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兄と弟と弟だった人

玲は眠ろうとした

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 そうして、主は眠りに入ってしまった。

 玲の体を抱いたまま。
 玲のうなじに顔を埋めたまま。
 会話を終わらせてしまった。

 当の玲は困惑した。
 頭の中では思考がぐるぐると渦巻いていたが、
 体は主に抱かれたまま硬直していた。

 状況としては一昨昨日と同じだ。
 主に抱かれながら寝るだけならば、玲は既に経験している。
 それだけならば、玲は驚きはしたものの戸惑いはしなかっただろう。

 違うのはたった一言。
 玲の主が最後に言い放った、たったの一言だけ。

『全部玲の好きにしていいから……夜伽、やっといてくれ……』

 これが玲を困惑させた。
 これだけで玲の思考はまとまりを失くしてしまった。

 好きにしていいとはどういう意味なのか。
 言葉通りであるはずがない。
 主が玲の体を好きにするのは当然だけれども、その逆はありえない。
 ありえていいわけがない。

 夜伽の時だって、玲は主に使われるままに奉仕をするだけの存在であって――
 しかし、主が好きにしてもいいと発言したのも事実であって――

「…………」

 結果として、玲は身を固くしたまま、主に抱かれたまま、何もできないでいた。

「――、――」

 玲の耳に主の寝息が届き始めた。
 静かで、穏やかで、呼気が当たっている箇所が少しだけこそばゆい。

「…………一宏様?」

 それは起きていたら聞こえるような、寝ていたら起こさないような微かな声。
 本当に寝てしまったのかを確認する小さな呼びかけ。

「――」

 玲の声に主は反応しなかった。
 寝息は絶え間なく、玲の首をくすぐり続けている。

「一宏様……?」

 先ほどよりもほんの少しだけ大きな声。
 それでも、やはり主からの返事はない。

 まさか本当に寝ているのだろうか。
 それとも狸寝入りをしているのだろうか。
 狸寝入りをしているとしたら、どうしてだろうか。

「…………承知しました、一宏様」

 悩んだ末に玲は、忠心を試されているのだと結論付けた。
 無防備な御身に対して、玲が不敬を働かないかどうかを主は計っているのだと。

 主が望んだとしても、寝ている隙に夜伽をするのでは夜這いと同じだ。

 いつでも主が性欲を満たせるように、寝ている時も部屋の鍵をかけてはならない。
 命じられない限り、起きていても寝ていなければならない。
 玲はそう教えられてきたし、忘れたことはない。
 主は今日まで一度も夜這いをしてこなかったが、玲はいつでも受け入れる体制ができていた。

 いついかなる時でも主の性欲を体で受け止めるのは当然である。
 玲の体はどんな時でも主に捧げる準備ができている。

 しかし、その逆は決して許されない。
 玲が夜這いをしては、主が安心して就寝することができない。

「一宏様がどのような状態であろうとも、私の忠誠心が揺らぐことはありません。どうか安心して、お眠りくださいませ……」

 小さく宣言をして、玲は目を瞑った。
 主に忠心を示す為に。
 意識を眠りに落とすために。

 主の呼吸に合わせるように、穏やかに呼吸を繰り返して。
 主の温もりを感じながら、思考を削ぎ落して。

 少しずつ、少しずつ――

 玲の意識は段々と闇に落ちていって――

「…………っ」

 落ちていくはずもなかった。

 ずきずきと疼く股間の熱が、眠ることを許してはくれないのだから。
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