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主従

婿入り

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「実績……珠美さんも、過去に……?」

 珠美は言った。
 自身も、過去に拉致されたことがあると。
 そしてその拉致先とは、婿入り先である御橋の家であるのだと。

 それはつまり、婿入りそのものが拉致だったと、珠美は言っているのだろうか。

「混乱しているようだね……無理もない。私も、一気に情報を出し過ぎた。拉致……婿入り……実績……一つずつ整理しようか……どれから訊きたいかな?」

 珠美の言葉は、飲食店でメニューでも眺めているかのように軽かった。

 どれも珠美の過去に関わることであり。
 どれも楽しい思い出ではないだろうに。

「……じゃあ、婿入りから」
「ふむ……その選択は少し意外だね。私が婿入りしていることは話してなかったかな?」
「いえ、そういうわけではないですけど……」

 珠美が婿入りしているのは、親父の葬式の時に既に知っていた。
 ただ、それを今まで意識していなかったというだけなのだ。

 改めて考えてみれば、珠美が婿入りしているというのは少し奇妙な話だ。
 それはつまりは、玲も婿入りする可能性があるということであり――

 ――秘匿すべき違法な存在を宗田は外に出し、それを受け入れる家が在るということなのだから。

「……玲もどこかの家に婿入りする可能性はあるんですか?」
「あるにはある。現当主である一宏君がそれを望むのであれば、実現はするかもしれないね」
「……ってことは、もしかして珠美さんも?」
「そうだよ。私も当時の当主……あの時は一雅さんもまだ成人していなかったから、私の父親……一宏君の祖父に婿入りさせられたのさ」
「その言い方だと、無理やりにって感じなんですね」

 そもそも、珠美も宗田の弟なのだから。
 一般人であれば婿入りも当人の自由恋愛の範疇だろうが、珠美がそれに該当するはずもない。

「まあ……当時の私も、玲君と似たような感じだったからね……。婿入りするということは、この家を離れるということだ。そんな命令をされても従わなかっただろうし、それを父も一雅さんも理解していたんだろう」
「だから、拉致ですか……」
「今となっては感謝しかないけれどね」

 珠美が従順な従者だったなんて、その口から直接聞いてもまだ信じられないし、想像もできない。
 しかし玲が婿入りに反抗する様子は、容易に想像することができた。

「……でも、そもそもどうして、珠美さんは婿入りなんてすることになったんですか? 宗田の家にとっては、都合が悪そうに思えるんですけど」
「付き合いというものがあるんだよ、宗田の家にもね。権力があると、親戚以外でも持ちつ持たれつな関係というのは多いものさ」

 そういえば親父の葬式の参列者もやけに多かったし、珠美が言っているのはそういう連中の事なのだろう。

「言ってしまえば、私や玲君のような存在もそれなりに需要があったりするんだ」
「需要……?」
「人でなしは、宗田の家だけではないということだよ」
「?」
「……一宏君は、母君に対して疑問を持ったことはないかな?」
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