追放者の冒険

うまチャン

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第二章

第9話 復興を目指して2

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 3時間後、バーブノウンは耳元から爆音が鳴り響いたことで目を覚ました。
まだ寝たりないため、目を擦りながらぼうっと正面の一点を見ていた。

「―――! おい、バーブノウンくんが目を覚ましたぞ!」

 バーブノウンの頭上から何やら大きな声で叫ぶ男性の声が。
バーブノウンはもう一回目を擦り、周りを見渡した。
そこには木材の壁があり、彼の正面には今まさに扉を取り付けているところだった。
そして、頭上を見ると木材を置いて屋根を取り付けていた。

「―――っ!? い、家が出来てる!?」

 バーブノウンは著しく自分の周りが変化していることに驚き、完全に目を覚ました。
布団から飛び上がるように起きると、

「ごめんなさいごめんなさい! 呑気に寝てしまって……!」

 バーブノウンはペコペコと作業をしている人たちに頭を下げた。
これで怒られたらどうしよう……。
もしかしたら昨日みたいにスパルタ教育されるかもしれない……! と考えたバーブノウンは、顔を青くしていた。

「いや良いんだ! バーブノウンくんが寝ていたし、それに元々ここに家を建てる予定だったから丁度良かったんだ! だから気にするな!」

 ドアの取り付けが完了した男性はバーブノウンに手を上げ、微笑みながらそう言った。
彼の名前はムブタヒジ。
バーブノウンより少し年上の22歳。
黄色い髪色が特徴で、陽気な性格の男性だ。

「そ、そうなんですか?」

「そうさ! いやー、バーブノウンくんがそこで寝ていたおかげで家の設計がしやすくて助かったよ!」

「え、えっと……ありがとうございますって言って良いのかな?」

 ムブタヒジは、ありがとう! と言ってバーブノウンに感謝の意を伝えたが、バーブノウンはこれを果たして受け取って良いものだろうかと疑問に思うのだった。

「そうだ! もうお昼だし、そろそろお昼休憩だから……せっかくだし一緒に食べないかい?」

「えっ、僕で良いんですか?」

「うん! 何だか君とは話が合いそうな気がするんだ!」

「そ、そうですか……。なら、お願いします……!」

 ムブタヒジは何か自分と同じ匂いがする……そう思った。
バーブノウンはロレンスたちのパーティーから抜けて初めての仲間、友達が出来たような気がした。
 バーブノウンはムブタヒジにペコリと頭を軽く下げた。
それを見たムブタヒジは彼の肩をポンポンと叩きながら、そんなに固くならなくても良いと、にこやかに言った。

「あ、バーブ起きたんだ」

「フィーダお疲れ様。ごめんね、フィーダがこんなに汗かくまで頑張っているのに、僕は……」

「大丈夫、気にしないでバーブ。お昼ご飯食べ終わったら、その分頑張って働けば良いから」

 フィーダは無表情でそう言ったが、バーブノウンからすると彼女のその表情は恐ろしく見えた。
フィーダの背景が徐々に暗くなっていき、ゴゴゴ……というオノマトペが聞こえるような気がして、バーブノウンは肩を上げて震えた。

(ひぃーーーー!!! これ絶対あとでフィーダにこき使われる予想しか出来ないよ……!)

そして、バーブノウンが立てたフラグは見事に回収することにすることになったのだった。








◇◇◇








 ムブタヒジとバーブノウン、そしてフィーダの3人は話で盛り上がりながら昼食を食べた。
ムブタヒジがバーブノウンに言った通り2人は意気投合し、すぐに親しい間柄になった。

「じゃあ仕事がんばれよ!」

「うん! そっちも頑張ってね!」

 バーブノウンはムブタヒジにタメ口で話せるほど仲良くなっていた。
というのも、ムブタヒジがそうしてほしいと頼んできたのだ。
後ろを振り向きながら手を振って仕事場に向かって走っていく姿を見送りながら、バーブノウンも手を振った。

「良かったねバーブ。新しいお友達が出来て」

「本当だよ。まさかあんなに話せるようにまでなるとは……」

「じゃあ、これからわたしの仕事に付き合ってもらうよ? バーブはあれだけ休んだから元気いっぱいだよね?」

「えっと……うん、元気だよ……。多分……」

 フィーダの笑顔が何故か、バーブノウンにとっては恐ろしく見えたのだった。








◇◇◇







 フィーダの後を付けながらしばらく歩き、着いた場所は、青々と生い茂る原生林だった。
ここで一体何をするつもりなのだろうとバーブノウンは考えていると、フィーダは彼の傍に駆け寄った。

「バーブ。今から木材調達するよ」

「えっ!?」

「えっ!? じゃなくて、まだまだ木材は足りてないから追加で欲しいんだって言われた」

「へ、へー……」

 バーブノウンが最初に予想した通り、過酷な作業となりそうだった。
木の伐採というのはこの世界ではかなり大変な作業になる。
現代のようにチェンソーという便利な機械であっという間に伐採するものなど、この世界では存在しない。
何せ全ては魔法の力でどうにでもなってしまうからだ。
 生活の中でも魔法は必要不可欠であるし、便利すぎて現代で当たり前に使われるメカニックなものは全く発展しなかったのだ。
しかし、魔法にもやはり限界がある。
 バーブノウンとフィーダの目の前に見えている原生林は、ほとんどが樹齢100年を優に超えている。
そのため幹が太く、丈夫な木材が手に入れられるが、やはりデメリットは大きい。

「フィーダ、この巨大な木をもしかして切るつもり?」

「うん、そうだよ?」

「そ、そうなんだ……あはは……」

 普通に木を伐採するやり方は2通りある。
1つは死ぬような思いをしても良いのなら、地道に鋸で伐採する。
もう1つはかまいたちのような、物を切ることができる風魔法を使って伐採する。
 最初のやり方は流石に時間がないし、この幹の太さではどのくらい時間がかかるのか想像できない。
結局はもう1つのやり方、風魔法を使って木を伐採するしかなかった。
しかし、バーブノウンは扱える魔法が初級魔法とフィーダから教わった2つの上級魔法のみで、風魔法は扱えない。
 頼りになるのは数々の魔法を操れるフィーダだけだ。

「あ、バーブには言い忘れていたけど、わたし風魔法だけは操れないから、そこのところよろしくね」

「ええ!? じゃ、じゃあどうすれば良いのさ!?」

「うーん……バーブに任せる!」

「うわああああああ! ぜっっったいに無理だよおおおおおお!!!!」

 バーブノウンは頭を抱えて膝をつき、空に向かって思いっきり叫んだ。
フィーダはキラキラと眼を輝かせ、期待の眼差しでバーブノウンを見る。
実は銀竜シルバードラゴンの謎の1つで、空を飛べるのに風魔法は全く扱えないのだ。
恐らく空を自由に飛べるため、風魔法を扱える必要がなかったからでは? という仮説もあったりするが、実際はどうかはわからない。
 当然フィーダも風魔法を扱えないわけで……。
残りはもうバーブノウンだけ。
全てはバーブノウンにかかっているのだ。

「フィーダ……僕、どうすれば良いのかな……?」

「―――とりあえず魔法の名前でも唱えとけば良いじゃない?」

「ものすごい適当な答えだね!?」

 バーブノウンはフィーダの言葉に対して心配になりながらも、とりあえずやってみることにした。
やり方が全く分からないため、とりあえず魔法を唱える時の基本姿勢である『手を前に出す』をする。

「あとは風が物を来るようなイメージで……」

 バーブノウンは頭の中で、風が渦巻き木を横に一直線に切る感じを思い浮かべる。
あとは詠唱だけだ。
しかし、魔法の名前なんて知っているはずがないバーブノウンは、とりあえず頭に浮かんだ適当な名前を口に出した。

「エ、エアーカッター!」

 シーン……。
バーブノウンの掌から何か発生することもなく、不発に終わった。

「だめだったね」

「うーん……。何だかしっくり来ないんだよね……」

「しっくりこないの?」

「うん……。なんて言ったらいいのかな。こう……感覚的に違うというか……」

 バーブノウンは自分の手を見つめながらそう言って考え込んだ。
自分が扱える初級魔法を使うときとは違い、納得出来ない感覚だった。

(ファイアー系、ウォータ系はこの姿勢とそれに応じた詠唱がある。でもフィーダから教わった2つの魔法は火力を強くしているだけ……。なら風魔法は普通とは違うってことなのかな……?)

 考えに考え、バーブノウンは突然はっとした。

「これならいけるのかな?」

「バーブ、何か思いついたの?」

「うん……。多分だけどね」

 バーブノウンは大きく深呼吸をすると、腕を前に出す……と思いきや、バーブノウンはいきなり腕を横に持っていく。
そして、手を横に勢い良く振ると、

「『エアーカッター』!」

 バーブノウンは詠唱をすると、腕を振ったところから強風が吹き荒れると、向こう側にあった巨木がスパンッ! と横に切り落とされた。
ゆっくりとバーブノウンとフィーダに向かって傾き始め、バキバキミシミシといいながらドゴンッ! と巨大な音を立てて横に倒れた。

「―――で、出来ちゃっ、た……」

「―――」

 まさか本当に出来ると思っていなかったバーブノウンは、目を見開いて驚いた様子だったが、彼よりもっと驚いていたのはフィーダだった。
口を少しだけ開けたまま唖然としていた。
 自分にとってどうすればわからない魔法をどう扱えるのか少し考えただけなのに、いとも簡単に使えるようになってしまう彼の才能は、銀竜シルバードラゴンでもいなかった。

(やっぱりバーブはすごい人だね。あの時バーブを見つけられて良かった……)

「フィーダ? どうかしたの?」

「ううん、何でもない。じゃあさっさと終わらしちゃおー」

「おー!」

 バーブノウンは習得したばかりの風魔法『エアーカッター』を使っていった。
使っていくうちに彼は感覚を掴んだようで、最後の木を伐採した頃には断面が綺麗にまっすぐ切れていた。

「ふう……大分採れたね」

 バーブノウンは額に溜まった汗を腕で拭った。
彼の目の前には山盛りに積まれた原木があった。
 さて、ここからは村まで運ぶ作業がある。
しかし、これだけ量が多いといっぺんに運ぶことはまず不可能だ。

「―――どうするの? バーブ」

「うーん……風魔法で運んじゃおう!」

「ん? バ、バーブ何言ってるの?」

「風が木を包み込むようにして、地面を滑らるように運びやすくすれば……」

 バーブノウンは目を瞑り、頭の中でイメージできやすいようにする。
そして、先程と同じように腕を横に振り、自分で思いついた適当な詠唱をする。

「『エアーホールド』!」

 バーブノウンの詠唱で風が吹き起こり、原木の周りに風の流れが加わると、大量に積み上げられた原木がふわりと持ち上がった。

「―――うん。後は後ろから押していけば大丈夫だね! それじゃあ、村までレッツゴー!」

 バーブノウンは風の力で浮いている大量の原木を後ろから押しながら村へと歩き出した。
その後ろ姿を見たまま、フィーダは立ち尽くしていた。
あのフィーダが目を見開いているという普段見せることのない表情になっている。
 彼女にとってはあまりにも信じられないことだった。
彼の発想は豊かで、風魔法を応用させるなど聞いたことなどなかったからだ。
目の前で見たあの光景は、いまだに夢の中なのかと疑ってしまう。

「フィーダ! 早く行こうよ!」

「―――! う、うん!」

 バーブノウンがフィーダの名前を呼ぶ声に彼女ははっと我に帰り、慌てながらバーブノウンの隣へと駆けていった。
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