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幕間
玲は連行された
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「まっ――っ!!」
「しーっ……」
咄嗟に声を荒げてしまった玲に向かって、珠美は唇の前で人差し指を立てて見せた。
その背に月明りを受けて――
玲とは対照的に余裕をたっぷりと含んだ仕草はどこか妖艶さもあって――
――その光景は、玲の心に余計に珠美への憎しみを抱かせた。
「静かに……落ち着いて、玲君。あまりうるさくすると、本当に起きてしまうからね」
「っ……」
そんなことは珠美に言われるまでもなく玲はわかっていた。
それでも、つい声を荒げてしまった。
その為に、反論することもできなくなった。
仕方なく、玲はその大きな瞳で珠美を睨みつける。
せめてもの反抗が、それくらいしか思いつかなかったから。
「心配しなくとも、一宏君に言いつける気はないよ。嘘を吐いて申し訳ない。……しかしその様子だと、玲君も自覚はあるようだね?」
「……」
玲は答えない。
『何をしている』という問いに対して、玲は毅然として答えていた。
悪びれることなく、自分は夜伽をしているだけだと言ってのけた。
しかし、その心中ではきちんと理解していたのだ。
自分がやっていることはただの夜伽ではなく、主に知られれば背信と断ぜられる行いであると。
精一杯の強がりも珠美には筒抜けであり、結果として主導権は呆気なく玲の手を離れてしまった。
「場所を変えようか。玲君も、この場で長々と話したくはないだろう?」
「……」
玲の首に繋がれた手綱は眠っている主の手には無く、もはや玲自身の手にも無い。
今の玲は引かれるままに、
立ち去る珠美の後ろについて、
主が無防備に眠る部屋を出ることしかできなかった。
「何か飲むかい?」
「……」
「もう夜中だからね。何も飲みたくないのなら、その方が寝覚めも良いだろう。でも、何か飲みたくなったら言ってくれれば用意するよ」
「……」
リビングの椅子の上で、玲は口を固く閉じて縮こまっていた。
居候人であるはずの珠美の方が、まるで昔からの住人のような振る舞いである。
「さて、何から話したものか……」
「…………あの」
「ん? なんだい?」
「っ……っ、どうか……!」
「……」
「どうかっ……一宏様にだけは、内密に……!」
それは、玲にとっては口に出したくもないことだった。
主とふたりだけの秘密ではなく、珠美と玲だけの秘密など。
よりにもよって珠美に主への秘密をお願いするなど、決してしたくなかった。
しかし弱味を握られた玲にはそれしか手立てはない。
憎い敵である珠美に頭を下げて懇願することしか、今の玲には許されていない。
「先ほども言っただろう。一宏君に告げ口するつもりはないよ。今夜のことは、私の胸の内にしまっておくつもりさ」
「……であれば、何が望みなのですか? なぜ、私をこの場に呼んだのですか?」
何も代償も無しに秘密にするなど、あまりに都合が良すぎる。
対人経験の少ない玲にもそれくらいの事は理解できた。
何を要求され、何を失い、どのような屈辱を受けるのか。
考えただけで、玲の胸はきゅぅっと悲鳴を上げた。
「そう怯えなくてもいい。ただ、話がしたいだけだから」
安心させるように、珠美は玲に言った。
それは誰が見ても嘘偽りの無い穏やかな表情であり、悪意なんて微塵も感じられない言葉だった。
「…………」
しかし、今まで珠美に邪険に接してきた反動だろうか。
玲にはその言葉を容易に信じることはできず――
――その瞳に抵抗の意を示したまま、弱々しく珠美を睨みつけていた。
「しーっ……」
咄嗟に声を荒げてしまった玲に向かって、珠美は唇の前で人差し指を立てて見せた。
その背に月明りを受けて――
玲とは対照的に余裕をたっぷりと含んだ仕草はどこか妖艶さもあって――
――その光景は、玲の心に余計に珠美への憎しみを抱かせた。
「静かに……落ち着いて、玲君。あまりうるさくすると、本当に起きてしまうからね」
「っ……」
そんなことは珠美に言われるまでもなく玲はわかっていた。
それでも、つい声を荒げてしまった。
その為に、反論することもできなくなった。
仕方なく、玲はその大きな瞳で珠美を睨みつける。
せめてもの反抗が、それくらいしか思いつかなかったから。
「心配しなくとも、一宏君に言いつける気はないよ。嘘を吐いて申し訳ない。……しかしその様子だと、玲君も自覚はあるようだね?」
「……」
玲は答えない。
『何をしている』という問いに対して、玲は毅然として答えていた。
悪びれることなく、自分は夜伽をしているだけだと言ってのけた。
しかし、その心中ではきちんと理解していたのだ。
自分がやっていることはただの夜伽ではなく、主に知られれば背信と断ぜられる行いであると。
精一杯の強がりも珠美には筒抜けであり、結果として主導権は呆気なく玲の手を離れてしまった。
「場所を変えようか。玲君も、この場で長々と話したくはないだろう?」
「……」
玲の首に繋がれた手綱は眠っている主の手には無く、もはや玲自身の手にも無い。
今の玲は引かれるままに、
立ち去る珠美の後ろについて、
主が無防備に眠る部屋を出ることしかできなかった。
「何か飲むかい?」
「……」
「もう夜中だからね。何も飲みたくないのなら、その方が寝覚めも良いだろう。でも、何か飲みたくなったら言ってくれれば用意するよ」
「……」
リビングの椅子の上で、玲は口を固く閉じて縮こまっていた。
居候人であるはずの珠美の方が、まるで昔からの住人のような振る舞いである。
「さて、何から話したものか……」
「…………あの」
「ん? なんだい?」
「っ……っ、どうか……!」
「……」
「どうかっ……一宏様にだけは、内密に……!」
それは、玲にとっては口に出したくもないことだった。
主とふたりだけの秘密ではなく、珠美と玲だけの秘密など。
よりにもよって珠美に主への秘密をお願いするなど、決してしたくなかった。
しかし弱味を握られた玲にはそれしか手立てはない。
憎い敵である珠美に頭を下げて懇願することしか、今の玲には許されていない。
「先ほども言っただろう。一宏君に告げ口するつもりはないよ。今夜のことは、私の胸の内にしまっておくつもりさ」
「……であれば、何が望みなのですか? なぜ、私をこの場に呼んだのですか?」
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対人経験の少ない玲にもそれくらいの事は理解できた。
何を要求され、何を失い、どのような屈辱を受けるのか。
考えただけで、玲の胸はきゅぅっと悲鳴を上げた。
「そう怯えなくてもいい。ただ、話がしたいだけだから」
安心させるように、珠美は玲に言った。
それは誰が見ても嘘偽りの無い穏やかな表情であり、悪意なんて微塵も感じられない言葉だった。
「…………」
しかし、今まで珠美に邪険に接してきた反動だろうか。
玲にはその言葉を容易に信じることはできず――
――その瞳に抵抗の意を示したまま、弱々しく珠美を睨みつけていた。
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