消せない罪

papporopueeee

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雷に打たれたように、出会った

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 私がこの中学に入学して一か月とちょっと。
 新入生が部活動に参加し始めて、放課後の校庭は賑やかな喧騒に包まれていた。

 広い校庭では野球部とサッカー部が球を追いかけて。
 体育館では剣道部とバスケ部が床を踏み鳴らして。
 敷地の外周では柔道部と空手部がマラソンで異種競技戦を繰り広げている。

 そんな活発な運動部員たちとは対照的に、穏やかに校門へと向かう帰宅部員たち。
 友人と談笑をしながら歩いている者が殆どの中で、集団から逸れて一人で帰宅している者が一人。

 私のことだ。

「んっ……風つよ……」

 程よく熱を持った初夏の爽やかな風が頬を撫で髪を巻き上げていく。

 この気候の中でスポーツをする運動部たちは気持ちよさそうで、なんだかとても眩しく見える。
 もう部活には入らないと決めたのに、その意思が揺らいでしまうほどに。

「……いやいや、ないない」

 同級生と話すだけでも緊張するのに、先輩となんて上手くやっていける気がしない。
 ただでさえ入学から一か月経過した時点で一人で帰宅している現状なのだ。
 一年後には卒業してしまう先輩に下手な媚びを売っている暇はない。

 とにかく今は同じクラスの友達を作るのに邁進して、来期の席替え、ひいては来年のクラス替えに備える。
 それが同小の居ない中学に進学してしまった私の最善手だと結論を出したばかりなのである。

「それにしても、ほんとにいい天気……」

 衣替え前でも苦ではない暖かさ。
 肌を撫でる気持ちの良い風。
 運動部員たちの騒がしい声と、それを遮るように鳴り響いた甲高い金属音。

「危ないっ!!」
「え?」

 突如として背中に浴びせられた叫び声。
 振り向けば遥か向こうに、バットを片手に持った女子生徒が立っていた。

 ……あれは、確か三年の――

「ッッ!?」

 体内に直接響き渡る鈍い音。

 突然、思考を寸断する強い衝撃が肉体を走って。
 まるで殴られたかのように、私の体は勝手に倒れていた。

「だっ、だいじょぶですかっ?」
「大丈夫なわけねーだろ! やべーよこれ!」
「すぐ保健室に連絡! 救急車も呼んでもらって!!」

 聞こえるのは周りを歩いていた帰宅部たちの狼狽と、教員が張り上げた必死な声。

 騒乱とした状況とは裏腹に私の意識はどこか冷静で。
 むしろ鈍間過ぎるくらいに、私は自身の状況把握を始めていた。

 地面に打ち付けられた肩には鈍い痛み。
 砂利がめり込んだ掌には不快な痛み。
 倒れた時に擦りむいたのか、足には熱い痛み。

 体の何処も彼処も痛みだらけで。
 そんな中、嘘のように何も感じない部位が一か所だけ。

 右目だ。
 瞼を閉じているのか、それとも開いているのかもわからない。

 生まれた時からそんなものは無かったとでも言うように感覚がなくて。
 ただ、涙だけが勝手に溢れて止まらない。

「っ……うっ、ぐっ……!」

 喉が勝手に喘ぐ。
 まだ何にも理解できていないのに、体が異常を察知して警報を鳴らしている。

 やがて左目からもようやく涙が溢れ始めて、その頃には私は人に囲まれていた。

「○×△~~! ○○△△$$~~!!」

 声をかけられているようだが、何を言っているのかわからない。
 聞こえているのに、脳をその理解に回す余裕が無い。
 返事をしようと思っても、私の口から漏れるのは呻き声だけ。

 助けて。
 誰か助けて。

 何が起こったのかわからない。
 私がどんな状況にあるのかわからない。
 どうして欲しいのかもわからない。

 それでも、誰かに助けてほしい。
 そう願う私の視界には――

「……」

 涙でぼやけて滲んだ視界の中で、それは小さく。
 バットを片手に立ち尽くす女子生徒がいつまでも、小さく、映っていた。
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