ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

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2. 現場検証:写真部部室

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「どうぞ、ここがうちの部室よ」
「失礼します」

 案内されたのは部室棟の2階にある一室だった。

 部屋の広さは先ほどまでいた探偵同好会の部屋よりも一回り程度大きい。
 この広さの部屋を割り当てられているとなると、写真部に所属している部員は10人以上はいそうだ。

「これがプリンをしまっておいた冷蔵庫よ」

 そう言って三葉は入り口脇に設置されている小型の冷蔵庫を指差した。

「中を確認してもいいですか?」
「どうぞ」
「……中に入っているのはジュースと……やけにお菓子が多いですね」

 目につくのはプリンが保管されていたであろう空のスペースと、緑色のジュースが入ったペットボトルが9本。
 そしてたくさんの冷蔵菓子が詰め込まれていた。

「そのお菓子も限定物ってことでちょっと前に買い置きしたの。写真を撮影したあとは、みんなのおやつになってるわ」
「それにしても多いですね」
「それでも減った方なんだけどねー、何せちょっと独特で……思音くんも良かったら食べていいわよ?」
「ほんとですか? それじゃあ、いただきます」

 独特とは言っても、冷蔵タイプのお菓子でそうまずいということもあるまい。

 放課後の小腹が空いてきたタイミングにはちょうどいいと、シオンは個包装の菓子を開けると口の中に放り込んだ。

「……っ!」

『どうした? シオン。まるで初めて男の味を知った処女みてぇな顔してるぜ?
『まっ、まずい……! いや、まずくはない……いや、やっぱりまずい……!』
『どっちなんだよ……』

 口に入れた瞬間に広がる不快な食感。
 まるで納豆の粘り気でマシュマロを作ったような……どれだけ噛んでも口の中に残り続けて、焦がしすぎた砂糖のような甘味が舌に張り付いてしまったような錯覚に陥る。

「あはは、やっぱりお口に合わなかったみたいね。ゴミ箱に吐き出しちゃってもいいわよ?」
「っ……んっくっ、い、いえ、大丈夫です」

 シオンは口の中のお菓子を猛烈に噛み、なんとか喉の奥へと流し込んだ。

「冷蔵庫を開けたら必ず一個は食べることってノルマを作ってるんだけどね。まあ、誰も食べなくてこの有様なのよ」
「冷蔵庫を開けたらということは、相田先輩も今朝にこれを食べたんですか?」
「……」

 どうやら食べていないらしい。
 言い出しっぺがこれではみんなノルマなんて無視するだろう。

「……えっと、ここにプリンが入っていたんですよね?」
「ええ、そうよ。小さい冷蔵庫だから、しまうスペースを作るのに苦労したわ」
「こちらのジュースは?」
「それも今日の朝に持ち込んだの。理由はプリンと同じね。珍しいジュースだから、部員のみんなで飲んでる姿を撮影して学内のSNSにアップしようと思って」
「な、なるほど……」

 先ほどから話を聞いている限り、部活動を理由に珍しいお菓子やらジュースを食べているだけな印象を受ける。

 写真部というよりは、ユーチューバーの方が名前として適切ではなかろうか。

「部員全員分のジュースをプリンと一緒に冷蔵庫にしまった……。ということは、写真部は全員で9人なんですね?」
「? 10人だけど?」
「えっ? でも、ペットボトルの数は9本しかないですよ?」
「嘘でしょ……? 1、2、3……ほんとだ。朝には確かに10本確認してるのに」

 どうやら、無くなったのはプリンだけではないらしい。

「盗まれていたのはプリンだけではなく、相田先輩が一緒にしまっておいたジュースも1本盗まれていた……」
「プリン食べるついでに飲んだのかしらね。全く、許せないわ。部費をなんだと思ってるのよ」

 プリンやらジュースも部費で購入していたようだ。

 部費をなんだと思っているのだろうか……。

「冷蔵庫は他には見る物はなさそうですね……。部室の中を見学させてもらってもいいですか?」
「いいわよ。棚にはカメラもしまってあるから、それだけ落としたりしないように気を付けてね」
「わかりました。それじゃあ――」

 シオンは一度後ろ髪の結びを解くと、改めて高い位置で結い直した。

 髪で隠れていたうなじが露わになり、ポニーテールが凛と揺れる。

『調査開始だな』
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