死の間際、あなたは親友ですか?

papporopueeee

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初日:知らない誰かと、知っている筈の自分

願いの意味

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 この流れは良くない。
 このままでは死に抗うどころか有意義に生きることもできそうにない。

 いっそのこと発想を変えて死ぬ理由でも考えてみようか。
 死にたくない理由がないということは、生きている理由もないと言えなくもない。
 それでも普通なら自死なんてありえない選択肢だが、死ね神相手なら話が変わる。

 不幸中の幸いと言っていいかはわからないが、この死ね神は願いを叶えてくれる。
 抄が願ったような実現不可能な望みであっても、死ね神に殺されるという条件付きならば叶ってしまう。
 ならばそれを利用しない手はない。
 生き抜くことができないならば、せめて死に抜きたい。

「……なあ、お前って願いを叶えてくれるんだよな?」
「然り」
「じゃあさ、十年後に殺されてやるから超人的な力が欲しいんだけど」
「お前が死ぬのは三日後だ」
「み、三日なんて意味のない期限なんだろ? どうせ死ぬなら十年後でもいいじゃんか」
「ならば、今死ぬのも同じか?」

 瞬時に大鎌が現れ、カタリと音を立てながら骨の指が柄を握り込んだ。

「ぐっ……じゃ、じゃあさ、お前に抗う力が欲しいとかは?」
「そんな物は存在しない」
「う、嘘付けよ。本当は反抗されたら面倒だから叶えたくないだけなんだろ?」
「否。そのような物は存在しない。私に打ち克つのに必要なものは一つ、心である」
「……つまり死を受け入れる覚悟を持てってことかよ」

 死ね神は返答することも頷くこともしない。
 それでも、答えなんてわかりきっている。

 金も、力も、権力も、死ね神への望みとしては適していない。
 それらを手に入れてもどうせ三日後には死んでしまう。
 だから意味があるのは死後の、抄が叶えてもらったような類の願いだけ。

「だったらショウみたいに転生がしたいな。この記憶を引き継いで、このままの姿で、この時代に」
「意味のないことはせぬ」
「な、ショウのときは似たような願いでも叶えたじゃないか!」
「私はお前を殺す者だ。記憶を引き継ぎたいのならば叶えよう。容姿の要望があれば叶えよう。しかしこの時代にお前が存在することは叶えられぬ。私はお前を殺す者だ」
「なんだよそれ……」

 確かに死ね神の言う事は尤もだ。
 ボクが死んだ後に全く同じボクが生まれるのではわざわざ殺す必要がない。
 けれど、それじゃあ死後の願いを叶える意味がない。

 容姿が選べる。
 それはとても魅力的だ。
 記憶を引き継げる。
 それはとても素晴らしい。
 しかしそれはこの時代に転生できてこそではないのか。

 過去の時代であろうと、未来の時代であろうと、仮に異世界であろうと、そこはボクが知らない世界だ。
 例え魅力的な外見であっても、記憶の中の家族や友人はそこにはいない。
 生きる理由が見つからないからといって、今の人間関係を容易く捨てされるわけじゃない。
 現代に未練があるボクにとっては、今のここで生きることができなければ転生なんて記憶があるだけ寂しいだけだ。

 だからといって記憶を消すのでは意味がない。
 記憶がないのでは、それは願いを叶えてもらったことにはならない。

 人の願いというのは不足を補いたいという欲望だ。
 ハンサムな男はモテたいとは願わない。
 金持ちはお金が欲しいなんて願わない。
 願いを抱いた自己を認識していなければ、願いが叶った実感がないのでは、それは願いが叶ったことにはならない。

 これでは転生もあまり現実的ではない。
 他に願いがなければそれに縋るしかないが、少なくとも喜んで取りたい選択肢ではない。
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