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兄と弟と弟だった人
荷物の中身
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「……んで? 中身はわかったか?」
珠美の部屋に着いたところで、玲に無駄な努力の成果を訊ねてみた。
すると心底申し訳なさそうに、玲は謝罪をしてきた。
「……いえ、皆目見当もつきません。力及ばず、申し訳ありません……」
どうやら、玲は本気でカバンを開けないままに中見を確認しようとしていたようだ。
本気で謝罪されると、まるで玲と同列に思われている気がしてしまうので、本当に止めてほしい。
「どうせ仕事道具とかだろ? ノートPCとか、書類とか……珠美さんはしばらくはこの家で生活して、この家から出社するんだから」
確か、珠美は会社勤めのサラリーマンだったはずだ。
親父が社長をやっていた会社で、親父が働いていた頃は色々とサポートをしていたとか……。
詳しくは知らないが、そんな話を葬式の時にしていた気がする。
しかし、玲はサラリーマンの仕事道具なんて言われても納得しないかもしれない。
テレビを見たこともなければ、スマホも所有していないのだ。
この家での家事が仕事の全てである玲からすれば、そもそも仕事道具を持ち運ぶなんて発想も――
「ノートPC……なるほど。確かに、言われてみるとそれくらいの重さのように感じられます。さすがです、一宏様」
「……」
存外、玲は納得していた。
というか、ノートPCなんて馴染みがあったのだろうか。
初めて発音したとは思えない流暢さだったが……。
「…………ああ、そういや通販用のノートPCがあったか」
「? どうかされましたか?」
「いや、何でもない……」
外出を禁じられている玲の唯一の外部との通信手段。
それが通販だ。
確か通販にしか使えないノートPCを玲が管理していて、食材や日用品はそれを用いて買っていたはずだ。
興味が無く、見たことも無い為に存在自体を忘れていた。
考えてみれば、家事と電化製品の結びつきは強い。
掃除機、洗濯機、電子レンジ、冷蔵庫。
玲は外部からの情報を遮断されているだけで、生活の水準自体は現代人と代わりないのだ。
極端に知識が偏っているだけで、日常生活に関わる知識ならむしろ俺より広いのだろう。
「やあ、荷物を運んでくれたんだね。わざわざありがとう」
振り向くと、珠美が廊下を歩いて来ていた。
言葉通り、家の構造は忘れていないようだ。
「はい、玲君。鍵を返すよ」
「……確かに、受け取りました」
玲は返却された鍵をジロジロと確認した後、それを割烹着のポケットにしまった。
「お、郵送した荷物もここまで運んでくれたんだね。重かっただろう?」
「……」
玲は珠美からの質問に無言を通した。
出しゃばらないように黙っているのか。
それとも重かったと肯定したくないのか。
玲の珠美への態度を見ていると、後者のような気がしてしまう。
「かなり重かったですよ。中は何が入ってるんですか?」
「っ……」
玲の表情がぴくりと動いた。
一昨日も中身をしきりに気にしていた玲としては聞き逃せない話題だろう。
「気になるかい? それなら見せてあげよう。なんなら、ふたりも自由に使ってくれて構わないからね」
「……」
「ふふっ……」
しゃがみこんで段ボール箱に手を伸ばす珠美。
その正面に回り込んで覗き込む玲。
そのあまりにも正直すぎる態度に、珠美は笑みをこぼしていた。
玲とは意味合いが違うが、中身が気になるのは俺も同じだ。
俺は珠美の背中越しに段ボールの中身を覗き込んだ。
「……え?」
テープが剥がされ、蓋が開き、露わになったその中には――
――鉄の塊が入っていた。
「……?」
玲は中身を見てもそれが何かはわかっていないようだ。
それも当然だろう。
親父も、俺も、家で筋トレをしたことなんて一度もない。
「ダンベル……ですか?」
「腹筋ローラーもあるし、ハンドグリップもある。ダンベルは重さの調節もできるから、初心者でも使えるよ」
「……?」
どうやら、珠美は筋トレが趣味らしい。
衣服の上からは窺い知れないが、もしかすると細マッチョなのかもしれない。
珠美の部屋に着いたところで、玲に無駄な努力の成果を訊ねてみた。
すると心底申し訳なさそうに、玲は謝罪をしてきた。
「……いえ、皆目見当もつきません。力及ばず、申し訳ありません……」
どうやら、玲は本気でカバンを開けないままに中見を確認しようとしていたようだ。
本気で謝罪されると、まるで玲と同列に思われている気がしてしまうので、本当に止めてほしい。
「どうせ仕事道具とかだろ? ノートPCとか、書類とか……珠美さんはしばらくはこの家で生活して、この家から出社するんだから」
確か、珠美は会社勤めのサラリーマンだったはずだ。
親父が社長をやっていた会社で、親父が働いていた頃は色々とサポートをしていたとか……。
詳しくは知らないが、そんな話を葬式の時にしていた気がする。
しかし、玲はサラリーマンの仕事道具なんて言われても納得しないかもしれない。
テレビを見たこともなければ、スマホも所有していないのだ。
この家での家事が仕事の全てである玲からすれば、そもそも仕事道具を持ち運ぶなんて発想も――
「ノートPC……なるほど。確かに、言われてみるとそれくらいの重さのように感じられます。さすがです、一宏様」
「……」
存外、玲は納得していた。
というか、ノートPCなんて馴染みがあったのだろうか。
初めて発音したとは思えない流暢さだったが……。
「…………ああ、そういや通販用のノートPCがあったか」
「? どうかされましたか?」
「いや、何でもない……」
外出を禁じられている玲の唯一の外部との通信手段。
それが通販だ。
確か通販にしか使えないノートPCを玲が管理していて、食材や日用品はそれを用いて買っていたはずだ。
興味が無く、見たことも無い為に存在自体を忘れていた。
考えてみれば、家事と電化製品の結びつきは強い。
掃除機、洗濯機、電子レンジ、冷蔵庫。
玲は外部からの情報を遮断されているだけで、生活の水準自体は現代人と代わりないのだ。
極端に知識が偏っているだけで、日常生活に関わる知識ならむしろ俺より広いのだろう。
「やあ、荷物を運んでくれたんだね。わざわざありがとう」
振り向くと、珠美が廊下を歩いて来ていた。
言葉通り、家の構造は忘れていないようだ。
「はい、玲君。鍵を返すよ」
「……確かに、受け取りました」
玲は返却された鍵をジロジロと確認した後、それを割烹着のポケットにしまった。
「お、郵送した荷物もここまで運んでくれたんだね。重かっただろう?」
「……」
玲は珠美からの質問に無言を通した。
出しゃばらないように黙っているのか。
それとも重かったと肯定したくないのか。
玲の珠美への態度を見ていると、後者のような気がしてしまう。
「かなり重かったですよ。中は何が入ってるんですか?」
「っ……」
玲の表情がぴくりと動いた。
一昨日も中身をしきりに気にしていた玲としては聞き逃せない話題だろう。
「気になるかい? それなら見せてあげよう。なんなら、ふたりも自由に使ってくれて構わないからね」
「……」
「ふふっ……」
しゃがみこんで段ボール箱に手を伸ばす珠美。
その正面に回り込んで覗き込む玲。
そのあまりにも正直すぎる態度に、珠美は笑みをこぼしていた。
玲とは意味合いが違うが、中身が気になるのは俺も同じだ。
俺は珠美の背中越しに段ボールの中身を覗き込んだ。
「……え?」
テープが剥がされ、蓋が開き、露わになったその中には――
――鉄の塊が入っていた。
「……?」
玲は中身を見てもそれが何かはわかっていないようだ。
それも当然だろう。
親父も、俺も、家で筋トレをしたことなんて一度もない。
「ダンベル……ですか?」
「腹筋ローラーもあるし、ハンドグリップもある。ダンベルは重さの調節もできるから、初心者でも使えるよ」
「……?」
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