147 / 185
主従
婿入り
しおりを挟む
「実績……珠美さんも、過去に……?」
珠美は言った。
自身も、過去に拉致されたことがあると。
そしてその拉致先とは、婿入り先である御橋の家であるのだと。
それはつまり、婿入りそのものが拉致だったと、珠美は言っているのだろうか。
「混乱しているようだね……無理もない。私も、一気に情報を出し過ぎた。拉致……婿入り……実績……一つずつ整理しようか……どれから訊きたいかな?」
珠美の言葉は、飲食店でメニューでも眺めているかのように軽かった。
どれも珠美の過去に関わることであり。
どれも楽しい思い出ではないだろうに。
「……じゃあ、婿入りから」
「ふむ……その選択は少し意外だね。私が婿入りしていることは話してなかったかな?」
「いえ、そういうわけではないですけど……」
珠美が婿入りしているのは、親父の葬式の時に既に知っていた。
ただ、それを今まで意識していなかったというだけなのだ。
改めて考えてみれば、珠美が婿入りしているというのは少し奇妙な話だ。
それはつまりは、玲も婿入りする可能性があるということであり――
――秘匿すべき違法な存在を宗田は外に出し、それを受け入れる家が在るということなのだから。
「……玲もどこかの家に婿入りする可能性はあるんですか?」
「あるにはある。現当主である一宏君がそれを望むのであれば、実現はするかもしれないね」
「……ってことは、もしかして珠美さんも?」
「そうだよ。私も当時の当主……あの時は一雅さんもまだ成人していなかったから、私の父親……一宏君の祖父に婿入りさせられたのさ」
「その言い方だと、無理やりにって感じなんですね」
そもそも、珠美も宗田の弟なのだから。
一般人であれば婿入りも当人の自由恋愛の範疇だろうが、珠美がそれに該当するはずもない。
「まあ……当時の私も、玲君と似たような感じだったからね……。婿入りするということは、この家を離れるということだ。そんな命令をされても従わなかっただろうし、それを父も一雅さんも理解していたんだろう」
「だから、拉致ですか……」
「今となっては感謝しかないけれどね」
珠美が従順な従者だったなんて、その口から直接聞いてもまだ信じられないし、想像もできない。
しかし玲が婿入りに反抗する様子は、容易に想像することができた。
「……でも、そもそもどうして、珠美さんは婿入りなんてすることになったんですか? 宗田の家にとっては、都合が悪そうに思えるんですけど」
「付き合いというものがあるんだよ、宗田の家にもね。権力があると、親戚以外でも持ちつ持たれつな関係というのは多いものさ」
そういえば親父の葬式の参列者もやけに多かったし、珠美が言っているのはそういう連中の事なのだろう。
「言ってしまえば、私や玲君のような存在もそれなりに需要があったりするんだ」
「需要……?」
「人でなしは、宗田の家だけではないということだよ」
「?」
「……一宏君は、母君に対して疑問を持ったことはないかな?」
珠美は言った。
自身も、過去に拉致されたことがあると。
そしてその拉致先とは、婿入り先である御橋の家であるのだと。
それはつまり、婿入りそのものが拉致だったと、珠美は言っているのだろうか。
「混乱しているようだね……無理もない。私も、一気に情報を出し過ぎた。拉致……婿入り……実績……一つずつ整理しようか……どれから訊きたいかな?」
珠美の言葉は、飲食店でメニューでも眺めているかのように軽かった。
どれも珠美の過去に関わることであり。
どれも楽しい思い出ではないだろうに。
「……じゃあ、婿入りから」
「ふむ……その選択は少し意外だね。私が婿入りしていることは話してなかったかな?」
「いえ、そういうわけではないですけど……」
珠美が婿入りしているのは、親父の葬式の時に既に知っていた。
ただ、それを今まで意識していなかったというだけなのだ。
改めて考えてみれば、珠美が婿入りしているというのは少し奇妙な話だ。
それはつまりは、玲も婿入りする可能性があるということであり――
――秘匿すべき違法な存在を宗田は外に出し、それを受け入れる家が在るということなのだから。
「……玲もどこかの家に婿入りする可能性はあるんですか?」
「あるにはある。現当主である一宏君がそれを望むのであれば、実現はするかもしれないね」
「……ってことは、もしかして珠美さんも?」
「そうだよ。私も当時の当主……あの時は一雅さんもまだ成人していなかったから、私の父親……一宏君の祖父に婿入りさせられたのさ」
「その言い方だと、無理やりにって感じなんですね」
そもそも、珠美も宗田の弟なのだから。
一般人であれば婿入りも当人の自由恋愛の範疇だろうが、珠美がそれに該当するはずもない。
「まあ……当時の私も、玲君と似たような感じだったからね……。婿入りするということは、この家を離れるということだ。そんな命令をされても従わなかっただろうし、それを父も一雅さんも理解していたんだろう」
「だから、拉致ですか……」
「今となっては感謝しかないけれどね」
珠美が従順な従者だったなんて、その口から直接聞いてもまだ信じられないし、想像もできない。
しかし玲が婿入りに反抗する様子は、容易に想像することができた。
「……でも、そもそもどうして、珠美さんは婿入りなんてすることになったんですか? 宗田の家にとっては、都合が悪そうに思えるんですけど」
「付き合いというものがあるんだよ、宗田の家にもね。権力があると、親戚以外でも持ちつ持たれつな関係というのは多いものさ」
そういえば親父の葬式の参列者もやけに多かったし、珠美が言っているのはそういう連中の事なのだろう。
「言ってしまえば、私や玲君のような存在もそれなりに需要があったりするんだ」
「需要……?」
「人でなしは、宗田の家だけではないということだよ」
「?」
「……一宏君は、母君に対して疑問を持ったことはないかな?」
0
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる