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兄と弟
寝坊
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聴き慣れない音が頭の中に響いて、無理やりに意識が覚醒させられた。
「あぁ……?」
いつもとは違う起こされ方。
俺を起こしたのは玲の声ではなく、機械的な電子音だった。
「……忘れてた」
玲の部屋で寝たのだから、玲の目覚ましがあるのは当たり前のことだ。
そして俺の部屋には目覚ましが無いのだから、玲はまだ寝ているのだろう。
「俺が起こすのか……めんどうだな……」
時計は五時を示している。
玲はいつもこんな早くに起きていたのか。
それほどに朝は忙しいということなのだろう。
ここで玲を起こさなければ家事にも支障が出てくるかもしれない。
「はぁ……仕方ないか」
時計を忘れたのは玲だが、俺も気付かなかったのだ。
一方的に玲を責めることはできないだろう。
まだまだ寝足りないが、玲を起こしてから改めて寝ればいい。
まずは目覚ましを止めて――
「……どうやって止めるんだ、これ」
玲の部屋の目覚まし時計にはボタンが複数ついており、どれを押せば止まるのかがわからない。
変にいじると時間がずれて面倒なことになる可能性もある。
「……まあいいか。どうせだから、こいつに玲を起こしてもらおう」
電子音を鳴らし続ける時計を片手に、自室で眠る玲の元へ向かうことにした。
「すーっ……すーっ……」
穏やかな寝息をたてながら、玲は俺の布団で寝ている。
「……」
玲が寝ている姿を見るのは初めてだ。
長襦袢がはだけて、玲の白い肌が露わになっている。
枕は頭の下には無く、玲の細い腕に抱きかかえられている。
鼻先を枕に埋めるようにして、髪が寝ぐせで跳ねている。
その姿はあどけなくて、小柄さも相俟って少年と形容するのが相応しいように感じてしまう。
実際は高校も卒業するくらいの年齢だというのに。
「……おら、起きろ」
玲の耳の近くに鳴り続ける目覚ましを置いてやる。
すると、玲は即座に反応を示した。
「んーっ…………んっ…………すーっ……すーっ……」
「……」
玲は億劫そうに布団から手を出すと目覚ましを掴み、
スイッチを押して音を止めて、
そしてまた寝始めた。
どうやら、玲は朝に弱いらしい。
目覚ましの時間が早いのも、忙しいからではなくすぐに起きられないからなのかもしれない。
「……」
スヌーズ機能によって再び目覚ましが鳴り出した。
玲の手がまたも目覚ましに伸びてスイッチを押そうとしたところで、その手を足で小突いてやる。
「んぅっ……?」
玲の瞼が開く。
ゆっくりと焦点の合っていない目がこちらに向いて――
「…………っ!?」
目が合って、
しばらくの間を置いて、
玲は跳ね起きた。
「よう、玲。おはよう」
「……っ、も、申し訳ありません!!」
玲は長襦袢をはだけさせたままに布団の上で土下座をし始めた。
昨日のような品は欠片もない、焦った挙動だ。
「謝罪はいい。俺はそのまま布団で寝るから、いつもの時間に起こしてくれ」
「はっ、はい……」
玲は軽く布団を整えると、目覚ましを持って小走りで部屋の外へ向かって――
「……あっ」
部屋を出る直前に、玲は何かに気付いたような声を出した。
「どうした?」
「っ……部屋のゴミを回収しておきます」
「ああ、頼んだ」
玲は部屋のゴミ箱を掴むと、そのまま逃げるように去って行った。
初めての寝坊で朝のスケジュールが狂って焦っているのだろうか。
(ま、俺には関係ない話だ)
玲の温もりが残っている布団に横になる。
布団はすぐさま意識をまどろみへと誘って――
(……今日って、ゴミの日だったか?)
そんな他愛のない疑問も、すぐに闇へと落ちていった。
「あぁ……?」
いつもとは違う起こされ方。
俺を起こしたのは玲の声ではなく、機械的な電子音だった。
「……忘れてた」
玲の部屋で寝たのだから、玲の目覚ましがあるのは当たり前のことだ。
そして俺の部屋には目覚ましが無いのだから、玲はまだ寝ているのだろう。
「俺が起こすのか……めんどうだな……」
時計は五時を示している。
玲はいつもこんな早くに起きていたのか。
それほどに朝は忙しいということなのだろう。
ここで玲を起こさなければ家事にも支障が出てくるかもしれない。
「はぁ……仕方ないか」
時計を忘れたのは玲だが、俺も気付かなかったのだ。
一方的に玲を責めることはできないだろう。
まだまだ寝足りないが、玲を起こしてから改めて寝ればいい。
まずは目覚ましを止めて――
「……どうやって止めるんだ、これ」
玲の部屋の目覚まし時計にはボタンが複数ついており、どれを押せば止まるのかがわからない。
変にいじると時間がずれて面倒なことになる可能性もある。
「……まあいいか。どうせだから、こいつに玲を起こしてもらおう」
電子音を鳴らし続ける時計を片手に、自室で眠る玲の元へ向かうことにした。
「すーっ……すーっ……」
穏やかな寝息をたてながら、玲は俺の布団で寝ている。
「……」
玲が寝ている姿を見るのは初めてだ。
長襦袢がはだけて、玲の白い肌が露わになっている。
枕は頭の下には無く、玲の細い腕に抱きかかえられている。
鼻先を枕に埋めるようにして、髪が寝ぐせで跳ねている。
その姿はあどけなくて、小柄さも相俟って少年と形容するのが相応しいように感じてしまう。
実際は高校も卒業するくらいの年齢だというのに。
「……おら、起きろ」
玲の耳の近くに鳴り続ける目覚ましを置いてやる。
すると、玲は即座に反応を示した。
「んーっ…………んっ…………すーっ……すーっ……」
「……」
玲は億劫そうに布団から手を出すと目覚ましを掴み、
スイッチを押して音を止めて、
そしてまた寝始めた。
どうやら、玲は朝に弱いらしい。
目覚ましの時間が早いのも、忙しいからではなくすぐに起きられないからなのかもしれない。
「……」
スヌーズ機能によって再び目覚ましが鳴り出した。
玲の手がまたも目覚ましに伸びてスイッチを押そうとしたところで、その手を足で小突いてやる。
「んぅっ……?」
玲の瞼が開く。
ゆっくりと焦点の合っていない目がこちらに向いて――
「…………っ!?」
目が合って、
しばらくの間を置いて、
玲は跳ね起きた。
「よう、玲。おはよう」
「……っ、も、申し訳ありません!!」
玲は長襦袢をはだけさせたままに布団の上で土下座をし始めた。
昨日のような品は欠片もない、焦った挙動だ。
「謝罪はいい。俺はそのまま布団で寝るから、いつもの時間に起こしてくれ」
「はっ、はい……」
玲は軽く布団を整えると、目覚ましを持って小走りで部屋の外へ向かって――
「……あっ」
部屋を出る直前に、玲は何かに気付いたような声を出した。
「どうした?」
「っ……部屋のゴミを回収しておきます」
「ああ、頼んだ」
玲は部屋のゴミ箱を掴むと、そのまま逃げるように去って行った。
初めての寝坊で朝のスケジュールが狂って焦っているのだろうか。
(ま、俺には関係ない話だ)
玲の温もりが残っている布団に横になる。
布団はすぐさま意識をまどろみへと誘って――
(……今日って、ゴミの日だったか?)
そんな他愛のない疑問も、すぐに闇へと落ちていった。
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