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主従
解雇
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「かっ、一宏様……一宏様っ、うぺっ!?」
よほど慌てたらしい。
俺の姿を認めた途端、玲は前のめりにベッドから転げ落ちた。
「おい、大丈夫か? どこか体の調子が悪いとかないか?」
「はっ、はい……っ!」
「おっと……」
すぐさま飛びついてきた玲を、なんとか倒れずに受け止める。
様子から察するに、もう俺には会えないとでも思っていたのだろう。
ギュッと俺の服を握り締める様からは、玲の必死さが滲み出ていた。
「申し訳ありません……申し訳ありませんでした……っ!」
「少し落ち着け……何を謝ってるんだ?」
「全てです……。何もかもを謝罪致します。だからっ……だから、どうか……これからも私を、従者としてお傍においてください……!」
「あー……」
「もう二度と身の程を弁えぬことは言いません! 一宏様がどなたと添い遂げようとも、忠心を鈍らせることもありません! ですからどうか、一度だけ、温情をいただけないでしょうか……」
玲は床に這いつくばって、懇願し始めた。
額を固い床に擦りつけながら。
長い髪を床に垂らしながら。
「あーあーあー、ここは宗田の家とは違って床は土足だってのに……。玲、少しは落ち着けって」
玲の身体を無理やり抱え上げて、強引にベッドの上に座らせる。
そして軽く玲の髪を払って、額もタオルで拭ってやった。
「いいか、玲。よく聞けよ」
「っ……はっ、はい……」
緊張した面持ちで固唾を呑む玲。
一人で空回りして勝手に慌てている様は、どこか愛らしさすらも感じてしまう。
「まず、玲はもう俺の従者じゃない」
「……え?」
「玲がどう思おうとも、俺は玲を従者として扱うことはない」
「そっ、それって……っ」
玲の顔がみるみる内に青ざめて、ボロボロと涙が零れ始める。
これだけ玲を気遣いながらの発言なのに悪い方へ捉えられてしまうとは。
どうやら玲はよほどネガティブになっているらしい。
「最後まで話を聞け。従者としては解雇するが、家から追い出したりはしない。今はちょっとこんなところに連れてきてるけど、引きはがしたいわけじゃない。玲を誰かに渡したりもしないし、玲に対して勝手なまねも絶対にさせないよ」
「っ!?」
「ん? どうした?」
急に涙を引っ込めたと思えば、今度は玲は赤面し始めた。
とりあえずは安心してくれたのだろうが、何か恥ずかしがるようなことがあっただろうか。
「えと……あの……。い、いえ……その、こんなところと言いましたが、ここは……?」
「ここは病院だよ。そうか、言われないとわからないよな。病室なんて来たことも見たこともないんだから」
「びょういん……っ! も、もしや、一宏様はどこか体の具合がっ!?」
「いや、そうじゃない。俺じゃなくて、玲の為にここに連れてきたんだ」
「私……? 私は、どこか病気なのですか?」
「それを調べてもらうんだよ」
「? ……?」
玲は不思議そうな顔をした後に一度考え込むような仕草を見せて、その後やっぱり不思議そうな顔をしていた。
「健康診断とか、人間ドックとか……まあ、細かいことはどうでもいいんだけど。病院では病気やケガを治すだけじゃなくて、体に悪い所がないかを調べてもらえるんだよ」
「なるほど……?」
「玲は今までにこういうの受けたことないだろ? せっかくだから、一度隅々まで調べてもらおうと思ってな。玲に無断で悪いけど、珠美さんに連れてきてもらった」
「珠美さんが……えっ!?」
「生きてるよ。珠美さんは生きてる。玲は誰も殺してない」
「…………」
不機嫌そうな。
気まずそうな。
決まりの悪そうな。
珠美の生存を知った玲の表情はそんな感じだった。
「そんな顔するな。もう玲の心配するようなことは起きないから。珠美さんも玲のことを大切に思ってるんだよ」
「そのように言われても、私には到底あの人を信じることは…………え?」
よほど慌てたらしい。
俺の姿を認めた途端、玲は前のめりにベッドから転げ落ちた。
「おい、大丈夫か? どこか体の調子が悪いとかないか?」
「はっ、はい……っ!」
「おっと……」
すぐさま飛びついてきた玲を、なんとか倒れずに受け止める。
様子から察するに、もう俺には会えないとでも思っていたのだろう。
ギュッと俺の服を握り締める様からは、玲の必死さが滲み出ていた。
「申し訳ありません……申し訳ありませんでした……っ!」
「少し落ち着け……何を謝ってるんだ?」
「全てです……。何もかもを謝罪致します。だからっ……だから、どうか……これからも私を、従者としてお傍においてください……!」
「あー……」
「もう二度と身の程を弁えぬことは言いません! 一宏様がどなたと添い遂げようとも、忠心を鈍らせることもありません! ですからどうか、一度だけ、温情をいただけないでしょうか……」
玲は床に這いつくばって、懇願し始めた。
額を固い床に擦りつけながら。
長い髪を床に垂らしながら。
「あーあーあー、ここは宗田の家とは違って床は土足だってのに……。玲、少しは落ち着けって」
玲の身体を無理やり抱え上げて、強引にベッドの上に座らせる。
そして軽く玲の髪を払って、額もタオルで拭ってやった。
「いいか、玲。よく聞けよ」
「っ……はっ、はい……」
緊張した面持ちで固唾を呑む玲。
一人で空回りして勝手に慌てている様は、どこか愛らしさすらも感じてしまう。
「まず、玲はもう俺の従者じゃない」
「……え?」
「玲がどう思おうとも、俺は玲を従者として扱うことはない」
「そっ、それって……っ」
玲の顔がみるみる内に青ざめて、ボロボロと涙が零れ始める。
これだけ玲を気遣いながらの発言なのに悪い方へ捉えられてしまうとは。
どうやら玲はよほどネガティブになっているらしい。
「最後まで話を聞け。従者としては解雇するが、家から追い出したりはしない。今はちょっとこんなところに連れてきてるけど、引きはがしたいわけじゃない。玲を誰かに渡したりもしないし、玲に対して勝手なまねも絶対にさせないよ」
「っ!?」
「ん? どうした?」
急に涙を引っ込めたと思えば、今度は玲は赤面し始めた。
とりあえずは安心してくれたのだろうが、何か恥ずかしがるようなことがあっただろうか。
「えと……あの……。い、いえ……その、こんなところと言いましたが、ここは……?」
「ここは病院だよ。そうか、言われないとわからないよな。病室なんて来たことも見たこともないんだから」
「びょういん……っ! も、もしや、一宏様はどこか体の具合がっ!?」
「いや、そうじゃない。俺じゃなくて、玲の為にここに連れてきたんだ」
「私……? 私は、どこか病気なのですか?」
「それを調べてもらうんだよ」
「? ……?」
玲は不思議そうな顔をした後に一度考え込むような仕草を見せて、その後やっぱり不思議そうな顔をしていた。
「健康診断とか、人間ドックとか……まあ、細かいことはどうでもいいんだけど。病院では病気やケガを治すだけじゃなくて、体に悪い所がないかを調べてもらえるんだよ」
「なるほど……?」
「玲は今までにこういうの受けたことないだろ? せっかくだから、一度隅々まで調べてもらおうと思ってな。玲に無断で悪いけど、珠美さんに連れてきてもらった」
「珠美さんが……えっ!?」
「生きてるよ。珠美さんは生きてる。玲は誰も殺してない」
「…………」
不機嫌そうな。
気まずそうな。
決まりの悪そうな。
珠美の生存を知った玲の表情はそんな感じだった。
「そんな顔するな。もう玲の心配するようなことは起きないから。珠美さんも玲のことを大切に思ってるんだよ」
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