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ゴブリン殲滅編

聖女は兵士を強く抱擁してその身を労うべし

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「烏滸がましいなんて、そんなことはないです。貴方の放った一矢は武器を振りかぶろうとしていたゴブリンに命中し、攻撃の妨げとなっていました。それに、ボウガンによる攻撃は命中しなくとも意味があります。それは貴方自身もわかっていますよね?」
「そ、それは、そうですが……」
「初めての戦場で、貴方は立派に戦っていました。それはボクだけではなく、共に戦った仲間たちも認めるはずです。その勇気を、武勲を、どうかボクに称えさせてください」
「せ、聖女様……!」

 両腕を広げると、彼は遠慮がちに近づいてきた。
 本当にいいのかと、不安げな様子で。

 本当にいいのか、なんてボクのセリフだ。
 命をかけた結果得られるものがこんなものでいいのかと考えずにはいられない。

 これはマニ教の教典にも書かれている正式な儀式だから、その教えから外れるようなことは聖女であるボクには許されない。
 これ以下も、これ以上も、ボクにはどうしようもない。

 だから、どうか少しでも、ほんのちょっぴりだけでも、ボクにできる範囲でみんなのことを満たしてあげたい。
 ただボクが恥ずかしいだけの褒賞なんかじゃ、全然足りてない。

 みんなが喜んでくれるのなら、たくさん恥ずかしい思いをしたって、構わない。

「と、トレー様?」
「は、はい?」
「あの……その……あ、あまり、焦らさないでください……。そんなにお預けをされてしまったら、ボク……我慢できなくなっちゃいますっ……!」
「わぁっ!?」

 これは演技だから恥ずかしくない。
 辛抱堪らない感じで抱き着くとみんなが喜んでくれることを、ボクは良く知ってるから。

 男の人に自分から抱き着くなんて初めてじゃないし。
 聖女をしていたら初心なままでなんていられないし。

 だから全然恥ずかしくない。
 ちっとも、少しも、微塵も。

「せっ、せせ、聖女様……っ!?」

 頭の上から狼狽した声が聞こえた。
 ボクも成人しているというのに、首にすら身長が届いていない体格差だ。

 彼からすればボクは子供も同然の体格なのに、ただ抱き着いただけでこんなにも心臓を鳴らしてくれている。
 それはあくまでボクが聖女だからと理解はしているけれども、どうしても割り切ることができない。
 聖女という肩書きに向けられた信仰なのに、勝手にボクが愛撫されているような心地に陥ってしまう。

 というか――

 ――こんな男臭い部屋の中で――

 ――ボクよりもずっと大きな男の人に密着して――

 ――その興奮を至近距離で浴びせられて――

 ――それでも冷静にお役目を務めるなんて、10年後だってできる気がしない。
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