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兄と弟
洗顔、歯磨き
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着替えを終えたら洗顔をする。
たいていの事は玲にやらせているが、洗顔はいつも俺自身が行なっている。
理由は洗わせる方が手間が遥かに増えるからだ。
家に美容院のような洗面台があれば、玲に洗わせていたのかもしれない。
玲が管理している洗顔料を手に取る。
ブランド名も知らないそれは玲も使用している物だ。
冷遇されていることの多い玲だが、美容と身だしなみに関わることは俺と同等の待遇であり、シャンプーや化粧水も同じものを使用している。
曲がりなりにも宗田の家の者として、見苦しい格好は許されていないのだろう。
俺としても、食事や夜伽を担当している玲の見目は良い方が好ましい。
「っ、一宏様」
洗顔を終え、化粧水を顔に着けている最中に声をかけられた。
「どうした。朝食の準備は終わったのか」
「はい。あとは一宏様が着席後によそうだけです」
「わかった。それで、どうかしたのか?」
「いえ、その……申し訳ありません。古い物は下げておくべきでした」
「? ……あー、そういえばそうだったな」
顔にビチャビチャとつけたばかりの化粧水。
少し前に、新しい種類を買うようにしたのでそっちを使うように言われていたのだった。
確か、複数の効果を持ったジェルタイプとかなんとか。
玲に任せっぱなしなので詳しいことはわからないが、新しい種類の方が効き目があるのだろう。
玲の報告に返事をした覚えはあるものの、今日までずっと古いタイプを使ってしまっていたようだ。
「そちらは私が消費しておきますので、一宏様は新しい物をお使いください」
「……いや、こっちは俺が使う。玲が新しい物を使え」
「えっ? しっ、しかし……」
「いいから、言う通りにしとけ。それとも、使う化粧水のタイプまで教育されたのか?」
「いえ……承知しました」
玲の見目もある意味では才能だ。
維持できるならしておいた方が俺にとっても都合がいい。
「ああ、そうだ。ついでに歯磨きを頼めるか。歯ブラシが新しいせいか、最近磨く度に出血するんだ」
「かしこまりました。では準備して向かいますので、居間でお待ちください」
「わかった」
玲を洗面所へ置いて、この家に残された数少ない和室である居間へ向かう。
「お待たせしました。一宏様、こちらへどうぞ」
玲はすぐに居間へとやってきて、畳の上に正座をした。
「じゃっ、頼んだ」
俺は服が皺になるのも気にせず、仰向けになって玲の膝に頭を乗せた。
玲の足は細く、肉が薄く、乗せ心地はお世辞にもよくはない。
しかし膝枕なんてそうそうさせる機会があるわけでもない。
夜伽の事を考えれば、太っているよりも今の体格のままの方が好ましい。
「では、失礼いたします」
玲がブラシの三分の一程度まで歯磨き粉を乗せたのを確認して口を開ける。
玲の手が控えめに顎に触れて、間もなく舌に固い感触が触れた。
「……」
「……」
俺は喋れないし、玲が喋るはずもない。
そもそも玲と雑談をした記憶なんてない。
しゃかしゃかとブラシが歯を擦る音。
テンポよく、歯肉に掠ることもなく、痛みもない。
誰かに歯を磨かせるのなんて、年端もいかない子供だけだろうけれど。
俺と玲の間にはそんな常識は関係ない。
「……」
「……」
ブラシは我が物顔で口の中を行き来する。
右へ、左へ。
玲の手つきは慣れていて淀みない。
「……」
「……」
玲を後頭部に感じながら、
見下ろす玲の顔を見ながら、
俺は口の中を玲にされるがままに任せていた。
たいていの事は玲にやらせているが、洗顔はいつも俺自身が行なっている。
理由は洗わせる方が手間が遥かに増えるからだ。
家に美容院のような洗面台があれば、玲に洗わせていたのかもしれない。
玲が管理している洗顔料を手に取る。
ブランド名も知らないそれは玲も使用している物だ。
冷遇されていることの多い玲だが、美容と身だしなみに関わることは俺と同等の待遇であり、シャンプーや化粧水も同じものを使用している。
曲がりなりにも宗田の家の者として、見苦しい格好は許されていないのだろう。
俺としても、食事や夜伽を担当している玲の見目は良い方が好ましい。
「っ、一宏様」
洗顔を終え、化粧水を顔に着けている最中に声をかけられた。
「どうした。朝食の準備は終わったのか」
「はい。あとは一宏様が着席後によそうだけです」
「わかった。それで、どうかしたのか?」
「いえ、その……申し訳ありません。古い物は下げておくべきでした」
「? ……あー、そういえばそうだったな」
顔にビチャビチャとつけたばかりの化粧水。
少し前に、新しい種類を買うようにしたのでそっちを使うように言われていたのだった。
確か、複数の効果を持ったジェルタイプとかなんとか。
玲に任せっぱなしなので詳しいことはわからないが、新しい種類の方が効き目があるのだろう。
玲の報告に返事をした覚えはあるものの、今日までずっと古いタイプを使ってしまっていたようだ。
「そちらは私が消費しておきますので、一宏様は新しい物をお使いください」
「……いや、こっちは俺が使う。玲が新しい物を使え」
「えっ? しっ、しかし……」
「いいから、言う通りにしとけ。それとも、使う化粧水のタイプまで教育されたのか?」
「いえ……承知しました」
玲の見目もある意味では才能だ。
維持できるならしておいた方が俺にとっても都合がいい。
「ああ、そうだ。ついでに歯磨きを頼めるか。歯ブラシが新しいせいか、最近磨く度に出血するんだ」
「かしこまりました。では準備して向かいますので、居間でお待ちください」
「わかった」
玲を洗面所へ置いて、この家に残された数少ない和室である居間へ向かう。
「お待たせしました。一宏様、こちらへどうぞ」
玲はすぐに居間へとやってきて、畳の上に正座をした。
「じゃっ、頼んだ」
俺は服が皺になるのも気にせず、仰向けになって玲の膝に頭を乗せた。
玲の足は細く、肉が薄く、乗せ心地はお世辞にもよくはない。
しかし膝枕なんてそうそうさせる機会があるわけでもない。
夜伽の事を考えれば、太っているよりも今の体格のままの方が好ましい。
「では、失礼いたします」
玲がブラシの三分の一程度まで歯磨き粉を乗せたのを確認して口を開ける。
玲の手が控えめに顎に触れて、間もなく舌に固い感触が触れた。
「……」
「……」
俺は喋れないし、玲が喋るはずもない。
そもそも玲と雑談をした記憶なんてない。
しゃかしゃかとブラシが歯を擦る音。
テンポよく、歯肉に掠ることもなく、痛みもない。
誰かに歯を磨かせるのなんて、年端もいかない子供だけだろうけれど。
俺と玲の間にはそんな常識は関係ない。
「……」
「……」
ブラシは我が物顔で口の中を行き来する。
右へ、左へ。
玲の手つきは慣れていて淀みない。
「……」
「……」
玲を後頭部に感じながら、
見下ろす玲の顔を見ながら、
俺は口の中を玲にされるがままに任せていた。
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