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最終日:朝焼けの中、涙を拭って微笑んで
人生にさよならを
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答えが一つ出ただけで次々と疑問が氷解していく。
三日という期限は、ボク自身が決めていたのだろう。
だって、ちょうど三日でボクはボクの中の死にたがりを探し出したのだから。
ボクが無意識に必要とした猶予を、死ね神は読み取っていただけだった。
頑なにボクの質問に答えなかったのも、それが自分で気付かないと意味がなかったからだ。
死ね神に自身が死にたがっていると言われたところで、ボクはきっと今ほどの納得をしなかった。
考えてみれば、祖母のために命を差し出すというのもこれ以上なく歪な願いだ。
身内であるといはいえ、相手は祖母。
ボクの何倍も生きていて、そんな老いさらばえた人間のために命を差し出すという発想を、まともな人間がするはずがない。
そんな願いを無意識に頭に浮かべる人間が、どんな顔をして自身の生きる価値を唄えると言うのか。
パズルのピースが嵌っていくように、今回の騒動の全体像が浮かび上がっていく。
結局のところ悪いのは全部ボクで。
やっぱり抄を殺したのもボクだった。
ボクみたいな人間が死にたくないと言ってしまったばっかりに。
自身が呼び寄せた化け物を拒絶したがために、抄は死んだ。
こんな、一人で勝手に野垂れ死んでいればいいような人間と友達であったがために、抄は死んだのだ。
「お前の目的はボクなんだろ。お前は、ボクを殺す者なんだろ。なのになんで、ショウを殺したんだよ。殺す必要なんてなかったのに、どうして……」
「私はお前を殺す者だ。故に、それ以外の事柄に対して関心を持たぬ」
「だったら、ボク以外を殺す必要なんて……」
「逆だ。お前を殺すという目的さえ果たせるのであれば、それ以外はどうでも良い。誰が死のうと、何人死のうと、結果としてお前が死ぬのであれば構わぬ」
冷たく言い放つ死ね神の言葉に嘘はないのだろう。
もしもボクが地球上で最後の人類になるまで死ねないと言ったのなら、死ね神はそれを実行するのだろう。
「これ以上時間は必要あるまい。願いがあるのならば聞き遂げよう。お前の死後の願いを言え」
どうやら、本当にこれでボクは死ぬらしい。
呆気ない終わりだ。
ボクの人生にドラマティックなエンディングなんてない。
エンドロールに流れる名前だって、きっと十人にも満たなくて、後は全部エキストラ。
虚しく、悲しく、寂しく。
ボクは一人で死ぬ。
でも、不思議と心は落ち着いていた。
きっと、もう諦めてしまっているから。
いっそ、心は晴れやかなほどに清々しくもある。
このまま生きていたって何かを成せるわけじゃない。
ただ生命活動を維持しながら徐々に死んでいくだけ。
だから、ボクはここで終わりを迎える。
「どうした。死後の願いを――」
「願いはない」
「……」
「ボクは願いを叶えてもらう代わりに死ぬんじゃない。お前に殺されるんだ。ボクに生きる理由はないのかもしれない。でもボクは……決して死を望んでいるわけじゃない」
生きる理由がなくても、人間は生きていける。
生きてる意味が無いからといって素直に殺されるほど、人間は従順ではない。
死にたくないという理由一つだけを抱えて、人間は生きていかなくちゃいけない。
ただ、ボクにはその強さが備わっていなかっただけ。
死にたくないというだけで生きることがボクには出来なかった。
理由もなく生きることを。
無価値な人生を送る事を。
それを無意味じゃないと言えるだけの人間ではなかったのだ、ボクは。
それだけだ。
ボクがここで殺される理由はそれだけなんだ。
「……遺言を言え」
それがボクが最後に耳にする言葉。
答えたら殺される。
答えなければ、少しくらいは延命できるのかもれいない。
それでも、ボクは口を開いた。
正真正銘、人生最後の言葉。
遺言を死ね神に吐き出した。
「……死にたくない。ボクは、死にたくない……!」
涙が一滴だけ溢れて、口の中に入ってきた。
少しだけ感じられるしょっぱさが、なんだかとても愛おしくて、堰を切ったように涙が溢れ出した。
結局はそれがボクの全て。
死にたくないまま死んでいく。
そんなありふれた死に方が、伊那西拓の終幕。
「そうか……では――」
さよなら。
三日という期限は、ボク自身が決めていたのだろう。
だって、ちょうど三日でボクはボクの中の死にたがりを探し出したのだから。
ボクが無意識に必要とした猶予を、死ね神は読み取っていただけだった。
頑なにボクの質問に答えなかったのも、それが自分で気付かないと意味がなかったからだ。
死ね神に自身が死にたがっていると言われたところで、ボクはきっと今ほどの納得をしなかった。
考えてみれば、祖母のために命を差し出すというのもこれ以上なく歪な願いだ。
身内であるといはいえ、相手は祖母。
ボクの何倍も生きていて、そんな老いさらばえた人間のために命を差し出すという発想を、まともな人間がするはずがない。
そんな願いを無意識に頭に浮かべる人間が、どんな顔をして自身の生きる価値を唄えると言うのか。
パズルのピースが嵌っていくように、今回の騒動の全体像が浮かび上がっていく。
結局のところ悪いのは全部ボクで。
やっぱり抄を殺したのもボクだった。
ボクみたいな人間が死にたくないと言ってしまったばっかりに。
自身が呼び寄せた化け物を拒絶したがために、抄は死んだ。
こんな、一人で勝手に野垂れ死んでいればいいような人間と友達であったがために、抄は死んだのだ。
「お前の目的はボクなんだろ。お前は、ボクを殺す者なんだろ。なのになんで、ショウを殺したんだよ。殺す必要なんてなかったのに、どうして……」
「私はお前を殺す者だ。故に、それ以外の事柄に対して関心を持たぬ」
「だったら、ボク以外を殺す必要なんて……」
「逆だ。お前を殺すという目的さえ果たせるのであれば、それ以外はどうでも良い。誰が死のうと、何人死のうと、結果としてお前が死ぬのであれば構わぬ」
冷たく言い放つ死ね神の言葉に嘘はないのだろう。
もしもボクが地球上で最後の人類になるまで死ねないと言ったのなら、死ね神はそれを実行するのだろう。
「これ以上時間は必要あるまい。願いがあるのならば聞き遂げよう。お前の死後の願いを言え」
どうやら、本当にこれでボクは死ぬらしい。
呆気ない終わりだ。
ボクの人生にドラマティックなエンディングなんてない。
エンドロールに流れる名前だって、きっと十人にも満たなくて、後は全部エキストラ。
虚しく、悲しく、寂しく。
ボクは一人で死ぬ。
でも、不思議と心は落ち着いていた。
きっと、もう諦めてしまっているから。
いっそ、心は晴れやかなほどに清々しくもある。
このまま生きていたって何かを成せるわけじゃない。
ただ生命活動を維持しながら徐々に死んでいくだけ。
だから、ボクはここで終わりを迎える。
「どうした。死後の願いを――」
「願いはない」
「……」
「ボクは願いを叶えてもらう代わりに死ぬんじゃない。お前に殺されるんだ。ボクに生きる理由はないのかもしれない。でもボクは……決して死を望んでいるわけじゃない」
生きる理由がなくても、人間は生きていける。
生きてる意味が無いからといって素直に殺されるほど、人間は従順ではない。
死にたくないという理由一つだけを抱えて、人間は生きていかなくちゃいけない。
ただ、ボクにはその強さが備わっていなかっただけ。
死にたくないというだけで生きることがボクには出来なかった。
理由もなく生きることを。
無価値な人生を送る事を。
それを無意味じゃないと言えるだけの人間ではなかったのだ、ボクは。
それだけだ。
ボクがここで殺される理由はそれだけなんだ。
「……遺言を言え」
それがボクが最後に耳にする言葉。
答えたら殺される。
答えなければ、少しくらいは延命できるのかもれいない。
それでも、ボクは口を開いた。
正真正銘、人生最後の言葉。
遺言を死ね神に吐き出した。
「……死にたくない。ボクは、死にたくない……!」
涙が一滴だけ溢れて、口の中に入ってきた。
少しだけ感じられるしょっぱさが、なんだかとても愛おしくて、堰を切ったように涙が溢れ出した。
結局はそれがボクの全て。
死にたくないまま死んでいく。
そんなありふれた死に方が、伊那西拓の終幕。
「そうか……では――」
さよなら。
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