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主従
珠美の思い
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「ただね、私も無理やりというのは本意ではないんだ。拉致という選択肢しか無いとは考えている……おそらく、話をしたところで玲君はこの家を離れようとはしないだろうからね。しかしだからといって、玲君の意思を決めつけて拉致するというのも、あまり良い気持ちはしない……一宏君も、玲君の為とはいえ酷いことをしたいわけではないだろう?」
「それは……まあ……」
「だから、私から一宏君に頼みたいことがあるんだ」
みなまで言わなくとも、珠美の言いたいことは察しがついた。
「玲を説得しろと?」
「私が動いてもいいのだけれど……あまり良い結果にはならなそうだからね。できれば、まずは一宏君から話を持ち掛けてみてほしいんだ」
玲が珠美の話に応じないであろうことは容易に想像できる。
仮に頭を下げて頼んだとしても、玲は碌に話も聞かずに突っぱねるだろう。
主である俺が頼んだところで、玲が素直にこの家を離れるとも思えないけれど。
「もしも玲君が応じてくれたのなら、拉致ではなく移住になる。私たちにとっても、玲君にとっても、そちらのほうが精神衛生上良いのは間違いない……どうだい?」
「……わかりました」
自信は無いけれど、やらないよりはやって失敗する方がマシだろう。
それにここで断るということは、玲を拉致するのも厭わないということであり、
自身を人でなしだと認めることのような気がした。
「ありがとう。それでは、さっそく明日の日中に話をしてもらえるかな?」
「そうですね……一刻を争うんですもんね……」
「ああ……玲君の反応が芳しくなければ、私は夜には拉致を敢行するつもりだ」
「っ…………はい」
あまりに急な話だけれども、珠美の話を聞いた後ではそれに異を唱えることもできない。
「よし……それでは、今夜はここまでにしようか。拉致については私が全て手配しておくから、一宏君は玲君の説得にだけ意識を割いてくれれば大丈夫だよ」
「わかりました……」
「何か質問はあるかな? 無ければ、私は部屋に戻るけれど」
「……1つ、いいですか?」
「何かな?」
「……玲を珠美さんの家に、御橋の家に連れていったとして……玲は本当に変わるんでしょうか……。例えば、珠美さんのように……」
珠美は、かつては宗田の家に従順な従者だったという。
おそらく玲のように、兄である親父に尽くしていたのだろう。
それが今では、珠美は宗田だけでなく親父すらも憎んでいるような節がある。
知識を得たことで、今までの忠心がひっくり返ったかのように。
御橋の家に行けば、玲も同じようになるのだろうか。
もしも玲が俺に憎しみを向け始めて、復讐を望んだとしたら、俺は――
「時間がかかることは間違いない。しかし、玲君なら必ず一人でも外で生きていけるようになるよ。あの子は頭が良いからね」
「……」
「……きっと、一宏君との仲が悪くなるということも無いよ。関係性の変化は免れないけれど、玲君は一宏君を嫌悪したりはしないさ。何せ、一宏君は一雅さんと違って罪を犯していないからね……」
「罪……?」
それは、珠美さんの婿入りを止めなかったことだろうか。
それとも、あの人を宗田の家へ引き込んだことだろうか。
もしくは、玲を家畜として育てたことだろうか。
あるいは――
「……一宏君が生まれた時点で、宗田の跡取りは決まっていた。それ以上子が増えたところで、どのように扱われるのかなんてわかりきっていた……。それなのに、一宏君には弟が居る……玲君が生まれているんだ……。全てを理解した上で、一雅さんは二人目を作ったんだよ…………わかるかい? 私はね、その事がどうしても……絶対に……許せないのさ……」
「それは……まあ……」
「だから、私から一宏君に頼みたいことがあるんだ」
みなまで言わなくとも、珠美の言いたいことは察しがついた。
「玲を説得しろと?」
「私が動いてもいいのだけれど……あまり良い結果にはならなそうだからね。できれば、まずは一宏君から話を持ち掛けてみてほしいんだ」
玲が珠美の話に応じないであろうことは容易に想像できる。
仮に頭を下げて頼んだとしても、玲は碌に話も聞かずに突っぱねるだろう。
主である俺が頼んだところで、玲が素直にこの家を離れるとも思えないけれど。
「もしも玲君が応じてくれたのなら、拉致ではなく移住になる。私たちにとっても、玲君にとっても、そちらのほうが精神衛生上良いのは間違いない……どうだい?」
「……わかりました」
自信は無いけれど、やらないよりはやって失敗する方がマシだろう。
それにここで断るということは、玲を拉致するのも厭わないということであり、
自身を人でなしだと認めることのような気がした。
「ありがとう。それでは、さっそく明日の日中に話をしてもらえるかな?」
「そうですね……一刻を争うんですもんね……」
「ああ……玲君の反応が芳しくなければ、私は夜には拉致を敢行するつもりだ」
「っ…………はい」
あまりに急な話だけれども、珠美の話を聞いた後ではそれに異を唱えることもできない。
「よし……それでは、今夜はここまでにしようか。拉致については私が全て手配しておくから、一宏君は玲君の説得にだけ意識を割いてくれれば大丈夫だよ」
「わかりました……」
「何か質問はあるかな? 無ければ、私は部屋に戻るけれど」
「……1つ、いいですか?」
「何かな?」
「……玲を珠美さんの家に、御橋の家に連れていったとして……玲は本当に変わるんでしょうか……。例えば、珠美さんのように……」
珠美は、かつては宗田の家に従順な従者だったという。
おそらく玲のように、兄である親父に尽くしていたのだろう。
それが今では、珠美は宗田だけでなく親父すらも憎んでいるような節がある。
知識を得たことで、今までの忠心がひっくり返ったかのように。
御橋の家に行けば、玲も同じようになるのだろうか。
もしも玲が俺に憎しみを向け始めて、復讐を望んだとしたら、俺は――
「時間がかかることは間違いない。しかし、玲君なら必ず一人でも外で生きていけるようになるよ。あの子は頭が良いからね」
「……」
「……きっと、一宏君との仲が悪くなるということも無いよ。関係性の変化は免れないけれど、玲君は一宏君を嫌悪したりはしないさ。何せ、一宏君は一雅さんと違って罪を犯していないからね……」
「罪……?」
それは、珠美さんの婿入りを止めなかったことだろうか。
それとも、あの人を宗田の家へ引き込んだことだろうか。
もしくは、玲を家畜として育てたことだろうか。
あるいは――
「……一宏君が生まれた時点で、宗田の跡取りは決まっていた。それ以上子が増えたところで、どのように扱われるのかなんてわかりきっていた……。それなのに、一宏君には弟が居る……玲君が生まれているんだ……。全てを理解した上で、一雅さんは二人目を作ったんだよ…………わかるかい? 私はね、その事がどうしても……絶対に……許せないのさ……」
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