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親睦偏
本性を現したようです
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「…………」
いつの間にか、ツキの手は止まっていた。
手を離しこそしていないものの、軽く握っているだけで、力は全く入っていない。
どうやら、勝負は翠の勝ちらしい。
ようやく、ツキは耳を傾けてくれるらしい。
ツキは俯いてしまっていて、その表情は見えない。
翠の言葉を、どのように受け止めたのかはわからない。
それでも、その胸に響いた事は間違いない。
「……だったら――」
しばらくして、ツキはぽつりと呟いた。
翠の言葉を受けて心に波紋が生じて――
心の波が喉まで伝わって――
震えた喉は空気を振動させて――
そして――
「アキラさんの言う通りにしたら……私はずっと、可愛いままでいられるんですか?」
「それは……」
それは、昼にも聞いた言葉。
自分は女性よりも早く、理想の可愛いから遠ざかってしまうのだと――
――ツキは、泣きそうに零していた。
「すっぴんの私を受け入れたら……可愛くない私を受け入れたら、私は可愛くなれるんですか? 私の見た目は、私が一番可愛いかった時に戻るんですか? 顔だけじゃない……体だって……変化を止めることすらできないんじゃないんですか?」
「……」
「別に、いいじゃないですか……。目を背けたって、いいじゃないですか……。どうせ受け入れたって、可愛くないことは変わらないんだから……メイクで全部塗りつぶした今の可愛い私を褒めてもらって、それ以外のことは忘れたって……それの何がいけないんですか?」
「昼も言っただろ。そんなに不安がらなくても、ツキはちゃんと可愛いって」
「はい。すっぴんを知らないアキラさんの言う可愛いを、すっぴんじゃない私は喜びます。アキラさんが、メイクの話をわざわざしない限りは」
「だから、可愛いくなる努力ができてるだけでも、ツキは凄くて可愛いって――」
「だから! そんな慰めで私は可愛くなれるのかって!! ――っ……私は、そう訊いてるんですよ……?」
一瞬だけ、ツキは激情を現して。
一瞬で、ツキは泣きそうな顔に戻った。
これが、ツキの本性ということなのだろう。
ツキは可愛さをひけらかして、自分はたくさんの同性を虜にしているのだと謳っていた。
でもそれは、全部コンプレックスの裏返しだった。
自分に自信が無いからこそ、ツキはより強く承認欲求に飢えていた。
それは同性から求められないと満足できないほどに。
童貞に堕ちてもらわないと満たされないほどに。
そして、ツキの中では――
――みんなが愛してくれているのは――
――あくまでツキというキャラクターという認識なのだろう。
それはメイクをバッチリ決めた、女性的な魅力を持った男の娘であり。
それはコンプレックスを隠した、自分を可愛いと誇るツキであり。
それは愛すればそれ以上に愛してくれる、承認欲求に飢えた怪物。
翠はずっと、ツキの事しか知らなかった。
翠はずっと、ツキとしか話をしていなかった。
それも、考えてみれば当然の事だ。
翠は今目の前で泣きそうになっている人物の、本名すら知らないのだから。
いつの間にか、ツキの手は止まっていた。
手を離しこそしていないものの、軽く握っているだけで、力は全く入っていない。
どうやら、勝負は翠の勝ちらしい。
ようやく、ツキは耳を傾けてくれるらしい。
ツキは俯いてしまっていて、その表情は見えない。
翠の言葉を、どのように受け止めたのかはわからない。
それでも、その胸に響いた事は間違いない。
「……だったら――」
しばらくして、ツキはぽつりと呟いた。
翠の言葉を受けて心に波紋が生じて――
心の波が喉まで伝わって――
震えた喉は空気を振動させて――
そして――
「アキラさんの言う通りにしたら……私はずっと、可愛いままでいられるんですか?」
「それは……」
それは、昼にも聞いた言葉。
自分は女性よりも早く、理想の可愛いから遠ざかってしまうのだと――
――ツキは、泣きそうに零していた。
「すっぴんの私を受け入れたら……可愛くない私を受け入れたら、私は可愛くなれるんですか? 私の見た目は、私が一番可愛いかった時に戻るんですか? 顔だけじゃない……体だって……変化を止めることすらできないんじゃないんですか?」
「……」
「別に、いいじゃないですか……。目を背けたって、いいじゃないですか……。どうせ受け入れたって、可愛くないことは変わらないんだから……メイクで全部塗りつぶした今の可愛い私を褒めてもらって、それ以外のことは忘れたって……それの何がいけないんですか?」
「昼も言っただろ。そんなに不安がらなくても、ツキはちゃんと可愛いって」
「はい。すっぴんを知らないアキラさんの言う可愛いを、すっぴんじゃない私は喜びます。アキラさんが、メイクの話をわざわざしない限りは」
「だから、可愛いくなる努力ができてるだけでも、ツキは凄くて可愛いって――」
「だから! そんな慰めで私は可愛くなれるのかって!! ――っ……私は、そう訊いてるんですよ……?」
一瞬だけ、ツキは激情を現して。
一瞬で、ツキは泣きそうな顔に戻った。
これが、ツキの本性ということなのだろう。
ツキは可愛さをひけらかして、自分はたくさんの同性を虜にしているのだと謳っていた。
でもそれは、全部コンプレックスの裏返しだった。
自分に自信が無いからこそ、ツキはより強く承認欲求に飢えていた。
それは同性から求められないと満足できないほどに。
童貞に堕ちてもらわないと満たされないほどに。
そして、ツキの中では――
――みんなが愛してくれているのは――
――あくまでツキというキャラクターという認識なのだろう。
それはメイクをバッチリ決めた、女性的な魅力を持った男の娘であり。
それはコンプレックスを隠した、自分を可愛いと誇るツキであり。
それは愛すればそれ以上に愛してくれる、承認欲求に飢えた怪物。
翠はずっと、ツキの事しか知らなかった。
翠はずっと、ツキとしか話をしていなかった。
それも、考えてみれば当然の事だ。
翠は今目の前で泣きそうになっている人物の、本名すら知らないのだから。
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