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主従
洗脳を解くために
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「は……?」
意味がわからなかった。
頭では理解できていた。
珠美がどういう状況に陥っているのか。
玲がいったい何をしでかしたのか。
この家から追い出しただけとか、そんな可愛い排除であるはずがない。
玲が珠美に敵うはずもないけれども、不意を突けば可能性もあるかもしれない。
したがって、玲の言っている排除が意味するところは一つだけしかなくて――
――だからこそ、意味がわからなかった。
「あとは、一宏様にかけられた洗脳を解くだけ……そうすれば、また日常が戻ってきます。宗田の当主である一宏様と、その従者である私の……ふたりだけの日々が……」
玲が何かを言っているが、頭に入ってこない。
今は洗脳の話なんてしている場合ではない。
もしも、本当に、珠美が玲の手によって排除されていたのだとしたら。
もう、全てが終わりだ。
珠美は外の社会で生きてきた人間だ。
そんな人間の死なんて隠し通せるはずもない。
宗田というイカれた家が世間に露呈して、俺と玲は二度と日常には戻れないだろう。
どれほど思考を回そうとも、頑張ろうとも、俺たちのバッドエンドは確定してしまったのだ。
「ですからどうか、しばしの間辛抱くださいませ。私では一宏様には敵いません。私はこのような卑怯な手を用いなければ、洗脳を解くこともできない身です。しかし必ずや、一宏様の身にかけられた洗脳は解いてみせます……私の持てる全てを尽くしてでも……絶対に……!」
こちらの心情なんて知りもしないのだろうが、玲は玲で切羽詰まっているらしい。
その顔は真剣そのものだった。
居間での俺と珠美の話を聞いていたのなら、玲が言っている洗脳とは俺が珠美の主張に同意していることを指しているのだろう。
つまり、『玲をこの家から引きはがすことを俺が容認している』というのが、玲の言う洗脳だ。
玲がどこまで話の内容を理解しているのかはわからないけれど、あながちその主張も間違っていないとは思う。
洗脳されているのは玲の方なのだけれども、玲の視点からすればそうは映らないだろう。
要は玲からすれば、俺が珠美の主張に納得しているのが問題なのだ。
玲にその納得を覆せるほどの主張ができるのであれば、俺の洗脳が解けることは間違いない。
尤も、玲にそんな芸当ができるとは思えないが。
先ほどのように情に訴えるのが関の山というところだろう。
そして、俺が情に絆されたところで死者は蘇らない。
どう転ぼうとも、俺と玲の運命は既に警察やら弁護士やらの他人の手の中にあるのだ。
「ふぅーっ……。それでは、一宏様が目を覚ましたところで、改めて続きをやっていきますね……」
暗い部屋の中。
月明りに微かに照らされる玲は、大きく息を吐きながら意気込んだ。
そして動き出した玲は、あろうことか――
「えっ……なっ!?」
――俺の股間へと顔を埋めたのだった。
「あむっ……んっ……」
そういえば、確かに言っていた。
目を覚ましたばかりの俺に対し、玲は夜伽という単語を口にしていた。
意味がわからなかった。
頭では理解できていた。
珠美がどういう状況に陥っているのか。
玲がいったい何をしでかしたのか。
この家から追い出しただけとか、そんな可愛い排除であるはずがない。
玲が珠美に敵うはずもないけれども、不意を突けば可能性もあるかもしれない。
したがって、玲の言っている排除が意味するところは一つだけしかなくて――
――だからこそ、意味がわからなかった。
「あとは、一宏様にかけられた洗脳を解くだけ……そうすれば、また日常が戻ってきます。宗田の当主である一宏様と、その従者である私の……ふたりだけの日々が……」
玲が何かを言っているが、頭に入ってこない。
今は洗脳の話なんてしている場合ではない。
もしも、本当に、珠美が玲の手によって排除されていたのだとしたら。
もう、全てが終わりだ。
珠美は外の社会で生きてきた人間だ。
そんな人間の死なんて隠し通せるはずもない。
宗田というイカれた家が世間に露呈して、俺と玲は二度と日常には戻れないだろう。
どれほど思考を回そうとも、頑張ろうとも、俺たちのバッドエンドは確定してしまったのだ。
「ですからどうか、しばしの間辛抱くださいませ。私では一宏様には敵いません。私はこのような卑怯な手を用いなければ、洗脳を解くこともできない身です。しかし必ずや、一宏様の身にかけられた洗脳は解いてみせます……私の持てる全てを尽くしてでも……絶対に……!」
こちらの心情なんて知りもしないのだろうが、玲は玲で切羽詰まっているらしい。
その顔は真剣そのものだった。
居間での俺と珠美の話を聞いていたのなら、玲が言っている洗脳とは俺が珠美の主張に同意していることを指しているのだろう。
つまり、『玲をこの家から引きはがすことを俺が容認している』というのが、玲の言う洗脳だ。
玲がどこまで話の内容を理解しているのかはわからないけれど、あながちその主張も間違っていないとは思う。
洗脳されているのは玲の方なのだけれども、玲の視点からすればそうは映らないだろう。
要は玲からすれば、俺が珠美の主張に納得しているのが問題なのだ。
玲にその納得を覆せるほどの主張ができるのであれば、俺の洗脳が解けることは間違いない。
尤も、玲にそんな芸当ができるとは思えないが。
先ほどのように情に訴えるのが関の山というところだろう。
そして、俺が情に絆されたところで死者は蘇らない。
どう転ぼうとも、俺と玲の運命は既に警察やら弁護士やらの他人の手の中にあるのだ。
「ふぅーっ……。それでは、一宏様が目を覚ましたところで、改めて続きをやっていきますね……」
暗い部屋の中。
月明りに微かに照らされる玲は、大きく息を吐きながら意気込んだ。
そして動き出した玲は、あろうことか――
「えっ……なっ!?」
――俺の股間へと顔を埋めたのだった。
「あむっ……んっ……」
そういえば、確かに言っていた。
目を覚ましたばかりの俺に対し、玲は夜伽という単語を口にしていた。
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