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第一章
第5話 救助後
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ムスターヒ村を救ったバーブノウンとフィーダは、ヤイイリス村長からくれたお茶を飲みながら、村の後ろにある小高い丘に座っていた。
「いやー、流石に疲れたよ……」
バーブノウンは大の字に寝転がった。
フィーダもお茶を飲み終えると、バーブノウンと同じように仰向けに寝転がった。
2人を包み込むかのように、祝福してくれるかのように優しいそよ風が吹く。
その風をもっと感じようと、バーブノウンは大きく息を吸っていると、伸ばしていた手に何かが当たった感触があった。
その方向へ顔を向けると、バーブノウンの掌にフィーダの手が乗っかかっていた。
「フィーダ?」
「こちらこそありがとう」
「―――!」
フィーダはバーブノウンの方へ寝返ると、もう片方の手を伸ばし、両手でバーブノウンの手を包み込んだ。
「あの時にバーブに会っていなかったら、わたし―――どうなっていたんだろう」
「え?」
「バーブにはまだ話していなかったんだけど……あの時、わたし追われていたんだ」
「お、追われていた!?、だ、誰に?」
「人間と、同じ種族の仲間たち」
衝撃な事実に、バーブノウンは目を丸くした。
フィーダは再び仰向けになると、青く透き通る空を眺めながら話を続けた。
「バーブもわかると思うけど、わたしってぼーっとしてる感じで変なところあるでしょ?」
「―――」
「怒らないから大丈夫」
「う、うん。たしかにそうかも、ね……」
あっさり肯定したらフィーダに怒られると思っていたバーブノウンは、フィーダとは反対の方を見ながら恐る恐る答えた。
「そのせいもあって、こいつはトロくてのんびりしすぎている。銀竜《シルバードラゴン》としての威厳が損なわれる、とか言われてた。だから小さい頃からよく思われてなかった」
「―――だからそこから出たってこと?」
フィーダはコクリと小さく頷いた。
「だけど、ずっとそこから出てきたことがなかったから、何がなんだかわからなくて……。1回だけ街に入ったことがあるんだけど、人間はわたしのことを見たら怖がったり、拐われそうになったことだってあった。もう何も信じられなくなっちゃって……」
「―――」
フィーダの言う通り、銀髪なんてフィーダに出会うまで見たことなんてなかった。
その珍しい容姿から、裏で悪徳商売をやっている者は目をつけて高値で売りつけ、莫大な売上を狙う可能性だって大いにある。
こんな厳しい現状を突きつけられれば、何もかも信じることなんてできないだろうとバーブノウンはフィーダの会話から感じ取っていた。
「そんな時に森で倒れていたバーブを見つけたの。最初はどうすれば良いんだろうって考えてた。助けてあげたい、でも信じられないが五分五分で……。
とりあえず傍にいてあげたほうが良いかなって思ってバーブのところに行ったの。そしたらバーブの顔を見た瞬間にね―――なんて言ったら良いんだろう……どこか寂しそうな、悲しそうな感じがしたんだよね」
「―――」
「で、バーブノウンが起きて話をしたら、わたしとおんなじ感じがしたの。何も信じられないような……そんな感じ。だからバーブについていくって決めた」
「フィーダ……」
「だから……」
フィーダは再びバーブノウンの方へ体を寝返ると、両手で強くバーブノウンの手を握った。
「ありがとう。わたしを信じてくれて」
フィーダが涙を浮かべて微笑むと、そよ風が強く吹き、フィーダの美しく透き通る長い銀色の髪がなびいた。
その美しい姿にバーブノウンは思わず見惚れてしまった。
「それで、バーブに1つ聞きたいことがあるんだけど……」
「な、なに?」
フィーダはバーブノウンの顔に触れるくらいまで詰め寄った。
突然の大胆な行動にバーブの顔が赤く始める。
「あの時バーブは本当にあそこで寝ていたの?」
「は?」
「バーブが目を覚ました時にわたし聞いたじゃん。寝てたのかなって」
「ちょっと待ってちょっと待って! なんで急にそんなこと聞くの!?」
さきほどとは打って変わって、突然のとんちんかんな発言にバーブノウンはツッコむ。
しかし、フィーダは上目遣いで下唇に人差し指を当てながらバーブのツッコミに反応することもなく続けた。
「ずっと疑問に思ってて……」
「え、まさか本気で僕があそこで寝てると思ってたの?」
「うん」
「体調が悪いんじゃ……って思うこともなく?」
「そうだよ?」
「―――」
その答えにバーブノウンは目に手を当てた。
そして小さな声で、
「さっきの雰囲気はどこ行っちゃったんだろう……」
と少し悲しく呟くのだった。
◇◇◇
日が暮れ、バーブノウンとフィーダは丘から下りてくると、ヤイイリス村長が手を振っていた。
「村長~どうしたの~?」
フィーダは呑気な声でヤイイリス村長のもとへ飛んでいった。
「ほ、本当に飛んだ!?」
「ほっほっほ! お嬢ちゃんは元気で何よりじゃのう!」
「村長!?」
「バーブくらい驚いてる人ってバーブくらいだと思う」
「多分僕の反応が普通だと思うよ!?」
バーブノウンの反応に村長はまたほっほっほと笑った。
「ワシだってこう見えて驚いておるんじゃよ」
「そ、そうなんですか……?」
「うむ。お嬢ちゃんに1つ聞くが……お嬢ちゃんは一体何者なんじゃ?」
そう聞かれ、フィーダは突然変な格好をし始める。
それを見たバーブノウンは今度は何をし始めるんだと不安になりながらも、見守ることにした。
「よく聞いてくれた村長。そう……わたしの正体は―――」
フィーダは変な口調になり始め、なにかの舞を踊るようにくるくると回り、フィーダはカッコいい決めポーズをすると、村長に向かってこう言い放った。
「銀竜です!」
「「―――」」
3人の間に沈黙の空気が流れる。
ヤイイリス村長はフィーダの圧に負け、バーブノウンは頭を抱えたまましゃがみこんでしまった。
(フィーダ……僕は恥ずかしくなってきちゃったよ……)
流石のフィーダもその空気に察したのか、ゆっくりと体制を元に戻す。
そして、フィーダは何度か瞬きをする。
「お腹減ったなぁ……」
「えぇぇぇぇぇえぇぇぇ!?」
何事もなかったかのように、村の中に向かっていくフィーダに驚くバーブノウン。
フィーダはあっという間にいなくなってしまった。
バーブノウンはため息をついていると、村長が隣に歩み寄る。
「あのお嬢ちゃんはすごいのう……」
「すいません村長、とんだご無礼を……」
「いや、いいんじゃ。しかし、銀竜か……」
村長はそうつぶやくと、赤い空を見上げた。
そしてゆっくりとバーブノウンを見た。
「大事にするんじゃぞ」
「え?」
「銀竜―――それはこの世に存在していると言われる伝説の種族じゃ。普段は銀竜自身が作った結界の中でしか生活していない。そのせいもあって絶対に見つかることはないと言われているのだが……」
「随分詳しいんですね。さすが村長ですね」
「いや、過去に1回この村に来ておるんじゃ」
「え!?」
「わたしが若い頃に突然お嬢ちゃんと同じ、銀髪の若い女性が訪れたんじゃ。体に深い傷を負っていてのう。なんとか命を取り留めることはできたんじゃが、いつまで持つかという状態じゃった。しかしワシは諦めきれず、必死に看病し続けた……じゃがやはり日に日に悪化していった」
「―――」
「そして彼女がこの世を去る直前じゃった。ここにいる村の者たち全員で見守ることにしたのじゃ。ワシが1番看病していたから最後はお前が傍にいてやれって言われた。だから彼女が寝ているベットの傍に来て、安心できるように手を握ってあげたんじゃ。すると彼女はこう言った」
『もし、わたしと同じ銀竜がこの村に現れたら、温かく迎え入れてほしい。そして―――ヤイイリス。今までありがとう』
「そう言って彼女は一筋の涙を流して、息を引き取ったんじゃ」
ヤイイリス村長はいつの間にか暗くなった空に目立つように輝く一番星を見上げると、首にかかっているネックレスの飾りを優しく手で包み込んだ。
(そうか、村長は……その銀竜に想いを寄せていたんだ。そして、それが今でも……)
バーブノウンの予想通り、そのネックレスは息を引き取った銀竜が身に着けていたものだった。
約60年間肌身離さずに持ち続けてきた、ヤイイリス村長にとって命と同じくらい大切なものだった。
「バーブ君よ」
「はい」
「銀竜はこの世界にとって重要な存在じゃ。彼らがいるからこそ、我々はこうして平和に暮らしておる。だからこそ、あの子は絶対に離すんじゃないぞ? あの子はいずれ、バーブ君にとってかけがえのない存在になるじゃろう……」
「―――はい、フィーダのことは僕に任せてください!」
そう返事をしたものの、バーブノウンはヤイイリス村長の言葉の意味が理解できなかった。
自分にとってかけがえのない存在になる、フィーダと出会ってから自分にとってもうそんな存在になっていると一瞬思ったが、ヤイイリス村長の言葉はそれとはまた違ったように聞こえたのだった。
「いやー、流石に疲れたよ……」
バーブノウンは大の字に寝転がった。
フィーダもお茶を飲み終えると、バーブノウンと同じように仰向けに寝転がった。
2人を包み込むかのように、祝福してくれるかのように優しいそよ風が吹く。
その風をもっと感じようと、バーブノウンは大きく息を吸っていると、伸ばしていた手に何かが当たった感触があった。
その方向へ顔を向けると、バーブノウンの掌にフィーダの手が乗っかかっていた。
「フィーダ?」
「こちらこそありがとう」
「―――!」
フィーダはバーブノウンの方へ寝返ると、もう片方の手を伸ばし、両手でバーブノウンの手を包み込んだ。
「あの時にバーブに会っていなかったら、わたし―――どうなっていたんだろう」
「え?」
「バーブにはまだ話していなかったんだけど……あの時、わたし追われていたんだ」
「お、追われていた!?、だ、誰に?」
「人間と、同じ種族の仲間たち」
衝撃な事実に、バーブノウンは目を丸くした。
フィーダは再び仰向けになると、青く透き通る空を眺めながら話を続けた。
「バーブもわかると思うけど、わたしってぼーっとしてる感じで変なところあるでしょ?」
「―――」
「怒らないから大丈夫」
「う、うん。たしかにそうかも、ね……」
あっさり肯定したらフィーダに怒られると思っていたバーブノウンは、フィーダとは反対の方を見ながら恐る恐る答えた。
「そのせいもあって、こいつはトロくてのんびりしすぎている。銀竜《シルバードラゴン》としての威厳が損なわれる、とか言われてた。だから小さい頃からよく思われてなかった」
「―――だからそこから出たってこと?」
フィーダはコクリと小さく頷いた。
「だけど、ずっとそこから出てきたことがなかったから、何がなんだかわからなくて……。1回だけ街に入ったことがあるんだけど、人間はわたしのことを見たら怖がったり、拐われそうになったことだってあった。もう何も信じられなくなっちゃって……」
「―――」
フィーダの言う通り、銀髪なんてフィーダに出会うまで見たことなんてなかった。
その珍しい容姿から、裏で悪徳商売をやっている者は目をつけて高値で売りつけ、莫大な売上を狙う可能性だって大いにある。
こんな厳しい現状を突きつけられれば、何もかも信じることなんてできないだろうとバーブノウンはフィーダの会話から感じ取っていた。
「そんな時に森で倒れていたバーブを見つけたの。最初はどうすれば良いんだろうって考えてた。助けてあげたい、でも信じられないが五分五分で……。
とりあえず傍にいてあげたほうが良いかなって思ってバーブのところに行ったの。そしたらバーブの顔を見た瞬間にね―――なんて言ったら良いんだろう……どこか寂しそうな、悲しそうな感じがしたんだよね」
「―――」
「で、バーブノウンが起きて話をしたら、わたしとおんなじ感じがしたの。何も信じられないような……そんな感じ。だからバーブについていくって決めた」
「フィーダ……」
「だから……」
フィーダは再びバーブノウンの方へ体を寝返ると、両手で強くバーブノウンの手を握った。
「ありがとう。わたしを信じてくれて」
フィーダが涙を浮かべて微笑むと、そよ風が強く吹き、フィーダの美しく透き通る長い銀色の髪がなびいた。
その美しい姿にバーブノウンは思わず見惚れてしまった。
「それで、バーブに1つ聞きたいことがあるんだけど……」
「な、なに?」
フィーダはバーブノウンの顔に触れるくらいまで詰め寄った。
突然の大胆な行動にバーブの顔が赤く始める。
「あの時バーブは本当にあそこで寝ていたの?」
「は?」
「バーブが目を覚ました時にわたし聞いたじゃん。寝てたのかなって」
「ちょっと待ってちょっと待って! なんで急にそんなこと聞くの!?」
さきほどとは打って変わって、突然のとんちんかんな発言にバーブノウンはツッコむ。
しかし、フィーダは上目遣いで下唇に人差し指を当てながらバーブのツッコミに反応することもなく続けた。
「ずっと疑問に思ってて……」
「え、まさか本気で僕があそこで寝てると思ってたの?」
「うん」
「体調が悪いんじゃ……って思うこともなく?」
「そうだよ?」
「―――」
その答えにバーブノウンは目に手を当てた。
そして小さな声で、
「さっきの雰囲気はどこ行っちゃったんだろう……」
と少し悲しく呟くのだった。
◇◇◇
日が暮れ、バーブノウンとフィーダは丘から下りてくると、ヤイイリス村長が手を振っていた。
「村長~どうしたの~?」
フィーダは呑気な声でヤイイリス村長のもとへ飛んでいった。
「ほ、本当に飛んだ!?」
「ほっほっほ! お嬢ちゃんは元気で何よりじゃのう!」
「村長!?」
「バーブくらい驚いてる人ってバーブくらいだと思う」
「多分僕の反応が普通だと思うよ!?」
バーブノウンの反応に村長はまたほっほっほと笑った。
「ワシだってこう見えて驚いておるんじゃよ」
「そ、そうなんですか……?」
「うむ。お嬢ちゃんに1つ聞くが……お嬢ちゃんは一体何者なんじゃ?」
そう聞かれ、フィーダは突然変な格好をし始める。
それを見たバーブノウンは今度は何をし始めるんだと不安になりながらも、見守ることにした。
「よく聞いてくれた村長。そう……わたしの正体は―――」
フィーダは変な口調になり始め、なにかの舞を踊るようにくるくると回り、フィーダはカッコいい決めポーズをすると、村長に向かってこう言い放った。
「銀竜です!」
「「―――」」
3人の間に沈黙の空気が流れる。
ヤイイリス村長はフィーダの圧に負け、バーブノウンは頭を抱えたまましゃがみこんでしまった。
(フィーダ……僕は恥ずかしくなってきちゃったよ……)
流石のフィーダもその空気に察したのか、ゆっくりと体制を元に戻す。
そして、フィーダは何度か瞬きをする。
「お腹減ったなぁ……」
「えぇぇぇぇぇえぇぇぇ!?」
何事もなかったかのように、村の中に向かっていくフィーダに驚くバーブノウン。
フィーダはあっという間にいなくなってしまった。
バーブノウンはため息をついていると、村長が隣に歩み寄る。
「あのお嬢ちゃんはすごいのう……」
「すいません村長、とんだご無礼を……」
「いや、いいんじゃ。しかし、銀竜か……」
村長はそうつぶやくと、赤い空を見上げた。
そしてゆっくりとバーブノウンを見た。
「大事にするんじゃぞ」
「え?」
「銀竜―――それはこの世に存在していると言われる伝説の種族じゃ。普段は銀竜自身が作った結界の中でしか生活していない。そのせいもあって絶対に見つかることはないと言われているのだが……」
「随分詳しいんですね。さすが村長ですね」
「いや、過去に1回この村に来ておるんじゃ」
「え!?」
「わたしが若い頃に突然お嬢ちゃんと同じ、銀髪の若い女性が訪れたんじゃ。体に深い傷を負っていてのう。なんとか命を取り留めることはできたんじゃが、いつまで持つかという状態じゃった。しかしワシは諦めきれず、必死に看病し続けた……じゃがやはり日に日に悪化していった」
「―――」
「そして彼女がこの世を去る直前じゃった。ここにいる村の者たち全員で見守ることにしたのじゃ。ワシが1番看病していたから最後はお前が傍にいてやれって言われた。だから彼女が寝ているベットの傍に来て、安心できるように手を握ってあげたんじゃ。すると彼女はこう言った」
『もし、わたしと同じ銀竜がこの村に現れたら、温かく迎え入れてほしい。そして―――ヤイイリス。今までありがとう』
「そう言って彼女は一筋の涙を流して、息を引き取ったんじゃ」
ヤイイリス村長はいつの間にか暗くなった空に目立つように輝く一番星を見上げると、首にかかっているネックレスの飾りを優しく手で包み込んだ。
(そうか、村長は……その銀竜に想いを寄せていたんだ。そして、それが今でも……)
バーブノウンの予想通り、そのネックレスは息を引き取った銀竜が身に着けていたものだった。
約60年間肌身離さずに持ち続けてきた、ヤイイリス村長にとって命と同じくらい大切なものだった。
「バーブ君よ」
「はい」
「銀竜はこの世界にとって重要な存在じゃ。彼らがいるからこそ、我々はこうして平和に暮らしておる。だからこそ、あの子は絶対に離すんじゃないぞ? あの子はいずれ、バーブ君にとってかけがえのない存在になるじゃろう……」
「―――はい、フィーダのことは僕に任せてください!」
そう返事をしたものの、バーブノウンはヤイイリス村長の言葉の意味が理解できなかった。
自分にとってかけがえのない存在になる、フィーダと出会ってから自分にとってもうそんな存在になっていると一瞬思ったが、ヤイイリス村長の言葉はそれとはまた違ったように聞こえたのだった。
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