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16. 証言:佐藤 津
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「私は授業を終えた後、教室で少しだけ生徒からの質問に答えてから職員室に戻りました」
「そして、職員室前の廊下に差し掛かったところで烏丸君を見かけたんです」
「烏丸君は小走りで去ってしまったので、私のことは見えていなかったと思います」
「後ろ姿を見ただけなので、何を持っていたかはよくわからなかったですね」
「ただ、部室棟の方へ向かっていたので、昼休みに部室に入ったと推測していました」
「私から話せることはこれくらいでしょうか……」
津の証言はとても短かった。
一応、純夏の描写もあるにはあったが……。
「烏丸くん、小走りで部室棟へ向かったっていうのは本当?」
「んー……。まあ、小走りと言えば小走りだったかな」
小走りというのは曖昧な表現ではあるが、それでも証言と事実は一致しているようだ。
しかし、これだけでは疑念を覆すには至らない。
できることならばもっと明確な証言を引き出したいところではある。
「探偵君も、これで納得しましたか?」
「むっ……」
口調こそ丁寧なものの、シオンを馬鹿にしている態度が津からは窺えた。
『探偵を挑発するなんてバカだねぇ。やるならご機嫌取りだろうに』
『ゴマをすられたって、ボクは懐柔されたりなんてしないけどね』
『そうだなぁ……シオンはアタシに首ったけだからなぁ』
『……』
『顔が赤いぜ? シオン』
サナに付き合っていると思考が発散して仕方がない。
シオンは1つ深呼吸をすると、改めて津へ向き直った。
「後ろ姿しか見えなかったから持ち物はよくわからなかった……それは本当ですか?」
「何かおかしいですか? 後ろからでは正面は見えないのですから、自然なことだと思いますが」
純夏が荷物を正面に抱えていれば、確かにその詳細はわからないだろう。
しかし、手から提げていたのであれば体の前後は関係がない。
” 確かに俺は昼休みに近藤先生に鍵を借りて部室に入った。
でも、それは昼飯を食いながらPCで作業するためだったんだ! ”
純夏は部室で昼ご飯を食べている。
職員室を出てからまっすぐに部室棟へ向かったのなら、津が目撃した時点で弁当の類を手から提げていた可能性が高い。
純夏が何を持っているか背後からでは全くわからなかったと、津がそう証言すればここから崩せる可能性はある。
「…………あぁっ、そういえば――」
深く考え込んだ後に、津は思い出したかのように口を開いた。
「烏丸君、ビニール袋を手に持っていませんでしたか? 多分、あの中には烏丸君のお昼ご飯が入っていたと推測してるんですけど」
「そうっスね。いつも登校の途中でコンビニに寄って昼飯買ってるんで」
津は、純夏が部室に向かう途中で持っていた物を言い当てて見せた。
シオンは部屋の中の空気が緩むのを感じた。
どうやら部員たちから津への疑惑が薄まってしまったようだ。
「そして、職員室前の廊下に差し掛かったところで烏丸君を見かけたんです」
「烏丸君は小走りで去ってしまったので、私のことは見えていなかったと思います」
「後ろ姿を見ただけなので、何を持っていたかはよくわからなかったですね」
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「私から話せることはこれくらいでしょうか……」
津の証言はとても短かった。
一応、純夏の描写もあるにはあったが……。
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「んー……。まあ、小走りと言えば小走りだったかな」
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しかし、これだけでは疑念を覆すには至らない。
できることならばもっと明確な証言を引き出したいところではある。
「探偵君も、これで納得しましたか?」
「むっ……」
口調こそ丁寧なものの、シオンを馬鹿にしている態度が津からは窺えた。
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『ゴマをすられたって、ボクは懐柔されたりなんてしないけどね』
『そうだなぁ……シオンはアタシに首ったけだからなぁ』
『……』
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シオンは1つ深呼吸をすると、改めて津へ向き直った。
「後ろ姿しか見えなかったから持ち物はよくわからなかった……それは本当ですか?」
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純夏が荷物を正面に抱えていれば、確かにその詳細はわからないだろう。
しかし、手から提げていたのであれば体の前後は関係がない。
” 確かに俺は昼休みに近藤先生に鍵を借りて部室に入った。
でも、それは昼飯を食いながらPCで作業するためだったんだ! ”
純夏は部室で昼ご飯を食べている。
職員室を出てからまっすぐに部室棟へ向かったのなら、津が目撃した時点で弁当の類を手から提げていた可能性が高い。
純夏が何を持っているか背後からでは全くわからなかったと、津がそう証言すればここから崩せる可能性はある。
「…………あぁっ、そういえば――」
深く考え込んだ後に、津は思い出したかのように口を開いた。
「烏丸君、ビニール袋を手に持っていませんでしたか? 多分、あの中には烏丸君のお昼ご飯が入っていたと推測してるんですけど」
「そうっスね。いつも登校の途中でコンビニに寄って昼飯買ってるんで」
津は、純夏が部室に向かう途中で持っていた物を言い当てて見せた。
シオンは部屋の中の空気が緩むのを感じた。
どうやら部員たちから津への疑惑が薄まってしまったようだ。
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