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兄と弟
過ぎ去っていく日常
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「……そろそろ出るか」
「かしこまりました」
結局、玲とはまともに話すことはなかった。
普段と比べたらその会話量は天と地ほどの差だが、友人たちと比べたら微量だ。
おそらく一般的な兄弟とは比べるべくもない密度だった。
わかったことと言えば、
玲はお菓子が好きで、
我慢強くて、
夜伽に対してやる気があるということだ。
実にどうでもいいことばかりだが、今まではそんな些事も知らなかった。
珠美の意図はわからないが、玲と会話をするという頼みには十分に報えたと考えていいだろう。
「玲、カバン」
「今お持ち致します」
俺の部屋へと向かう玲を見送って玄関へ向かう。
腰を下ろして靴を履くと、すぐに玲がカバンと櫛、それから霧吹きを持ってきた。
「一宏様、髪を」
「ん」
頭を預けると、玲の手が頭に添えられた。
「失礼いたします」
居間で崩れた髪を玲が慣れた手つきで整えていく。
時たま霧吹きで髪に水を吹き付けながら、櫛と手で髪を撫でつける。
「……終わりました」
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
玲から受け取った鞄を肩にかけて。
頭を下げる玲に見送られて。
俺は家を出た。
家を出てから一時間ちょっとで大学に到着。
大学の食堂で昼飯を食べて、午後の3限と4限を受ける。
友人らとコミュニケーションを取って大学を出る。
そしてまた一時間ちょっとの時間をかけて、家へと戻ってきた。
「帰ったぞ」
時間にして18時を少し過ぎたあたり。
夕飯を食べるにはちょうどいい時間だ。
「お帰りなさいませ、一宏様」
帰宅を告げてから少しすると、玲が小走りで玄関へやってきた。
着物に割烹着を着た姿は数時間前と微塵も変わっていない。
「何か問題はなかったか?」
「万事滞りありません」
親父が死んでから初めて大学に行ったが、特に支障は無かったようだ。
玲が家に一人きりなんてこれが初めてではないし、当たり前と言えば当たり前だろう。
葬儀でバタバタと忙しい時期も、玲にはずっと留守番を任せていた。
むしろ、親父の世話が無くなった分仕事が減って楽が出来ているのかもしれない。
「夕食は?」
「一宏様のご希望通り、からあげを用意してあります。一宏様の食事に合わせてお揚げ致します」
「それじゃあもう揚げ始めていいぞ。カバンは自分で部屋に運ぶ」
「承知しました」
玲は一礼をした後、小走りで台所の方へ去って行った。
「お待たせいたしました」
食卓に着いてから数分もしない内に、目の前には唐揚げの乗せられた皿が現れた。
添え物には赤いミニトマト、鮮やかな緑の千切りキャベツ、そして玄米と味噌汁。
彩も鮮やかで、申し分ない夕食だ。
「いただきます」
からあげに齧り付くと、じゅわっと肉汁が染み出してきた。
ざくざくとした衣の食感。
柔らかくジューシーな鶏のもも肉。
醤油をベースにした味付けは米にもキャベツにもよく合う。
気付けば、茶碗に盛られた玄米が空になっていた。
「おかわり」
「はい」
「ごちそうさま。玲、風呂は?」
「はい、いつでも入れます」
「じゃ、先入ってるから」
「承知しました。すぐに向かいます」
玲を置いて、リビングを出たその足で風呂へ向かう。
脱衣籠に衣服を放り込んで、
浴場に入ったら全身にシャワーを浴びて、
髪を洗い終わったタイミングで玲が入ってきた。
「一宏様。お待たせいたしました」
「ああ、入っていいぞ」
「失礼いたします」
いつも通りに、玲は湯帷子を着た状態で浴場に入ってきた。
「頭はもう終わってる」
「では、お体を洗わせていただきます」
玲の手が俺の体に触れる。
タオルでごしごしと、強すぎない力加減で体を擦って。
タオルでは刺激が強すぎる箇所は、石鹸を纏わせたヌルヌルの手で直接洗う。
「……」
「……」
夜伽のおかげか、玲の手つきで体が興奮することもない。
これなら、今日は夜伽は必要ないだろう。
「……」
「……」
「……玲、長くないか?」
「……昨夜は夜伽をしましたので、念入りにと思いまして」
確かに、玲に入れている個所を思えば念入りなくらいでちょうどいいのかもしれない。
「……」
「……」
「……では、流します」
「ああ」
「……一宏様、今日は夜伽はいかがなさいますか?」
「ん? 今日はいらないぞ。今までも連続でさせたことはないだろう」
「かしこまりました……」
「かしこまりました」
結局、玲とはまともに話すことはなかった。
普段と比べたらその会話量は天と地ほどの差だが、友人たちと比べたら微量だ。
おそらく一般的な兄弟とは比べるべくもない密度だった。
わかったことと言えば、
玲はお菓子が好きで、
我慢強くて、
夜伽に対してやる気があるということだ。
実にどうでもいいことばかりだが、今まではそんな些事も知らなかった。
珠美の意図はわからないが、玲と会話をするという頼みには十分に報えたと考えていいだろう。
「玲、カバン」
「今お持ち致します」
俺の部屋へと向かう玲を見送って玄関へ向かう。
腰を下ろして靴を履くと、すぐに玲がカバンと櫛、それから霧吹きを持ってきた。
「一宏様、髪を」
「ん」
頭を預けると、玲の手が頭に添えられた。
「失礼いたします」
居間で崩れた髪を玲が慣れた手つきで整えていく。
時たま霧吹きで髪に水を吹き付けながら、櫛と手で髪を撫でつける。
「……終わりました」
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
玲から受け取った鞄を肩にかけて。
頭を下げる玲に見送られて。
俺は家を出た。
家を出てから一時間ちょっとで大学に到着。
大学の食堂で昼飯を食べて、午後の3限と4限を受ける。
友人らとコミュニケーションを取って大学を出る。
そしてまた一時間ちょっとの時間をかけて、家へと戻ってきた。
「帰ったぞ」
時間にして18時を少し過ぎたあたり。
夕飯を食べるにはちょうどいい時間だ。
「お帰りなさいませ、一宏様」
帰宅を告げてから少しすると、玲が小走りで玄関へやってきた。
着物に割烹着を着た姿は数時間前と微塵も変わっていない。
「何か問題はなかったか?」
「万事滞りありません」
親父が死んでから初めて大学に行ったが、特に支障は無かったようだ。
玲が家に一人きりなんてこれが初めてではないし、当たり前と言えば当たり前だろう。
葬儀でバタバタと忙しい時期も、玲にはずっと留守番を任せていた。
むしろ、親父の世話が無くなった分仕事が減って楽が出来ているのかもしれない。
「夕食は?」
「一宏様のご希望通り、からあげを用意してあります。一宏様の食事に合わせてお揚げ致します」
「それじゃあもう揚げ始めていいぞ。カバンは自分で部屋に運ぶ」
「承知しました」
玲は一礼をした後、小走りで台所の方へ去って行った。
「お待たせいたしました」
食卓に着いてから数分もしない内に、目の前には唐揚げの乗せられた皿が現れた。
添え物には赤いミニトマト、鮮やかな緑の千切りキャベツ、そして玄米と味噌汁。
彩も鮮やかで、申し分ない夕食だ。
「いただきます」
からあげに齧り付くと、じゅわっと肉汁が染み出してきた。
ざくざくとした衣の食感。
柔らかくジューシーな鶏のもも肉。
醤油をベースにした味付けは米にもキャベツにもよく合う。
気付けば、茶碗に盛られた玄米が空になっていた。
「おかわり」
「はい」
「ごちそうさま。玲、風呂は?」
「はい、いつでも入れます」
「じゃ、先入ってるから」
「承知しました。すぐに向かいます」
玲を置いて、リビングを出たその足で風呂へ向かう。
脱衣籠に衣服を放り込んで、
浴場に入ったら全身にシャワーを浴びて、
髪を洗い終わったタイミングで玲が入ってきた。
「一宏様。お待たせいたしました」
「ああ、入っていいぞ」
「失礼いたします」
いつも通りに、玲は湯帷子を着た状態で浴場に入ってきた。
「頭はもう終わってる」
「では、お体を洗わせていただきます」
玲の手が俺の体に触れる。
タオルでごしごしと、強すぎない力加減で体を擦って。
タオルでは刺激が強すぎる箇所は、石鹸を纏わせたヌルヌルの手で直接洗う。
「……」
「……」
夜伽のおかげか、玲の手つきで体が興奮することもない。
これなら、今日は夜伽は必要ないだろう。
「……」
「……」
「……玲、長くないか?」
「……昨夜は夜伽をしましたので、念入りにと思いまして」
確かに、玲に入れている個所を思えば念入りなくらいでちょうどいいのかもしれない。
「……」
「……」
「……では、流します」
「ああ」
「……一宏様、今日は夜伽はいかがなさいますか?」
「ん? 今日はいらないぞ。今までも連続でさせたことはないだろう」
「かしこまりました……」
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