死の間際、あなたは親友ですか?

papporopueeee

文字の大きさ
上 下
6 / 84
プロローグ:日常が変革された日 

死にたくない

しおりを挟む
「しょ、ショウ?」
「ん? ああ、そうだけど……あれ、俺なんかおかしくないか?」

 少女はボクの友人にひどく似た口調で喋りながら、自身の体を見まわし始めた。
 そして明らかに自身の胸が膨らんでいることに気付くと、両手でそれを鷲掴みにした。

「え? ……うおぉ! おっぱいだ、俺おっぱいついてるっ!」

 少女はボクのことも、骸骨のことも無視して風呂場の方へと走っていってしまった。
 鏡で自身に起きた変化を確認するつもりなのだろう。

 あれは、もう先ほどまでの少女とは別人だ。
 記憶がないと焦燥していた少女は消えてしまった。
 骸骨が抄の人格をあの体に入れたことによって。

 しかし、あの少女をボクの友人である高伊勢抄たかいせ しょうだと定義してしまってもいいのだろうか。

 ボクの知っている高伊勢抄は男だ。
 イケメンだ。
 大学でも女子生徒からの人気が高く、今までに交際した女性の人数も二桁はあるプレイボーイだ。

 その抄を、あの生まれたばかりの美少女と同一視してしまっていいのだろうか。
 あれは、ボクが十数年付き合ってきた友人なのだろうか。

「少女にお前の友人の記憶を与えた。これを以って転生とする」

 思考を邪魔するように脳内に響く重い声。
 その声に首を振り、ボクは否と意思を示した。

「違う。あれはショウじゃない」
「何が違う? 刻み込まれた記憶、経験、体験。全てお前の友人のものだ」
「お前が与えただけだろ! お前が、女の子の記憶をショウに改造しただけだ!」
「では体が違えば、見た目が違えばそれは別人か? 火葬された遺体はただの骨か? 臓器移植を受けた人間は何者でもない紛い物か?」
「そ、それは……」

 何も言い返せなかった。
 今の抄が本物か偽者かなんて、ボクが決めていいことではないと気づかされたから。

 それは抄だけが選択権を握っていて、きっと本人も本物かどうかなんてわからないのだろう。

「ここに死後の願望は実現され、私はお前の仇敵ではなくなった」

 骸骨の手が大鎌を握り、その重厚な柄でフローリングを一度叩いた。
 まるで裁判長が木槌を振るうかのように。

「お前の死後の願望を言え。そして遺言を残せ」

 感情を使い果たし空っぽになった心に骸骨の言葉が反響する。
 もう骸骨に食って掛かった気概も、死に恐怖する怯えも残っていない。

 底からじわじわと諦観が滲み出してきて、がらんどうの心が満たされていく。

 死後の願望が叶えられるなら、ここで骸骨に殺されるのもいいのではないだろうか。
 むしろ、これから先どのような死を迎えるのかわからないのだから、安息に逝ける今は絶好の死ぬ機会とも思える。

「……ボクは――」

 それなのに。
 心はもう諦めているのに。

 ボクは「死にたくない」と口にしていた。

「なぜ拒む。理由を言え」
「わからない。でも、死にたくない」

 人間としての理性ではなく。
 生物としての本能でもなく。

 ただ、そう思ったんだ。

「死後に願望なんてない。遺言だって残したくなんかない。……死にたくない」
「……では探せ。お前が死を拒む理由を」
「え?」

 顔を上げると、そこには骸骨の姿はなかった。
 部屋を覆っていた重圧が無くなっていて、友人の血溜りも消え去っていて、すべてが元通りに戻っていた。

「……は?」 

 理解が追い付かず、驚愕の声が漏れ出た。

 あれほど死を迫り、超常の力を持っていたにも関わらず、骸骨はあっさりとボクの命を見逃したのだ。

「……なんなんだよ」

 急速に胸の内に広がる安堵感に追い出されるように、溜息が漏れた。

 友人と遊んで終わるはずだった一日は、いつの間にかファンタジーな世界に変わっていた。

 考えることはたくさんある。
 しなければならないこともおそらくたくさんある。

 しかし今はひたすら眠い。
 布団を敷くのも億劫なほどに疲労困憊だ。

 もうこのまま眠ってしまおう。
 そう思い目を瞑りかけたところに、少女の声が舞い込んできた。

「おいやべえよ! 俺すげえ美少女じゃね?」

 目を開けると、そこには裸体を隠すどころか見せ付けるようにして少女が立っていた。

「……」

 いつの間にかボクの体から眠気は消えていて、血の巡りも良くなっていた。
 理由は考えたくないし知りたくもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ラスト・チケット

釜瑪 秋摩
ライト文芸
目が覚めたら真っ白な部屋にいた。 いつの間にか手にしていたチケットで 最後の七日間の旅にでる。 オムニバス形式で七人が送る七日間の話――。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...