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兄と弟

葬式の後

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 親父が死んだ。
 死因は病死。
 詳しい病名は知らないが、大して重い病気ではなかった気がする。

 親父はまだ五十代だった。
 年寄りなら風邪でも死ぬのだろうが、それに当てはめるには親父は若すぎる。
 でも、うちの家系では珍しく無いらしい。

 喪主は叔父が務めてくれた。
 長男である俺はまだ成人したばかりで。
 母はずっと前に他界してしまっていたから。

(尤も、あの人が生きていても結局は珠美さんが仕切ってくれてたんだろうけど)

 地主であり、土地の権力者でもあった親父の葬式には、たくさんの人間が参列した。
 見知った顔も。
 知らない顔も。

 みんなが、長男である俺に声をかけてきた。
 みんなが、俺に顔を覚えてもらおうと必死だったように見えた。

 こんな田舎の地主になんの価値があるのか。
 それとも、田舎だからこそ価値があるのか。

 なんにせよ、これで俺は宗田家の長男としてその全てを引き継ぐことになった。
 兄弟で住むには広すぎる家も。
 何もしなくても懐に入ってくる土地の貸付金も。

 成人したばかりの若造に扱いきれるものじゃない。
 そんなことは自分が一番にわかっていて。
 だからやっぱり、ここでも叔父が面倒を見てくれることになった。

「一宏くん、私は一度家へ戻る。来週からそちらにお世話になるから、それまでは玲くんと二人で支えあうんだよ」
「はい、珠美さん。来週からよろしくお願いします」
「ああ、それじゃあね」

 黒い車に乗って、叔父が家から去っていく。

 来週からしばらくの間は、家には叔父が居候する。
 俺の後見人としての役目を果たすために。

 突然同居人が増えることに気まずさを覚えなくは無いけれど。
 親父が死んだ後のゴタゴタを片付けてくれるのだから、感謝の方が大きい。

「一宏様」

 小さくなっていく車を見つめていると、背中にか細い声がぶつかってきた。
 振り返ると、着物の上に割烹着を着た玲がちょこんと立っている。

「玲、どうした?」
「夕食の準備ができました」
「わかった。すぐに行くよ」

 玲は深々と一礼をすると、淑やかに振り返って家の中へと戻っていく。

 俺と年齢はそう変わらないのに、玲の体格はとても小柄だ。
 兄弟なのに身長差は30センチくらいあって。
 着物を着ていることもあり座敷童のようだ。

「親父も珠美さんも、そんなに背は低くないんだよな……」

 ということは、玲は母親の血を濃く引いているということだ。
 その小柄さも、顔立ちも。
 確かにあの人と似ている気がする。

 対して、兄である俺は嬉しくもないことに親父似だ。
 似ている所を挙げ連ねることにも嫌気が差すほどに、親父の血を濃く引いていることは自覚している。

「……でも、逆だったら悲惨だったな」

 弟である玲が親父似で。
 兄である俺が母親似だったとしたら。

 それこそ想像したくもない。
 この家においては、それはあまりにも致命的だから。
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