6 / 68
2. 現場検証:写真部部室
1
しおりを挟む
「どうぞ、ここがうちの部室よ」
「失礼します」
案内されたのは部室棟の2階にある一室だった。
部屋の広さは先ほどまでいた探偵同好会の部屋よりも一回り程度大きい。
この広さの部屋を割り当てられているとなると、写真部に所属している部員は10人以上はいそうだ。
「これがプリンをしまっておいた冷蔵庫よ」
そう言って三葉は入り口脇に設置されている小型の冷蔵庫を指差した。
「中を確認してもいいですか?」
「どうぞ」
「……中に入っているのはジュースと……やけにお菓子が多いですね」
目につくのはプリンが保管されていたであろう空のスペースと、緑色のジュースが入ったペットボトルが9本。
そしてたくさんの冷蔵菓子が詰め込まれていた。
「そのお菓子も限定物ってことでちょっと前に買い置きしたの。写真を撮影したあとは、みんなのおやつになってるわ」
「それにしても多いですね」
「それでも減った方なんだけどねー、何せちょっと独特で……思音くんも良かったら食べていいわよ?」
「ほんとですか? それじゃあ、いただきます」
独特とは言っても、冷蔵タイプのお菓子でそうまずいということもあるまい。
放課後の小腹が空いてきたタイミングにはちょうどいいと、シオンは個包装の菓子を開けると口の中に放り込んだ。
「……っ!」
『どうした? シオン。まるで初めて男の味を知った処女みてぇな顔してるぜ?
『まっ、まずい……! いや、まずくはない……いや、やっぱりまずい……!』
『どっちなんだよ……』
口に入れた瞬間に広がる不快な食感。
まるで納豆の粘り気でマシュマロを作ったような……どれだけ噛んでも口の中に残り続けて、焦がしすぎた砂糖のような甘味が舌に張り付いてしまったような錯覚に陥る。
「あはは、やっぱりお口に合わなかったみたいね。ゴミ箱に吐き出しちゃってもいいわよ?」
「っ……んっくっ、い、いえ、大丈夫です」
シオンは口の中のお菓子を猛烈に噛み、なんとか喉の奥へと流し込んだ。
「冷蔵庫を開けたら必ず一個は食べることってノルマを作ってるんだけどね。まあ、誰も食べなくてこの有様なのよ」
「冷蔵庫を開けたらということは、相田先輩も今朝にこれを食べたんですか?」
「……」
どうやら食べていないらしい。
言い出しっぺがこれではみんなノルマなんて無視するだろう。
「……えっと、ここにプリンが入っていたんですよね?」
「ええ、そうよ。小さい冷蔵庫だから、しまうスペースを作るのに苦労したわ」
「こちらのジュースは?」
「それも今日の朝に持ち込んだの。理由はプリンと同じね。珍しいジュースだから、部員のみんなで飲んでる姿を撮影して学内のSNSにアップしようと思って」
「な、なるほど……」
先ほどから話を聞いている限り、部活動を理由に珍しいお菓子やらジュースを食べているだけな印象を受ける。
写真部というよりは、ユーチューバーの方が名前として適切ではなかろうか。
「部員全員分のジュースをプリンと一緒に冷蔵庫にしまった……。ということは、写真部は全員で9人なんですね?」
「? 10人だけど?」
「えっ? でも、ペットボトルの数は9本しかないですよ?」
「嘘でしょ……? 1、2、3……ほんとだ。朝には確かに10本確認してるのに」
どうやら、無くなったのはプリンだけではないらしい。
「盗まれていたのはプリンだけではなく、相田先輩が一緒にしまっておいたジュースも1本盗まれていた……」
「プリン食べるついでに飲んだのかしらね。全く、許せないわ。部費をなんだと思ってるのよ」
プリンやらジュースも部費で購入していたようだ。
部費をなんだと思っているのだろうか……。
「冷蔵庫は他には見る物はなさそうですね……。部室の中を見学させてもらってもいいですか?」
「いいわよ。棚にはカメラもしまってあるから、それだけ落としたりしないように気を付けてね」
「わかりました。それじゃあ――」
シオンは一度後ろ髪の結びを解くと、改めて高い位置で結い直した。
髪で隠れていたうなじが露わになり、ポニーテールが凛と揺れる。
『調査開始だな』
「失礼します」
案内されたのは部室棟の2階にある一室だった。
部屋の広さは先ほどまでいた探偵同好会の部屋よりも一回り程度大きい。
この広さの部屋を割り当てられているとなると、写真部に所属している部員は10人以上はいそうだ。
「これがプリンをしまっておいた冷蔵庫よ」
そう言って三葉は入り口脇に設置されている小型の冷蔵庫を指差した。
「中を確認してもいいですか?」
「どうぞ」
「……中に入っているのはジュースと……やけにお菓子が多いですね」
目につくのはプリンが保管されていたであろう空のスペースと、緑色のジュースが入ったペットボトルが9本。
そしてたくさんの冷蔵菓子が詰め込まれていた。
「そのお菓子も限定物ってことでちょっと前に買い置きしたの。写真を撮影したあとは、みんなのおやつになってるわ」
「それにしても多いですね」
「それでも減った方なんだけどねー、何せちょっと独特で……思音くんも良かったら食べていいわよ?」
「ほんとですか? それじゃあ、いただきます」
独特とは言っても、冷蔵タイプのお菓子でそうまずいということもあるまい。
放課後の小腹が空いてきたタイミングにはちょうどいいと、シオンは個包装の菓子を開けると口の中に放り込んだ。
「……っ!」
『どうした? シオン。まるで初めて男の味を知った処女みてぇな顔してるぜ?
『まっ、まずい……! いや、まずくはない……いや、やっぱりまずい……!』
『どっちなんだよ……』
口に入れた瞬間に広がる不快な食感。
まるで納豆の粘り気でマシュマロを作ったような……どれだけ噛んでも口の中に残り続けて、焦がしすぎた砂糖のような甘味が舌に張り付いてしまったような錯覚に陥る。
「あはは、やっぱりお口に合わなかったみたいね。ゴミ箱に吐き出しちゃってもいいわよ?」
「っ……んっくっ、い、いえ、大丈夫です」
シオンは口の中のお菓子を猛烈に噛み、なんとか喉の奥へと流し込んだ。
「冷蔵庫を開けたら必ず一個は食べることってノルマを作ってるんだけどね。まあ、誰も食べなくてこの有様なのよ」
「冷蔵庫を開けたらということは、相田先輩も今朝にこれを食べたんですか?」
「……」
どうやら食べていないらしい。
言い出しっぺがこれではみんなノルマなんて無視するだろう。
「……えっと、ここにプリンが入っていたんですよね?」
「ええ、そうよ。小さい冷蔵庫だから、しまうスペースを作るのに苦労したわ」
「こちらのジュースは?」
「それも今日の朝に持ち込んだの。理由はプリンと同じね。珍しいジュースだから、部員のみんなで飲んでる姿を撮影して学内のSNSにアップしようと思って」
「な、なるほど……」
先ほどから話を聞いている限り、部活動を理由に珍しいお菓子やらジュースを食べているだけな印象を受ける。
写真部というよりは、ユーチューバーの方が名前として適切ではなかろうか。
「部員全員分のジュースをプリンと一緒に冷蔵庫にしまった……。ということは、写真部は全員で9人なんですね?」
「? 10人だけど?」
「えっ? でも、ペットボトルの数は9本しかないですよ?」
「嘘でしょ……? 1、2、3……ほんとだ。朝には確かに10本確認してるのに」
どうやら、無くなったのはプリンだけではないらしい。
「盗まれていたのはプリンだけではなく、相田先輩が一緒にしまっておいたジュースも1本盗まれていた……」
「プリン食べるついでに飲んだのかしらね。全く、許せないわ。部費をなんだと思ってるのよ」
プリンやらジュースも部費で購入していたようだ。
部費をなんだと思っているのだろうか……。
「冷蔵庫は他には見る物はなさそうですね……。部室の中を見学させてもらってもいいですか?」
「いいわよ。棚にはカメラもしまってあるから、それだけ落としたりしないように気を付けてね」
「わかりました。それじゃあ――」
シオンは一度後ろ髪の結びを解くと、改めて高い位置で結い直した。
髪で隠れていたうなじが露わになり、ポニーテールが凛と揺れる。
『調査開始だな』
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
探偵はバーマン
野谷 海
ミステリー
とある繁華街にある雑居ビル葉戸メゾン。
このビルの2階にある『Bar Loiter』には客は来ないが、いつも事件が迷い込む!
このバーで働く女子大生の神谷氷見子と、社長の新田教助による謎解きエンターテイメント。
事件の鍵は、いつも『カクテル言葉』にあ!?
気軽に読める1話完結型ミステリー!

籠の鳥はそれでも鳴き続ける
崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。
祝福ゲーム ──最初で最後のただひとつの願い──
相田 彩太
ミステリー
世界各地から選ばれた24名の前に現れたのは自称”神”。
神は告げる「汝らに”祝福”を授けた」と。
そして「”祝福”とは”どんな願いでもひとつ叶える権利”だ」と。
ただし、そこには3つのルールがあった。
1.”祝福”の数は決して増えない
2.死んだ人間を生き返らせることは出来ない
3.”祝福”を持つ者が死んだ時、その”祝福”は別の人類にランダムに移る
”祝福”を持つ者はその境遇や思惑に沿って、願いを叶え始める。
その果てにどんな結末がもたらされるかを知らずに。
誰かが言った。
「これは”祝福ゲーム”だ」と。
神は言わなかった。
「さあ、ゲームの始まりだ」と。
※本作は小説家になろうにも掲載しています。
パンアメリカン航空-914便
天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。
ニューヨーク発、マイアミ行。
所要時間は・・・
37年を予定しております。
世界を震撼させた、衝撃の実話。

物言わぬ家
itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。
そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。
「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる