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兄と弟と弟だった人
慣れてきたキャッチボール
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それから、キャッチボールと呼べるかどうかも微妙な生温い行為が続いた。
俺は玲に向かって下手投げでふんわりとボールを投げて。
玲はそのボールをキャッチできたりできなかったり。
キャッチできてもグローブに入ることは稀で、
失敗した時は地面を跳ね転がるボールをとてとてと追いかける。
そしてその小さな手にボールを収めた後は――
「どうぞ」
「ああ」
俺に駆け寄ってはボールを手渡ししてくる。
これではキャッチボールをしているというよりは、犬のボール遊びだ。
ボールのキャッチが下手な分、犬よりも程度が低い可能性もある。
「いくぞー」
「はいっ……!」
「よっ」
「っ……ぁっ……」
「……」
数をこなす内に危険ではないと理解したのか、今では玲はすっかりキャッチボールに慣れている。
怯えることなく両の目でしっかりとボールを追いかけられていて、
グローブもしっかりと前に出すことができていて、
そして結構な高確率でエラーをする。
予想できたというか、わかりきっていたというか、玲の運動神経はかなり絶望的らしい。
生まれ持った素質なのか、運動経験が少ないせいなのかはわからない。
わかるのは、どれだけ数をこなしても一向にキャッチが上手くならないということだけだ。
「どうぞ」
「……ああ」
しかし、ボールを持ってくる玲の顔はどこか満足気な気がする。
正直このキャッチボールは幼児を相手にしているくらい幼稚だけれども。
まともな娯楽の経験がないからか、それでも玲は楽しめているのかもしれない。
一方、付き合わされている俺としては退屈なことこの上なかった。
ただただ優しくボールを投げて、
そして玲がノロノロとボールを返しに来るのを待つだけ。
親と子の関係であればこの行為でも充実感を味わえるのかもしれないけれど、俺の相手は玲だ。
何が楽しくて玲の為にこんな退屈に甘んじなければならないのか。
せめて玲に耳と尻尾でも生えていれば、その反応で退屈を紛らせたのかもしれないが。
しかし、それなら犬相手に遊んでいる方がまだマシか。
「っ……!」
久方振りに玲が腕と胸でボールを挟む形でキャッチした。
相変わらずグローブをしている意味の無い捕球だけれども、それでも玲は達成感を得ているようだ。
「どうぞ」
「……」
「一宏様?」
「玲、そろそろボールを投げてみないか?」
「えっ……」
いい加減我慢できなくなってきた。
本当は珠美が言い出してくれないかと待っていたが、これ以上は待っていられない。
玲もキャッチボールに慣れてきているし、もうボールを投げるくらいならできるだろう。
「……かしこまりました。では、僭越ながら私が一宏様にボールを投げさせていただきます」
そんな畏まるようなことでもないはずなのだが。
玲は硬い所作で俺から5メートルほど離れると――
「では……参ります」
「おう」
「ふっ……」
ボールを持った手を下から降りあげた。
「…………」
ふわりと浮いたボールは放物線を描いて――
「…………」
――そして、玲の手から3メートルほど離れた地面にバウンドして転がり、
俺のつま先にぶつかった。
「…………」
「…………申し訳ありません」
俺は玲に向かって下手投げでふんわりとボールを投げて。
玲はそのボールをキャッチできたりできなかったり。
キャッチできてもグローブに入ることは稀で、
失敗した時は地面を跳ね転がるボールをとてとてと追いかける。
そしてその小さな手にボールを収めた後は――
「どうぞ」
「ああ」
俺に駆け寄ってはボールを手渡ししてくる。
これではキャッチボールをしているというよりは、犬のボール遊びだ。
ボールのキャッチが下手な分、犬よりも程度が低い可能性もある。
「いくぞー」
「はいっ……!」
「よっ」
「っ……ぁっ……」
「……」
数をこなす内に危険ではないと理解したのか、今では玲はすっかりキャッチボールに慣れている。
怯えることなく両の目でしっかりとボールを追いかけられていて、
グローブもしっかりと前に出すことができていて、
そして結構な高確率でエラーをする。
予想できたというか、わかりきっていたというか、玲の運動神経はかなり絶望的らしい。
生まれ持った素質なのか、運動経験が少ないせいなのかはわからない。
わかるのは、どれだけ数をこなしても一向にキャッチが上手くならないということだけだ。
「どうぞ」
「……ああ」
しかし、ボールを持ってくる玲の顔はどこか満足気な気がする。
正直このキャッチボールは幼児を相手にしているくらい幼稚だけれども。
まともな娯楽の経験がないからか、それでも玲は楽しめているのかもしれない。
一方、付き合わされている俺としては退屈なことこの上なかった。
ただただ優しくボールを投げて、
そして玲がノロノロとボールを返しに来るのを待つだけ。
親と子の関係であればこの行為でも充実感を味わえるのかもしれないけれど、俺の相手は玲だ。
何が楽しくて玲の為にこんな退屈に甘んじなければならないのか。
せめて玲に耳と尻尾でも生えていれば、その反応で退屈を紛らせたのかもしれないが。
しかし、それなら犬相手に遊んでいる方がまだマシか。
「っ……!」
久方振りに玲が腕と胸でボールを挟む形でキャッチした。
相変わらずグローブをしている意味の無い捕球だけれども、それでも玲は達成感を得ているようだ。
「どうぞ」
「……」
「一宏様?」
「玲、そろそろボールを投げてみないか?」
「えっ……」
いい加減我慢できなくなってきた。
本当は珠美が言い出してくれないかと待っていたが、これ以上は待っていられない。
玲もキャッチボールに慣れてきているし、もうボールを投げるくらいならできるだろう。
「……かしこまりました。では、僭越ながら私が一宏様にボールを投げさせていただきます」
そんな畏まるようなことでもないはずなのだが。
玲は硬い所作で俺から5メートルほど離れると――
「では……参ります」
「おう」
「ふっ……」
ボールを持った手を下から降りあげた。
「…………」
ふわりと浮いたボールは放物線を描いて――
「…………」
――そして、玲の手から3メートルほど離れた地面にバウンドして転がり、
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「…………」
「…………申し訳ありません」
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