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兄と弟と弟だった人

朝食をふたりで

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「はい、召し上がれ。簡単なもので申し訳ないけれどね」

 玲の前に珠美の作った朝食が並べられる。

 トースト。
 スクランブルエッグ。
 オニオンスープ。
 トマトとアボカドのサラダ。

 昨日の夕食とは一転して洋風な朝食だ。

「……いただきます」

 玲は両手を合わせて深く頭を下げるとフォークを手に取って――

「……」

 そして、硬直した。

「どうした?」
「……一宏様、ナイフを使用してもよろしいでしょうか?」
「ナイフ? ……まあ、好きにしたらいいんじゃないか?」
「ありがとうございます」

 朝食の中にナイフの必要な物なんて無いけれど。
 というか、ナイフくらい俺の許可なく使えばいいものだが。

「それでは改めて、いただきます」

 そう言って、玲はトーストにフォークを突き立てた。

「……」

 右手にナイフ。
 左手にフォーク。

 ちらちらと俺の顔を窺いながら、玲はトーストを小さな欠片に切り分ける。

 直接手で持って齧り付くよりは上品なのかもしれないが、
 対象がただのトーストであることを思うと逆に滑稽にも思える。

「っ……んむ」

 クルトンのように小さくなったトーストを、これまた小さく開いた口で迎え入れる玲。

 もしかすると、玲は大口を開けて食べないように気をつけているのかもしれない。
 確かに大きく口を開いてバクバクと食べるのははしたないかもしれないが、
 家での朝食でそこまで気にすることはないだろうに。

「……」

 小さなトースト片を丁寧に咀嚼して、
 呑み込んで、
 また一つ小さな欠片を口の中に入れる。

 このペースだと、玲が朝食を終えるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
 先ほど朝は忙しいと自分で言っていたのに、それは憶えているのだろうか。

「……一宏様」
「なんだ?」
「一宏様から見て、この朝食はいかがでしょうか?」
「いかがって……」

 洋風の朝食はこれが初めてというわけではない。
 玲が作る食事は和食が多いけれど、和食しか作らないわけではない。

 だからどうだと問われても、その質問が何を意図しているのかがわからなかった。

「私の作る食事とどちらが好みでしょうか?」

 とんでもない意図が込められていたようだ。

 この道徳赤点な思考回路は、やはり矯正されない限り治らないのだろうか。

「…………」
「どうでしょうか、一宏様」
「…………まあ、玲の料理の方が食べ慣れているかな」

 珠美は大人だ。
 玲の幼すぎる嫉妬も、
 俺のあからさまな忖度も、
 笑って流してくれることだろう。

 現に今も珠美は穏やかな笑顔を浮かべている。

「っ……お褒めいただき光栄です」

 玲の態度からは嬉しそうな様子が隠しきれていない。
 先ほどのテキトーな返答でも喜べるのだから、玲はある意味では幸せ者なのかもしれない。

「良かったね、玲君」
「……一宏様が私の料理を気に入ってくださっているのは当然のことです。これまで、私はずっと一宏様に仕えてきたのですから。食事のお世話だけではありません。昨夜も、私は一宏様に求められて同衾をさせていただきました」

 ちょっと待て。
 それは言う必要あったのか、玲。

「それは……仲の良い事だね……」
「それほどに一宏様は私に信頼を置いてくださっているのです」

 いたたまれなさから顔を上げることができなくて、
 珠美がどんな顔をしているのかもわからない。

 それでも、玲が誇らしげであることだけわかった。
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