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兄と弟
夜中の頭痛
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「っ……つぅっ……!!」
夜中。
風呂に入った後に玲が用意した布団に入って、目を閉じて、睡眠に入った後。
突然、頭痛に意識を起こされた。
「あっ……ぐぅっ……!!」
物心ついた頃から片頭痛には度々悩まされてきた。
最近は調子が良かったのだが、ここまで酷いのは久しぶりだ。
「うっ……薬……」
確か、部屋の机に薬を用意していたはずだ。
記憶を頼りに引き出しを乱暴に開けて中を漁るが、目当ての薬は見つからない。
机に保管していた分は切らしていたか。
それとも暗がりと頭痛で歪んだ意識で見つけられていないだけなのか。
このまま探していても埒が明かない。
リビングには薬があるはずだ。
そっちに向かった方がいいだろう。
「いやっ……それよりも、玲……!」
リビングよりも玲の部屋の方が近い。
壁に手を付いて、
掠れるような声で玲の名前を呼びながら、
足を引きずるように歩いていく。
「はぁっ……はぁっ……玲……玲っ……」
いつもなら歩いて一分もかからない距離なのに、今は数時間も歩き続けているような感覚。
まるで悪夢のような行進を続けて、なんとか玲の部屋の前に辿りついた。
「うっ……玲」
体を預けるように扉に寄り掛かる。
中の様子を窺うと、微かに玲の声が聴こえてきた。
『はっ…………はっ…………ふぅっ……』
「……?」
部屋の中では玲も頭痛に苦しんでいるような、そんな声が聴こえた。
どちらにせよ、玲は部屋の中には居るようだ。
ドアノブに体重をかけて、体で押すようにしてドアを開いて部屋の中へ入った。
「っ!? ……かっ、一宏様……?」
玲は扉が開いたことに気付くと、びくっと体を縮こまらせた。
名前を呼んでいたつもりだったが、驚かせてしまっていたようだ。
「玲……うっ」
「一宏様っ!? どうされたのですか!?」
ようやく俺の様子がおかしいことに気付いたのか、玲は椅子から飛び上がって駆け寄ってきた。
そして壁にもたれる俺の体に手を回そうとして――
「っ……」
「……?」
俺の体に玲の手が触れようとしたその瞬間、玲の手は触れる前に引っ込んでいった。
「……一宏様、具合が悪いのですか?」
「ああ、いつもの頭痛だ……つっ……薬を頼む」
「かしこまりました。お部屋にお持ち致しますが、自室まで戻れますか?」
「……いや、ここに持ってきてくれ。玲のベッドを借りるぞ」
玲の非力さでは、歩行の補助をされても大した助けにはならない。
今はとにかく体を休めたかった。
「承知しました。すぐにお持ち致します」
部屋を出ていく玲を背中で見送って、玲のベッドに腰を下ろす。
立っているよりかはほんの少しだが気分が楽になった。
「ふーっ……ふーっ……」
長く、深く息を吐いて痛みを誤魔化す。
なるべく思考を働かせないように、五感に入ってくる刺激だけに集中する。
「うっ……はぁっ、はぁっ……」
水音が聴こえる。
玲が薬を飲むための水をコップに汲んでいるのだろうか。
「……いや……違うな……」
じゃばじゃばと飛沫が鳴っているのは、手を洗う音だ。
玲はリビングではなく、洗面所で手を洗っているらしい。
「なにしてんだ、あいつ……」
そういえば、玲は俺の体に触れることも躊躇っていた。
この部屋で、玲は手の汚れるようなことをしていたのだろうか。
夜中。
風呂に入った後に玲が用意した布団に入って、目を閉じて、睡眠に入った後。
突然、頭痛に意識を起こされた。
「あっ……ぐぅっ……!!」
物心ついた頃から片頭痛には度々悩まされてきた。
最近は調子が良かったのだが、ここまで酷いのは久しぶりだ。
「うっ……薬……」
確か、部屋の机に薬を用意していたはずだ。
記憶を頼りに引き出しを乱暴に開けて中を漁るが、目当ての薬は見つからない。
机に保管していた分は切らしていたか。
それとも暗がりと頭痛で歪んだ意識で見つけられていないだけなのか。
このまま探していても埒が明かない。
リビングには薬があるはずだ。
そっちに向かった方がいいだろう。
「いやっ……それよりも、玲……!」
リビングよりも玲の部屋の方が近い。
壁に手を付いて、
掠れるような声で玲の名前を呼びながら、
足を引きずるように歩いていく。
「はぁっ……はぁっ……玲……玲っ……」
いつもなら歩いて一分もかからない距離なのに、今は数時間も歩き続けているような感覚。
まるで悪夢のような行進を続けて、なんとか玲の部屋の前に辿りついた。
「うっ……玲」
体を預けるように扉に寄り掛かる。
中の様子を窺うと、微かに玲の声が聴こえてきた。
『はっ…………はっ…………ふぅっ……』
「……?」
部屋の中では玲も頭痛に苦しんでいるような、そんな声が聴こえた。
どちらにせよ、玲は部屋の中には居るようだ。
ドアノブに体重をかけて、体で押すようにしてドアを開いて部屋の中へ入った。
「っ!? ……かっ、一宏様……?」
玲は扉が開いたことに気付くと、びくっと体を縮こまらせた。
名前を呼んでいたつもりだったが、驚かせてしまっていたようだ。
「玲……うっ」
「一宏様っ!? どうされたのですか!?」
ようやく俺の様子がおかしいことに気付いたのか、玲は椅子から飛び上がって駆け寄ってきた。
そして壁にもたれる俺の体に手を回そうとして――
「っ……」
「……?」
俺の体に玲の手が触れようとしたその瞬間、玲の手は触れる前に引っ込んでいった。
「……一宏様、具合が悪いのですか?」
「ああ、いつもの頭痛だ……つっ……薬を頼む」
「かしこまりました。お部屋にお持ち致しますが、自室まで戻れますか?」
「……いや、ここに持ってきてくれ。玲のベッドを借りるぞ」
玲の非力さでは、歩行の補助をされても大した助けにはならない。
今はとにかく体を休めたかった。
「承知しました。すぐにお持ち致します」
部屋を出ていく玲を背中で見送って、玲のベッドに腰を下ろす。
立っているよりかはほんの少しだが気分が楽になった。
「ふーっ……ふーっ……」
長く、深く息を吐いて痛みを誤魔化す。
なるべく思考を働かせないように、五感に入ってくる刺激だけに集中する。
「うっ……はぁっ、はぁっ……」
水音が聴こえる。
玲が薬を飲むための水をコップに汲んでいるのだろうか。
「……いや……違うな……」
じゃばじゃばと飛沫が鳴っているのは、手を洗う音だ。
玲はリビングではなく、洗面所で手を洗っているらしい。
「なにしてんだ、あいつ……」
そういえば、玲は俺の体に触れることも躊躇っていた。
この部屋で、玲は手の汚れるようなことをしていたのだろうか。
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