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ゴブリン殲滅編

誰が為の祝福

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「そうですよね……。申し訳ありません、聖女様。考え無しなお願いをしてしまって」
「子を思う親の気持ちが誹られる謂れはありません。お願いを叶えることはできずとも、貴方の思いが報われることを祈っています。それに、祝福を受けられるのは兵士のみなさまだけではありませんから。フェル様の働きがマニの町にとっての特別となった暁には、どうかボクから祝福を送らせてください」

 祝福の儀式は兵士に贈るもの以外にも存在する。
 兵士でなくとも、マニの町に大きく貢献したと認められれば聖女から祝福が捧げられる。

 命の危険がある兵士に相当する貢献をするのは決して簡単とは言えないけれども、それでも可能性は0では無い。
 まだ聖女歴の浅いボクだって、兵士以外の信徒を祝福したことは何度もある。

「はい……ありがとうございます……。娘にも、聖女様からの激励をしっかりと伝えさせていただきます……」
「……あ、あの……それで、ベルス様への祝福は?」
「……申し訳ありません、今日のところは辞退させてください。やはり、娘のことを思うと……」
「…………そ、そうですか」

 それは予想していた答えだった。
 何となく、そんな気はしていた。

 そして、ボク個人としてはその返答を認めたくはなかった。

「では、私はこれで――」
「……っ、いいんですか? ほんとに、ここで帰っちゃっても」
「え?」

 だってそうだろう。

 彼は危険の伴うゴブリン討伐において活躍し、十分にマニの町に貢献している。
 私生活においても大きな問題を起こさず、敬虔な信徒として日々を過ごしている。

 そんな彼が報われないなんて認められない。
 父親の娘への思いは確かに尊いけれども、彼個人の願望を無視していいわけじゃない。

 何よりも――ボクが――ボク自身が――

「へっ、兵士のみなさまをたくさんっ、たくさん祝福して、火照ってしまって、どうしようもなくなってしまったボクのことっ……置いていっちゃうんですか?」

 ――彼に抱かれたくて仕方がない。

「っ……しっ、しかし、娘は今も一人で聖女様に信仰を捧げているのだと思うと……父親である私が祝福を享受するのも憚られてしまって……」
「ひどいですよっ、ベルス様……フェル様の名前を出されたら、ボクがどんな気持ちになるのかなんて、わかっているくせにっ……」
「えっ? も、申し訳ありません……私としては、聖女様に粗相をするつもりは無くて、何が失礼にあたるのか見当も……」

 祝福を受けているのは聖女と信徒のどちらなのか。
 抱擁してもらっているのは彼とボクのどちらなのか。

 はたしてこの時間は、誰のためのご褒美なのか。
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