171 / 185
主従
ふたりきりの夜
しおりを挟む
「一宏様……一宏様……」
俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
儚さが滲み出しているような声は、聞き慣れた玲のものに間違いない。
もう起きる時間なのだろうか。
朝になって玲が起こしに来たのだろうか。
それはいつもの日常で。
でも今日に限ってはそれはおかしいような気もして。
何がおかしいのかも判然としないまま、俺は声に導かれるまま目を覚ました。
「……?」
場所は俺の部屋で。
暗いから多分夜で。
玲は俺の股間に顔を埋めていた。
場所はいい。
時間も俺が勝手に朝だと勘違いしていただけだ。
しかし、玲はいったい何をしているのだろうか。
「……玲?」
名前を呼ぶと、玲が埋めていた顔を持ちあげた。
暗くて、その表情はよくわからない。
「良かった……起きてくださったのですね」
玲の言い振りから察するに、玲は俺が起きるのを待っていたらしい。
ということは、玲はこんな夜中にわざわざ俺の名前を呼んで起こしたということだ。
何か理由があるに違いない。
「なんだ、いったいどうし……っ?」
次第に覚めてきた頭が、徐々にこの状況のおかしさを認識し始める。
夜に起こされたことなんて些事に思えるくらいに。
「玲……なんで、ここに居るんだ……?」
「どうしてと申されましても、今日は夜伽の予定でしたので……」
昼に今日の夜伽は無しにすると話したはずだけれど、今はそんなことはどうでもいい。
玲の返答は俺の質問の答えになっていない。
俺が知りたいのは玲がここに居る理由ではなく、玲が珠美に拉致されていない理由だ。
珠美の身に何か不都合な事でも起きたのか。
それとも単純にまだ拉致される前なのか。
玲に勘付かれないようにするためにも、下手な質問はできない。
もどかしくても、今は疑問はそのままにしておくしかない。
珠美は今どこで、何をしているというのだろうか。
「夜伽か……。もしかして俺が寝ちまったから、勝手にやっといてくれたって感じなのか?」
「はい。障害は排除致しましたので、勝手ながら予定通り夜伽をするべきだと判断しました。私としましても、一宏様には認識を改めていただく必要があると感じていましたので……」
「障害……? それに認識を改めるって……玲に対しての認識のことか?」
「はい……私は一宏様にとって有用な存在なのだということをわかっていただきたく……そのために、失礼ながら縛らせていただきました」
「は……っ?」
玲に言われるまで気付かなかった。
俺の両手は今、後ろ手に縛られている。
しかも玲の言葉を信用するのならば、玲の手によって拘束されたらしい。
「いや、なんで、こんな……意味が……?」
理解できないことが多すぎて、まず何に思考を回すべきかも定まらない。
珠美の状況も不明だ。
玲の言葉も意味がわからない。
玲に拘束されたなんて未だに信じられない。
ただ一つだけ言えることは――
「申し訳ありません……しかし、今はまだその枷を外すことはできないのです」
――従者であるはずの玲の目の前で、俺は危機に陥っているということだ。
俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
儚さが滲み出しているような声は、聞き慣れた玲のものに間違いない。
もう起きる時間なのだろうか。
朝になって玲が起こしに来たのだろうか。
それはいつもの日常で。
でも今日に限ってはそれはおかしいような気もして。
何がおかしいのかも判然としないまま、俺は声に導かれるまま目を覚ました。
「……?」
場所は俺の部屋で。
暗いから多分夜で。
玲は俺の股間に顔を埋めていた。
場所はいい。
時間も俺が勝手に朝だと勘違いしていただけだ。
しかし、玲はいったい何をしているのだろうか。
「……玲?」
名前を呼ぶと、玲が埋めていた顔を持ちあげた。
暗くて、その表情はよくわからない。
「良かった……起きてくださったのですね」
玲の言い振りから察するに、玲は俺が起きるのを待っていたらしい。
ということは、玲はこんな夜中にわざわざ俺の名前を呼んで起こしたということだ。
何か理由があるに違いない。
「なんだ、いったいどうし……っ?」
次第に覚めてきた頭が、徐々にこの状況のおかしさを認識し始める。
夜に起こされたことなんて些事に思えるくらいに。
「玲……なんで、ここに居るんだ……?」
「どうしてと申されましても、今日は夜伽の予定でしたので……」
昼に今日の夜伽は無しにすると話したはずだけれど、今はそんなことはどうでもいい。
玲の返答は俺の質問の答えになっていない。
俺が知りたいのは玲がここに居る理由ではなく、玲が珠美に拉致されていない理由だ。
珠美の身に何か不都合な事でも起きたのか。
それとも単純にまだ拉致される前なのか。
玲に勘付かれないようにするためにも、下手な質問はできない。
もどかしくても、今は疑問はそのままにしておくしかない。
珠美は今どこで、何をしているというのだろうか。
「夜伽か……。もしかして俺が寝ちまったから、勝手にやっといてくれたって感じなのか?」
「はい。障害は排除致しましたので、勝手ながら予定通り夜伽をするべきだと判断しました。私としましても、一宏様には認識を改めていただく必要があると感じていましたので……」
「障害……? それに認識を改めるって……玲に対しての認識のことか?」
「はい……私は一宏様にとって有用な存在なのだということをわかっていただきたく……そのために、失礼ながら縛らせていただきました」
「は……っ?」
玲に言われるまで気付かなかった。
俺の両手は今、後ろ手に縛られている。
しかも玲の言葉を信用するのならば、玲の手によって拘束されたらしい。
「いや、なんで、こんな……意味が……?」
理解できないことが多すぎて、まず何に思考を回すべきかも定まらない。
珠美の状況も不明だ。
玲の言葉も意味がわからない。
玲に拘束されたなんて未だに信じられない。
ただ一つだけ言えることは――
「申し訳ありません……しかし、今はまだその枷を外すことはできないのです」
――従者であるはずの玲の目の前で、俺は危機に陥っているということだ。
0
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男
湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです
いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です
閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします
上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い
papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。
派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。
そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。
無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、
女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。
一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ぼくに毛が生えた
理科準備室
BL
昭和の小学生の男の子の「ぼく」はクラスで一番背が高くて5年生になったとたんに第二次性徴としてちんちんに毛が生えたり声変わりしたりと身体にいろいろな変化がおきます。それでクラスの子たちにからかわれてがっかりした「ぼく」は学校で偶然一年生の男の子がうんこしているのを目撃し、ちょっとアブノーマルな世界の性に目覚めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる