線に囲まれていることも意に介さず、津はノートPCを持って立ち去ろうとしている。

『どうしよう……! どうしよう、サナ!』
『そんな子犬みたいにせがまれてもなぁ……。むしろ、焦らしプレイ受けてんのはアタシの方なんだぜ?』

 謎解きを好むサナにとっても、津にここで逃げられることは都合が悪いのだろう。
 犯人を追い詰めることができない推理小説なんて、娯楽の真逆に位置するものだ。

『そんなの先生に言ってよ! 先生を追及する材料が見つからないから、こうやってみすみす逃がそうとしてるんじゃ――』
『違えなぁ、シオン。こんな、涎をダラダラ垂らすようなメス犬になっちまうまでアタシを焦らしてんのは……お前だよ』
『え……?』
『んー? その様子だと無自覚だったのか? クックッ、こりゃ天性のサディストだ。あどけない顔して、天職は探偵じゃなくて調教師だったか?』

 言葉の意味がわからなくて、シオンの頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

 サナの言い方はまるで、シオンが答えを出し渋っているような物言いだ。

『ちょ、ちょっと待ってよ! ボクが一体何を焦らしてるっていうのさ』
『お前が言ったことさ、シオン。アタシは、お前がその口から発したことを復唱するだけだぜ……? どうしてこの教師が、短髪鳥頭が一番怪しいだなんて言えるんだよ?』

” どうして先生が、烏丸くんが一番怪しいなんて言えるんですか? ”

 それは確かにシオンが発した言葉だ。
 尋問している際に、津の発言に対してはっきりと異を唱えた瞬間だ。

 佐藤津が烏丸純夏を怪しむことはおかしい、と。

『でも、それは佐藤先生が烏丸くんが部室に入ったことを知っていたから…………っ?』

 写真部部室での推理時、状況的に最も怪しかったのは純夏だった。
 何故なら、部室に入室した人数と時間をシオン達は把握していたからだ。

 逆に言えば、入室した人数と時間を把握していなければ純夏が最も怪しいと言うことはできない。
 三葉、純夏、嶺二の入室を知っていても、それ以外の人間が入室した可能性があるのだから。

 鍵の番人でもなく、万紀から証言を聞いたわけでもない津が、どうしてそんな発言をしたのか。

『頼むぜ、もう我慢できなくて中がぐじゅぐじゅになっちまってんだ。早くお前の声をアタシの中まで響かせて、奥の奥まで突き上げてくれよ』
『……先生が深く考えずに発言しただけという可能性もあるけど。でも、もしも――』

 もしも、津が部室に入った人間を完璧に把握していたのだとしたら……?

『でも入室した人間を全て把握するなんて、それこそ番人でもしてないと無理だ。近藤先生に聞いた素振りもなさそうだし……』

 もしも万紀から聞いていたのだとしたら、昼休みに見かけたなんて言う必要がない。
 それに万紀に確認すれば津に話したかどうかもすぐにわかることだ。

『……まさか、いやでも……そんな……』

 思いつくことはある。
 というよりも、これしか思いつかない。

 津は万紀と違い授業を行う教師なのだ。
 教室で拘束される時間が存在する以上、リアルタイムで入室を確認することは不可能だ。

『どうした? 早くイっちまえよ……。もう、わかってるんだろ?』

 津が部室の入室状況を把握する方法なんて1つしかない。

 録画した入室の様子を、後から目で見て確認する以外にありえない。

『……佐藤先生は、おそらく部室を盗撮をしている』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放浪探偵の呪詛返し

紫音
ミステリー
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて異能賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  観光好きで放浪癖のある青年・永久天満は、なぜか行く先々で怪奇現象に悩まされている人々と出会う。しかしそれは三百年前から定められた必然だった。怪異の謎を解き明かし、呪いを返り討ちにするライトミステリー。 ※2024/11/7より第二部(第五章以降)の連載を始めました。  

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

となりの音鳴さん

翠山都
ホラー
 新たに引っ越してきたコーポ強井の隣室、四〇四号室には音鳴さんという女性が住んでいる。背が高くて痩身で、存在感のあまりない、名前とは真逆な印象のもの静かな女性だ。これまでご近所トラブルに散々悩まされてきた私は、お隣に住むのがそんな女性だったことで安心していた。  けれども、その部屋に住み続けるうちに、お隣さんの意外な一面が色々と見えてきて……?  私とお隣さんとの交流を描くご近所イヤミス風ホラー。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

勿忘草 ~人形の涙~

夢華彩音
ミステリー
私、麻生明莉は村を治めている『麻生家』のお嬢様。 麻生家に生まれた者はその生涯を村に捧げなくてはならない。 “おきて”に縛り付けられている村。 「私は自由に生きたい。何も縛られずに、自分の心の向くまま。……それさえも許されないの?」 これは、抗うことの出来ない“役目”に振り回され続ける明莉の悲運な物語。 勿忘草(ワスレナグサ)シリーズ第2弾 <挿絵 : パラソルさんに描いて頂きました> 《面白いと感じてくださったら是非お気に入り登録 又はコメントしてくださると嬉しいです。今後の励みになります》

お嬢様と少年執事は死を招く

リオール
ホラー
金髪碧眼、まるで人形のような美少女リアナお嬢様。 そして彼女に従うは少年執事のリュート。 彼女達と出会う人々は、必ず何かしらの理不尽に苦しんでいた。 そんな人々を二人は救うのか。それとも… 二人は天使なのか悪魔なのか。 どこから来たのか、いつから存在するのか。 それは誰にも分からない。 今日も彼女達は、理不尽への復讐を願う者の元を訪れる…… ※オムニバス形式です

処理中です...