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主従
密談の始まり
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「おや、一宏君」
「どうも……。やっぱり、珠美さんでしたか」
夜中のリビングに居たのは、思っていた通り珠美だった。
以前のように半裸の格好ではないけれど。
「どうしたんだい? こんな時間に」
「いえ、ちょっと目が覚めてしまったので……どうせなら、このまま起きてようかと」
「なるほど、それは不運だったね。確かに、この時間だと今から寝直すというのも微妙だろう。それならいっそのこと起き続けるという判断にも頷ける」
「……珠美さんは? 珠美さんも目が覚めてしまったんですか?」
「いや、私は今日は徹夜の予定だよ」
「それは、お疲れ様です……忙しいんですか?」
「いや? 絶対に徹夜をしないといけないというほどではないよ。ただ、そういう気分だったからというだけさ」
「そうですか……」
前回の時もそうだったが、珠美は割と不健康な生活習慣を好んでいるのかもしれない。
筋トレを趣味としているからといって、健康オタクというわけでもないらしい。
というか、おそらくは忙しいのではあるのだろうが。
だからといって、気分で徹夜をするのはどうなんだろうか。
それはちょっと若すぎやしないか。
もう少し年齢を考えて体を労わって欲しいと、一人の親族としては思わなくもない。
「しかし、これはちょうど良いタイミングかな……」
「何がですか?」
「……実はね、ちょうど一宏君と一対一で話したいと思っていたところなんだ」
それは、よく意図のわからない発言だった。
普段から珠美と一対一で話す機会なんてたくさんある。
相続に関する説明を受けている時もそうだし、偶然リビングに居合わせることも少なくない。
それなのにどうして、今が良いタイミングになるのだろうか。
「何ですか? もしかして、玲には内緒の密談でもするんですか?」
「ほう、鋭いね」
「えっ? 本当にそうなんですか?」
夜中だと玲が寝ているなと思い、テキトーに発言してみただけだったのだが。
珠美の様子からすると、的中していたらしい。
まさかとは思うが、ついに玲の失礼な態度に堪忍袋の緒が切れたとかないだろうか。
もしもそうだったら、俺としては土下座をするくらいしかできないのだが。
(あれ……でも……)
そういえば、最近の玲は珠美相手に露骨に楯突く様子は見せていなかったと、ふとそんなことを思い出した。
「うん。そろそろ、一宏君も考えてくれたかなと思ってね」
「……えーっと……?」
考えてくれたとは何のことだろうか。
相続の話をしているときに、そういった宿題でも出されていただろうか。
特に憶えはないのだけれども。
しかし――
玲に絶対に話を聞かれない状況で――
いったい珠美が何を話そうとしているのかなんて――
全く思い当たる節が無いのに――
それなのになぜだか、体は嫌な予感を訴えていて――
「わからないかな? 玲君の将来の事だよ」
「…………」
――やっぱり、あのまま寝直しておけば良かったと、俺は心底後悔した。
「どうも……。やっぱり、珠美さんでしたか」
夜中のリビングに居たのは、思っていた通り珠美だった。
以前のように半裸の格好ではないけれど。
「どうしたんだい? こんな時間に」
「いえ、ちょっと目が覚めてしまったので……どうせなら、このまま起きてようかと」
「なるほど、それは不運だったね。確かに、この時間だと今から寝直すというのも微妙だろう。それならいっそのこと起き続けるという判断にも頷ける」
「……珠美さんは? 珠美さんも目が覚めてしまったんですか?」
「いや、私は今日は徹夜の予定だよ」
「それは、お疲れ様です……忙しいんですか?」
「いや? 絶対に徹夜をしないといけないというほどではないよ。ただ、そういう気分だったからというだけさ」
「そうですか……」
前回の時もそうだったが、珠美は割と不健康な生活習慣を好んでいるのかもしれない。
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というか、おそらくは忙しいのではあるのだろうが。
だからといって、気分で徹夜をするのはどうなんだろうか。
それはちょっと若すぎやしないか。
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「しかし、これはちょうど良いタイミングかな……」
「何がですか?」
「……実はね、ちょうど一宏君と一対一で話したいと思っていたところなんだ」
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それなのにどうして、今が良いタイミングになるのだろうか。
「何ですか? もしかして、玲には内緒の密談でもするんですか?」
「ほう、鋭いね」
「えっ? 本当にそうなんですか?」
夜中だと玲が寝ているなと思い、テキトーに発言してみただけだったのだが。
珠美の様子からすると、的中していたらしい。
まさかとは思うが、ついに玲の失礼な態度に堪忍袋の緒が切れたとかないだろうか。
もしもそうだったら、俺としては土下座をするくらいしかできないのだが。
(あれ……でも……)
そういえば、最近の玲は珠美相手に露骨に楯突く様子は見せていなかったと、ふとそんなことを思い出した。
「うん。そろそろ、一宏君も考えてくれたかなと思ってね」
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考えてくれたとは何のことだろうか。
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特に憶えはないのだけれども。
しかし――
玲に絶対に話を聞かれない状況で――
いったい珠美が何を話そうとしているのかなんて――
全く思い当たる節が無いのに――
それなのになぜだか、体は嫌な予感を訴えていて――
「わからないかな? 玲君の将来の事だよ」
「…………」
――やっぱり、あのまま寝直しておけば良かったと、俺は心底後悔した。
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