上 下
77 / 185
兄と弟と弟だった人

立ち去る直前

しおりを挟む
「今日は…………」
「今日は?」
「……いえ、その…………」

 喋り出したかと思えば、また押し黙ってしまう玲。

 本当に挨拶に来ただけならば、もう用件は済んでいるはずだ。
 いつもの玲であれば、用が終わった時点で澄ました顔をして去って行くと思うのだが。

「っ……」

 玲は一向に立ち去る気配がない。

 つまり、まだ何か用があるのだろう。
 挨拶というのは建前で、言い難そうにしている本当の用があるのだろう。

 しかし、俺にわかるのはそこまでだ。
 玲と過ごした時間は長くとも、深い時間を過ごしたことのない俺にはその心の内は全くわからない。

 わかるのはあくまで表面的なことだけ。
 風呂上りの為に上気している頬。
 ちらちらと俺の顔と体を見ては逸らしている視線。
 言い出せない自分にもどかしさでも感じているのか、もじもじとしている仕草。

 玲が口に出してくれないと、俺には何もわからず何もできない。

 あまりに黙られ続けると、眠気もどんどんと増してくる。
 さっさと用を済ませて、早く寝かせて欲しいものだ。

「…………いえ……なんでもありません。ただ、一宏様が疲れているように見えたので……必要のない心配でした」

 長い沈黙の末、玲はそう言った。

 それが本心なのか誤魔化しなのかはわからないけれども、わざわざ問い詰める必要も無いだろう。
 仮に誤魔化しなのだとしても、玲がそう判断したのなら構わない。

 何があろうと、玲が意図して俺の不利益になるようなことはしないのだから。

「そうか……まあ、なんだ……。玲も今日はゆっくり休め」
「はい……おやすみのお邪魔をして申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします」

 玲が踵を返す。

 白い長襦袢の裾が翻って――
 艶のある黒髪がふわりと舞って――

 ――嗅いだことの無い香りがした。

「……ん? 玲、ちょっと待て」
「はい?」

 玲が振り返る。
 呼び止められたことが余程意外だったのか、その表情はきょとんとしている。

「玲、何か香水をつけているのか?」
「こうすい…………ぁっ……。はい、つけております」
「今まではつけてたことなかったよな。急にどうした?」
「媚薬を作成した際に、香料の作成も伝授されていたことを思い出しまして」

 脳裏に昨日の夜伽のことが思い起こされる。
 あれは媚薬とは名ばかりの、ただの潤滑液だったけれど。
 確か、夜伽の前に玲が媚薬について色々と話していたはずだ。

「……ってことは、それもあの人から教わったのか?」
「はい、母より教わったものです」
「……」
「今日は試しにつけてみただけなのですが……一宏様のお気に召さなければ、今後の使用は控えます」
「……」
「いかがでしょうか……?」
「……玲」
「はい」
「ちょっと、こっちに来てくれないか」
「ぇっ……かっ、かしこまりました……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男

湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です 閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

ぼくに毛が生えた

理科準備室
BL
昭和の小学生の男の子の「ぼく」はクラスで一番背が高くて5年生になったとたんに第二次性徴としてちんちんに毛が生えたり声変わりしたりと身体にいろいろな変化がおきます。それでクラスの子たちにからかわれてがっかりした「ぼく」は学校で偶然一年生の男の子がうんこしているのを目撃し、ちょっとアブノーマルな世界の性に目覚めます。

処理中です...