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主従
自由への切っ掛け
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「え? ……え? え?」
玲の凛々しい無表情が、ボロボロと崩れさっていく。
元々色白なのに、体調が心配になるくらいに血の気の引いた顔面蒼白。
俺の正体を、または正気を疑うように見開かれた目。
まるで日本語がわからなくなってしまったかのような動揺っぷりは、
俺の言葉を一言一句理解していたことの何よりの証拠だろう。
「かっ、かかっ、かずひろさま? なっ、どっ、どして……?」
もはやまともな呂律も保てていない。
失言をした俺が悪いとはいえ、ここまで気を動転させるとは。
やはり、玲はかなりこの家に依存しているようだ。
「落ち着け玲」
「でっ、ででで、でも……!」
「すまん、今のは俺の言い方が悪かった。別に、玲を追い出したいわけじゃないんだ。ただ、えっと……そう、珠美さんとちょっと話をしてな」
「っ……たま、み……さんと……?」
しまった、と気づいた時には遅かった。
つい珠美の名前を出してしまったが、玲を相手にするなら最後まで隠しておいた方が得策だったかもしれない。
珠美の名前を出した途端に玲の顔からは焦りが消え失せ、代わりに訝しむ表情が出てきている。
「…………」
玲のじとっとした、探るような視線が突き刺さる。
今の玲と比べれば、さっきまでの慌てていた様など可愛いものだ。
「……お聞かせください。一宏様ともあろう者が、いったい珠美さんに何を吹き込まれたのですか」
吹き込まれた、ときたものだ。
玲の中では珠美は詐欺師に分類されているのかもしれない。
「そんな変なことじゃない。ただ……玲はもっと自由になってもいいんじゃないかって話をしただけだ」
「自由……」
噛みしめるように、玲が言葉を反芻する。
意外なことに、全くの聞く耳持たずというわけでもないようだ。
「例えば、家の仕事だけじゃなくて自分の時間を持つとか……趣味を作るとか……やりたいこと、好きなことをするとか……玲にそういう願望は無いのか?」
「ありません」
聞く耳を持っていた割には即答だった。
「私の時間とは即ち一宏様に尽くす時間です。一宏様にお仕えすることが私の幸福であり、趣味など必要ありません。私のやりたいことは、一生涯をかけて一宏様にご奉仕することです。したがって、私にとって自由とは一宏様そのものを指します」
「そうか……」
それは予想できていた結果だった。
宗田の家に都合よく育てられた玲が、自由など望むはずもなかったのだ。
しかし、ここで諦めては玲は珠美に拉致されてしまう。
できれば穏便に済ませたい身としては、容易に諦めることもできない。
「……例えば、外に出てみたいとかも無いのか? 外に出て好きなお菓子を食べたいとか、運動をしてみたいとか……そういう願望が生まれる可能性も無いのか? 俺のことじゃなくて、ただ玲自身の為に、何かしてみたいとかも無いのか?」
「…………それは――」
「っ!」
少しだけ考え込んだ後に玲の口から飛び出してきた言葉は、余地を含むものだった。
本当は玲の望む自由が存在するかのような、そんな余地が。
逡巡を見せた後、玲は唇を開く。
「それは……一宏様も望んでいることなのですか?」
玲の凛々しい無表情が、ボロボロと崩れさっていく。
元々色白なのに、体調が心配になるくらいに血の気の引いた顔面蒼白。
俺の正体を、または正気を疑うように見開かれた目。
まるで日本語がわからなくなってしまったかのような動揺っぷりは、
俺の言葉を一言一句理解していたことの何よりの証拠だろう。
「かっ、かかっ、かずひろさま? なっ、どっ、どして……?」
もはやまともな呂律も保てていない。
失言をした俺が悪いとはいえ、ここまで気を動転させるとは。
やはり、玲はかなりこの家に依存しているようだ。
「落ち着け玲」
「でっ、ででで、でも……!」
「すまん、今のは俺の言い方が悪かった。別に、玲を追い出したいわけじゃないんだ。ただ、えっと……そう、珠美さんとちょっと話をしてな」
「っ……たま、み……さんと……?」
しまった、と気づいた時には遅かった。
つい珠美の名前を出してしまったが、玲を相手にするなら最後まで隠しておいた方が得策だったかもしれない。
珠美の名前を出した途端に玲の顔からは焦りが消え失せ、代わりに訝しむ表情が出てきている。
「…………」
玲のじとっとした、探るような視線が突き刺さる。
今の玲と比べれば、さっきまでの慌てていた様など可愛いものだ。
「……お聞かせください。一宏様ともあろう者が、いったい珠美さんに何を吹き込まれたのですか」
吹き込まれた、ときたものだ。
玲の中では珠美は詐欺師に分類されているのかもしれない。
「そんな変なことじゃない。ただ……玲はもっと自由になってもいいんじゃないかって話をしただけだ」
「自由……」
噛みしめるように、玲が言葉を反芻する。
意外なことに、全くの聞く耳持たずというわけでもないようだ。
「例えば、家の仕事だけじゃなくて自分の時間を持つとか……趣味を作るとか……やりたいこと、好きなことをするとか……玲にそういう願望は無いのか?」
「ありません」
聞く耳を持っていた割には即答だった。
「私の時間とは即ち一宏様に尽くす時間です。一宏様にお仕えすることが私の幸福であり、趣味など必要ありません。私のやりたいことは、一生涯をかけて一宏様にご奉仕することです。したがって、私にとって自由とは一宏様そのものを指します」
「そうか……」
それは予想できていた結果だった。
宗田の家に都合よく育てられた玲が、自由など望むはずもなかったのだ。
しかし、ここで諦めては玲は珠美に拉致されてしまう。
できれば穏便に済ませたい身としては、容易に諦めることもできない。
「……例えば、外に出てみたいとかも無いのか? 外に出て好きなお菓子を食べたいとか、運動をしてみたいとか……そういう願望が生まれる可能性も無いのか? 俺のことじゃなくて、ただ玲自身の為に、何かしてみたいとかも無いのか?」
「…………それは――」
「っ!」
少しだけ考え込んだ後に玲の口から飛び出してきた言葉は、余地を含むものだった。
本当は玲の望む自由が存在するかのような、そんな余地が。
逡巡を見せた後、玲は唇を開く。
「それは……一宏様も望んでいることなのですか?」
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