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幕間
玲は動揺した
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「……何が言いたいのですか?」
それは落ち着いた声だった。
表面上は平静で。
珠美が何を言っているのか理解できないという様子で。
それでも少しだけ、声が震えていた。
玲は努めて冷静を装っていたけれど。
微かに、動揺が漏れ出ていた。
「言葉通りの意味だよ。玲君は、一宏君に対して従者以上の想いを抱いているんじゃないかって――」
「私は、その言葉の意味がわからないと言っているんです」
玲は珠美の言葉を遮った。
その言葉を否定するように。
それ以上は語るなと告げるように。
しかしそんな玲の威嚇も意に介することなく、珠美は言葉を続ける。
「そうだね。今のは私の言葉が悪かった。人の感情に上下は無い。以上とか、以下とか、そんな言葉は相応しくなかった……しかしそれはそれとして、だ。私の言いたい事の本質はそこじゃない。玲君もそれはわかっているんじゃないかな?」
「……いいえ。私には何も理解できません。珠美さんの言葉は何一つとして……もうよろしいでしょうか? これ以上眠るのが遅くなっては、明日に響きますので」
「これは例えばの話なんだけれどね?」
立ち去ろうとする玲にも構わず、珠美は言葉を続けた。
「もしも、一宏君が結婚をすることになったら――」
「っ!」
その時、立ち上がり歩き出そうとしていた玲の体が止まった。
玲は止まるつもりはなかったけれど、全身を停止信号が走ってしまった。
「……一宏様が、ご結婚なされるのですか?」
「例えばの話だよ」
「……いつ?」
「玲君が時期を気にする必要はないんじゃないかな?」
「従者としては、知っておくべきかと」
「本当にそれだけかい?」
「……」
「そう緊張しなくていい。例え話というのは嘘ではない。でも、近い将来には例え話でもなくなるのだろうけれどね」
「どういう意味ですか?」
先ほどまで珠美を無視して立ち去ろうとしていたというのに。
今となっては玲の方から話を急かしている。
その事実に玲は気付かない。
珠美の思うがままに翻弄され、掌の上で転がされていても。
それ以上に、主の婚姻は玲にとって重要な事であったから。
「大した意味じゃない。一宏君も人並みに恋をして、結婚に至るだろうというだけの話さ。もしかすると、それはお見合いという形になるかもしれないけれど……今の様子だと、お見合いはしばらくは無いだろうね」
「……であれば、近い将来という珠美さんの推測は的外れかと」
「ほう、どうしてだい?」
「現在、一宏様に恋仲と呼べる間柄の人はおりません」
「へえ……それは、一宏君から直接訊いたのかい?」
「いいえ……。しかし、私は従者として一宏様の身の回りのお世話をしていますので、それくらいのことはわかります」
「ふむ……。でも、一宏君がそのことを玲君には秘密にしていたとしたら? 意図的に隠されていたなら、玲君が知らないだけというのもありえるんじゃないかな」
「っ……一宏様が、私に隠し事など――」
「していないと言い切れるのかい?」
珠美の言葉を玲は否定できなかった。
従者である玲に対して、主が正直でなければならないなんて道理はない。
従者とは主に都合よく使われる道具であるのだから。
主に騙されているのだとしても、玲はそれを望んで受け入れなければならない。
そして主が外で何をしているのかなんて、
外に出ることが出来ない玲が把握できているはずもない。
「……ごめんね。別に、玲君を傷つけるようなことを言いたいわけじゃないんだ」
「なぜ……私が傷つくと……。例え、一宏様に恋人が居たとしても……っ、それは、従者である私には何の関係も……」
「玲君がただの従者であれば、そうだろうね。だから、私は訊いているのさ。玲君が一宏君に向けているのは、本当に従者としての思いなのかって」
「っ……私はっ…………」
もはや、珠美の言葉を真っ向から否定することは、玲にはできなかった。
それは落ち着いた声だった。
表面上は平静で。
珠美が何を言っているのか理解できないという様子で。
それでも少しだけ、声が震えていた。
玲は努めて冷静を装っていたけれど。
微かに、動揺が漏れ出ていた。
「言葉通りの意味だよ。玲君は、一宏君に対して従者以上の想いを抱いているんじゃないかって――」
「私は、その言葉の意味がわからないと言っているんです」
玲は珠美の言葉を遮った。
その言葉を否定するように。
それ以上は語るなと告げるように。
しかしそんな玲の威嚇も意に介することなく、珠美は言葉を続ける。
「そうだね。今のは私の言葉が悪かった。人の感情に上下は無い。以上とか、以下とか、そんな言葉は相応しくなかった……しかしそれはそれとして、だ。私の言いたい事の本質はそこじゃない。玲君もそれはわかっているんじゃないかな?」
「……いいえ。私には何も理解できません。珠美さんの言葉は何一つとして……もうよろしいでしょうか? これ以上眠るのが遅くなっては、明日に響きますので」
「これは例えばの話なんだけれどね?」
立ち去ろうとする玲にも構わず、珠美は言葉を続けた。
「もしも、一宏君が結婚をすることになったら――」
「っ!」
その時、立ち上がり歩き出そうとしていた玲の体が止まった。
玲は止まるつもりはなかったけれど、全身を停止信号が走ってしまった。
「……一宏様が、ご結婚なされるのですか?」
「例えばの話だよ」
「……いつ?」
「玲君が時期を気にする必要はないんじゃないかな?」
「従者としては、知っておくべきかと」
「本当にそれだけかい?」
「……」
「そう緊張しなくていい。例え話というのは嘘ではない。でも、近い将来には例え話でもなくなるのだろうけれどね」
「どういう意味ですか?」
先ほどまで珠美を無視して立ち去ろうとしていたというのに。
今となっては玲の方から話を急かしている。
その事実に玲は気付かない。
珠美の思うがままに翻弄され、掌の上で転がされていても。
それ以上に、主の婚姻は玲にとって重要な事であったから。
「大した意味じゃない。一宏君も人並みに恋をして、結婚に至るだろうというだけの話さ。もしかすると、それはお見合いという形になるかもしれないけれど……今の様子だと、お見合いはしばらくは無いだろうね」
「……であれば、近い将来という珠美さんの推測は的外れかと」
「ほう、どうしてだい?」
「現在、一宏様に恋仲と呼べる間柄の人はおりません」
「へえ……それは、一宏君から直接訊いたのかい?」
「いいえ……。しかし、私は従者として一宏様の身の回りのお世話をしていますので、それくらいのことはわかります」
「ふむ……。でも、一宏君がそのことを玲君には秘密にしていたとしたら? 意図的に隠されていたなら、玲君が知らないだけというのもありえるんじゃないかな」
「っ……一宏様が、私に隠し事など――」
「していないと言い切れるのかい?」
珠美の言葉を玲は否定できなかった。
従者である玲に対して、主が正直でなければならないなんて道理はない。
従者とは主に都合よく使われる道具であるのだから。
主に騙されているのだとしても、玲はそれを望んで受け入れなければならない。
そして主が外で何をしているのかなんて、
外に出ることが出来ない玲が把握できているはずもない。
「……ごめんね。別に、玲君を傷つけるようなことを言いたいわけじゃないんだ」
「なぜ……私が傷つくと……。例え、一宏様に恋人が居たとしても……っ、それは、従者である私には何の関係も……」
「玲君がただの従者であれば、そうだろうね。だから、私は訊いているのさ。玲君が一宏君に向けているのは、本当に従者としての思いなのかって」
「っ……私はっ…………」
もはや、珠美の言葉を真っ向から否定することは、玲にはできなかった。
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