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親睦偏
メイクの話は嫌いなようです
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「いつもそうなのか?」
「何がですか?」
「化粧。落とさないまま寝るのは、肌に悪いって訊くけど」
セックスの後というのは、そのままピロートークでも繰り広げながら眠りに落ちるイメージがある。
したがって、セックス中も化粧をしているのならそのまま落とさずに眠ってしまっているのではないか、と翠は考えた。
「さすがにそのままは寝ないですよ? 寝る時はちゃんとメイクを落としてます」
「それじゃあ……セックスをするときは化粧をしてるけど、終わったらちゃんと落としてから寝てるのか?」
セックスというのはただ気持ちがいいだけではない。
それは運動の一種と形容されてもなんら差し支えない行為であり、童貞であっても終わった後には疲労が溜まっていることだろうくらい想像がつく。
疲労と快感による眠気にも抗ってちゃんと化粧を落としているのだとしたら、
それは褒められるべき努力と言うべきだろう。
願わくば、その努力が少しでも長く報われていてほしいと思う。
「んー……おそらく、アキラさんは何か勘違いをしていると見ました」
「勘違い?」
「もしかしてですけど、私がセックスをした後にそのお相手といっしょに寝ていると思ってませんか?」
「寝ないのか?」
「寝ないですよ……。私の職業、もう忘れちゃったんですか?」
「あっ……」
言われて気づいた。
ツキにとってのセックスとは仕事であるということを。
いくら天職であり、ツキが楽しんでいようとも、仕事は仕事だ。
デリヘルが仕事の後にそのままお客さんの家でお泊りなんて、そうそうあることではないのだろう。
サラリーマンだって、そう頻繁に会社に寝泊まりしたりはしない。
「でも、仕事以外の時は? それこそ……」
ツキであれば、仕事以外でもセックスはしているだろう。
翠もセックスこそしていないけれど、ツキと同じベッドで一夜を共にしている。
あの日、目を覚ますと確かに隣にはツキが居て、その顔は――
「……そういえば、あの朝も化粧はしてたのか」
「はい♪ アキラさんよりも早く起きて、可愛いを整えて、隣で寝顔を眺めながら起きるのを待ってました♪ 私はいつだって可愛いツキちゃんですよ♪」
どちらにせよ、ツキが人前で可愛くあることに並々ならぬ努力を注いでいることには間違いないらしい。
「っていうかー、もうメイクの話はいいじゃないですかー……なんか、こういう時にそういう話されても、私はあまり楽しくないですし……」
唇を尖らせて、
頬を膨らませて、
視線を落としてしょげる仕草を見せるツキ。
ツキはあまり化粧の話はしたくないようだ。
「化粧の話は嫌いなのか? 女の子はそういうの好きそうなイメージあるけど」
「別にー……女の子は、それでいいかもしれないですけれど……」
「?」
「ですからー……なんか……どうせメイクで誤魔化して可愛くしてるだけ、というか……。私は男性ですから……やっぱり、すっぴんだと……みたいな……」
いつになく暗いトーンで、ツキはそう呟いた。
その顔はいつかの時――
『……落ちていただくまでは、私の本当の顔は秘密なんです……えへへっ……』
――そう悲し気に微笑んでいた時を思い起こさせる、そんな表情だった。
「何がですか?」
「化粧。落とさないまま寝るのは、肌に悪いって訊くけど」
セックスの後というのは、そのままピロートークでも繰り広げながら眠りに落ちるイメージがある。
したがって、セックス中も化粧をしているのならそのまま落とさずに眠ってしまっているのではないか、と翠は考えた。
「さすがにそのままは寝ないですよ? 寝る時はちゃんとメイクを落としてます」
「それじゃあ……セックスをするときは化粧をしてるけど、終わったらちゃんと落としてから寝てるのか?」
セックスというのはただ気持ちがいいだけではない。
それは運動の一種と形容されてもなんら差し支えない行為であり、童貞であっても終わった後には疲労が溜まっていることだろうくらい想像がつく。
疲労と快感による眠気にも抗ってちゃんと化粧を落としているのだとしたら、
それは褒められるべき努力と言うべきだろう。
願わくば、その努力が少しでも長く報われていてほしいと思う。
「んー……おそらく、アキラさんは何か勘違いをしていると見ました」
「勘違い?」
「もしかしてですけど、私がセックスをした後にそのお相手といっしょに寝ていると思ってませんか?」
「寝ないのか?」
「寝ないですよ……。私の職業、もう忘れちゃったんですか?」
「あっ……」
言われて気づいた。
ツキにとってのセックスとは仕事であるということを。
いくら天職であり、ツキが楽しんでいようとも、仕事は仕事だ。
デリヘルが仕事の後にそのままお客さんの家でお泊りなんて、そうそうあることではないのだろう。
サラリーマンだって、そう頻繁に会社に寝泊まりしたりはしない。
「でも、仕事以外の時は? それこそ……」
ツキであれば、仕事以外でもセックスはしているだろう。
翠もセックスこそしていないけれど、ツキと同じベッドで一夜を共にしている。
あの日、目を覚ますと確かに隣にはツキが居て、その顔は――
「……そういえば、あの朝も化粧はしてたのか」
「はい♪ アキラさんよりも早く起きて、可愛いを整えて、隣で寝顔を眺めながら起きるのを待ってました♪ 私はいつだって可愛いツキちゃんですよ♪」
どちらにせよ、ツキが人前で可愛くあることに並々ならぬ努力を注いでいることには間違いないらしい。
「っていうかー、もうメイクの話はいいじゃないですかー……なんか、こういう時にそういう話されても、私はあまり楽しくないですし……」
唇を尖らせて、
頬を膨らませて、
視線を落としてしょげる仕草を見せるツキ。
ツキはあまり化粧の話はしたくないようだ。
「化粧の話は嫌いなのか? 女の子はそういうの好きそうなイメージあるけど」
「別にー……女の子は、それでいいかもしれないですけれど……」
「?」
「ですからー……なんか……どうせメイクで誤魔化して可愛くしてるだけ、というか……。私は男性ですから……やっぱり、すっぴんだと……みたいな……」
いつになく暗いトーンで、ツキはそう呟いた。
その顔はいつかの時――
『……落ちていただくまでは、私の本当の顔は秘密なんです……えへへっ……』
――そう悲し気に微笑んでいた時を思い起こさせる、そんな表情だった。
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