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主従

最後の食事

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「どうぞ」

 テーブルに並べられたのは塩むすび、味噌汁、漬物。
 夕食というよりも質素な朝食か夜食といったメニューだった。

「ありがとう」
「……麦茶のおかわりもどうぞ」

 まだ半分ほど残っていたが、玲はなみなみと麦茶をコップへと注いだ。

「気が利くね」

 麦茶がこぼれないよう、慎重に珠美はコップへと口をつけて麦茶を飲んだ。

「……」

 珠美の食事を作り終えた玲は、無言でテーブルについた。
 自分だけは熱い緑茶を淹れて飲みながら、珠美の様子を窺っている。

 自室でお茶を楽しむこともできたのに、わざわざ食事をする珠美の前に座った玲。
 いつも珠美に悪態をついていることを考えると、それは珍しい光景だった

「……それじゃあ、いただきます」

 玲の行動にどこか違和感を覚えながらも、珠美は冷めない内に食べ始めることにした。

 おにぎりは手で持っても崩れない程度には固く、口に入れればほろほろとほぐれるくらいには柔らかい。
 添え物のたくあんは触感が小気味よく、ご飯が進む塩味だ。
 味噌汁は飲む前から味噌と出汁の風味が香っていて、味も――

「……?」

 ――味噌汁に口をつけた途端に、珠美は顔をしかめた。

「どうかしましたか?」
「いや……?」

 味噌汁に入っているのは味噌、出汁、わかめだ。
 したがって、この味噌汁からはそれらの味しかしないはずである。

 それなのに、珠美の舌は知らない味を感知していた。
 素材から染み出した物とは思えない、どこか薬品じみた味がその味噌汁の中に混ざっていた。

「……玲君、これに何か入れたかい?」
「…………」
「れいく……っ?」

 異常な味を認識した途端に、珠美は脳がぐらりと揺れるような感覚に陥った。
 体を起こしておくことも困難で、堪らずテーブルに突っ伏してしまう。

「こ……れはっ……!?」

 テーブルに突っ伏したまま体を起こすこともできない。
 顔を上げて玲を視認することもできない。
 悪寒が体中を駆け巡っていて自分の体の状態さえ定かではない。

 専門知識の無い珠美でも、玲に毒を盛られたということはすぐにわかった。
 わかったところで、今さら手遅れではあるのだが。

「……安心しました。ちゃんと効いていたのですね。不安でつい味噌汁にもたくさん入れてしまったですが……余計だったでしょうか」

 まるで機械のような感情の無い声。
 玲は独り言をつぶやきながら、珠美の残飯をゴミ箱へと処理している。

「毒なんて……いったい、どうして玲君がそんなものを……?」
「母から教わりました。危険な物だと聞いていたので使用する機会はないと思っていたのですが、思わぬところで役に立つものですね。それにしても……やはり入れすぎたのでしょうか。私が手を下すまでもなく、放っておいても死にそうですね、珠美さん」
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