33 / 46
第32話 実家に向かって
しおりを挟む
城を出た俺たちはフィルたちの元へ。
彼らのもとに着いて目に見えたものは驚きの光景だった。
ティフィーら七帝と魔王軍隊長たちが、話をして盛り上がっていたのだ。
「お、お前らもう打ち解けたのか……?」
「おかえりなさい! 魔王様とルーカス!」
「なんか暇だから話しているうちに、話の馬が合っちゃってさ」
「お前の姿と掛け合わせるなんて面白いじゃないか」
「ち、違うからね!?」
少し戸惑っている俺に対して、魔王軍隊長の3人は楽しそうに俺に話してくる。
それを傍で聞く七帝らもこくこくと頷いた。
ま、まさかここまで仲が良くなるとは思ってもいなかった。
種族の違いでしばらくの間はギスギスした関係になるだろうと心構えていたが……。
彼らのこの様子なら、心配はいらないみたいだ。
「じゃあ、フィルたちは先に帰還しててくれ。俺とアンラはこの後どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」
「やらなきゃいけないこと……? ああ、そういうことね」
ディージャジャはアンラの表情を見た途端理解したようだ。
さすがディージャジャ、察しが良い。
「さあ、早く帰るわよ!」
「えっ、ちょっと待ってくれよ!」
「いいから早く!」
ディージャジャはすくっと立ち上がると、部隊の方へと向かっていった。
残りの2人はわけがわからず、とりあえずそれぞれ自分の部隊へと戻っていった。
「さてと、残りはどうするんだ?」
俺はフィルたちから、ティフィーたちに視線を移した。
「わたしたちもルーカスが今いるところに行ってもいいかな?」
「俺も行ってもたいっす! 何だか気になってるんっすよね」
ティフィーは早くシャイタンを見てみたいのか、眼を輝かせている。
アキトもソワソワしている様子だ。
この2人は結構好奇心旺盛なところがあるからなあ……。
「他は?」
「わたしはティフィーちゃんについていくわ」
「まぁ、悪くはねぇな」
「ほ、ホムラがそう言うなら!」
「―――!?」
カラーも相変わらずだけど、この2人がなあ……。
今までこんな甘ったるい間柄の2人を見たことがなかったから……。
もしかしたら、そう遠くないうちに2人はくっつきそうだな。
今後の2人に期待しておこう。
「だってさアンラ。良いか?」
「う、あう……」
「アンラ、シャイタンの頂点のアンラが決めてもらわないと彼らをどうすればいいかわからないぞ?」
「い、良いよ……」
アンラは顔を真っ赤にしながらそう言った。
「だそうだ」
「じゃあルーカス。頑張ってね! あ、その前に……」
ティフィーは俺の元に駆け寄ってきた。
「帰ってきたら、ルーカスにお話があるんだ」
ティフィーは頬をほんのり赤くしながらそう小声で言った。
俺はなぜそんな顔をしてくるのかは理解できなかったが、まあ、ティフィーと一緒に話をするのは好きだから良いか。
「わかった。帰ったらティフィーのところへ行く」
「ほんと? やったあ! それともうひとつお願い」
「なんだ?」
「その時にアンラも連れてきてほしいの」
「えっ、なんでアンラが必要なんだ?」
「アンラの許可が必要になるから」
「―――? まあ、とりあえずはわかった。アンラも連れて行くよ」
「ありがとうルーカス!」
ティフィーはニコッと微笑むと、彼女たちはフィルたちのところへと向かっていった。
ティフィーは何をするつもりなんだろうか。
何かめんどくさそうなことにならなきゃ良いんだけど……。
「―――ねえルーカス」
「ん?」
「ほ、本当に行くの?」
「い、行くよ?」
アンラは震えた声で俺に話す。
正直、俺もかなり緊張気味だった。
なぜなら、これから俺たちは俺の両親のところへ行くのだから。
◇◇◇
俺とアンラは城の左側にある、森に囲まれた細い道を歩いている。
歩き始めてから、お互い一言も話していない。
アンラは恥ずかしさのあまりずっとあわあわしているし、それを見た俺も恥ずかしくなるの繰り返し。
な、なんとか話題を見つけないと……。
「な、なあアンラ」
アンラはゆっくりとこっちを見るが、顔を真っ赤にした途端すぐに反対側を向いてしまった。
ぐっ……可愛すぎる!
このままぶっ倒れてしまいたくなりそうだ。
「俺さ、実はここら辺に修行していたところがあるんだ。見てみるか?」
アンラは黙ったままこくこくと頷いた。
緊張をほぐすきっかけになってくれると良いんだけど。
俺が七帝になるために毎日のように通っていた場所。
そこは、今通っている道の右側に外れた草むらの向こう側にある。
もうしばらく使っていないから荒れ果ててしまっているかも知れない……。
俺は記憶を辿りながら、草が生い茂ったところを掻き分けながら進んだ。
「―――っと……。ここだ……」
目の前が急に開けた場所、そこが俺が昔修行をしていた思い出の場所だった。
アンラも草むらを抜け出し、俺の傍に来る。
「アンラ」
「ひゃい!?」
「―――!?」
アンラの名前を呼ぶと、彼女はいきなり裏返った大きな声で返事をした。
俺は思わずびくっと体が跳ねてしまった。
アンラを見ると……俺の顔を見たまま固まってしまっていた。
「とりあえずここで一休みしようか」
「えっ? ルーカスの実家に行かないの?」
「もちろん行くさ。でもずっとその感じじゃ俺の親の顔を見た瞬間に倒れそうな気がしたからさ。息抜きにここに立ち寄ったのさ」
俺は森が開けたこの場所に唯一残っている1本の木に歩み寄ると、その近くに大の字に寝転がった。
俺はアンラに手招きをした。
彼女は辺りを見渡しながらゆっくりと俺の横に歩み寄り、その場に寝転がる。
「ここさ、俺が七帝になる前の修行場所だったんだよ」
「そうなの?」
「ああ。この木に向かって木剣をひたすら打ち続けてたんだ。ほら、幹のところにいっぱい傷が付いているだろ?」
俺は木の幹を指した。
朝早くから日が暮れるまで、俺はひたすらこの木に向かって剣を振るい続けていた。
自分の両親は心配していたが、それでも俺は振って、振って……振り続けた。
七帝という自分の憧れに近づくために。
おかげで、木の幹には数え切れないほどの傷が付いている。
「本当だ……。でもルーカスって七帝の中では一番強かったんだよね? 最初から強かったわけじゃないの?」
「今はこれだけの実力を持てるようになったけど、最初は七帝になれる以前に試験に望めることすら絶望的に弱かったんだ」
「えっ? じゃあどうやって今のように強くなったの?」
アンラは寝返って俺の方を向く。
「―――勉強した」
「勉強?」
「そうだ。俺は元々剣を扱う才能もなかったし、魔法もそこまで良いとは言えなかったんだ。だから勉強しまくった。幸いにも、俺は光属性の魔法を使えたから、もっと色んな分野で使えないかなって思い始めたのが最初だったよ。でも光属性の魔法のことが記されたものなんてなかったから、他の属性の魔法について学ぶことにしたんだ。そしたら楽しくなっちゃってさ。読み解いていきながら光属性の魔法を使っているうちに、魔法がどういうふうな構造をしているのかが感覚的にわかるようになったんだ」
自分に全く適性のない属性の魔法について記された書物を、 俺は光属性の魔法で代用してやっていた。
周りからしたら、ただの馬鹿なやつに見えるかも知れない。
だけど、そんな馬鹿なことをやっていくうちに、俺は1つの答えに行き着いた。
『魔法は努力次第で、自分の適性以外の魔法も操れる』と。
これは一般的な考えでは到底不可能な話だ。
自分がこの魔法に適性があるとわかると、みんなはこの属性の魔法しか操れないと考える。
でも実は違って、それぞれの魔法の構造を知れば、案外簡単に色んな属性の魔法を自ら操れるものだった。
「あ、だからルーカスがその姿になってしまっても簡単に自分のものにしてしまったんだね」
「正直あまり簡単なものじゃなかった。闇属性の魔法って自分の適性の魔法とは真逆だから感覚を掴めるのに少し時間がかかったけど……」
俺は自分の手を見つめた。
『カラヒア』によって侵食されているせいで、俺の手は半分黒くなっている。
今はまだこの状態を戻す方法がわかっていない。
時間はかかるかも知れないが、コウキとの戦いで操れることは出来ることから、もっと探っていけば自分の姿を元に戻せる方法が見つかりそうな気がする。
「―――」
「アンラ?」
アンラは見つめている手にそっと触れた。
そして、俺の手を握った。
「ルーカスって……自分のリスクを負ってまで守ろうとするところあるよね」
「まあ確かにそうかも知れないな」
「もう、そんなことしないで」
「えっ?」
アンラは俺の眼の前まで近寄って来ると、地面に投げ出していた俺の腕に頭を置いた。
いわゆる腕枕というやつだ。
「今までルーカスは色んなリスクを背負ってまでそういうことをしてきたと思うけど……これからは無理しないでほしいの。これはわたしからのお願い」
「な、なんでだ?」
「だって、わたしが心配だから」
アンラは俺の頬に手を添える。
「まだ出会ってからそんなに時間は経ってないけど、わたしはルーカスのことをずっと見てきた。だから無理してるのかなって思う時もあるの。わたしだって国のみんなのために無理しちゃうところがあるってルーカスに言われたことがあるけど……ルーカスだって無理してない?」
「―――」
「だからお互い補い合いながら頑張っていこ? 時にはゆっくり羽根を伸ばすことだって大事だと思うから」
「そうか……そうだよな」
今まで無意識にやってきたけど、アンラにそう言われて自覚した。
アンラもそうだけど、俺も解決策を見つけようと焦っていた。
彼女の言う通り、そんなに焦らなくてもゆっくりとやっていけば良い。
「さすがアンラだな」
「べ、別に褒めなくても……わたしはあくまで意見を言っただけで……」
意外に褒められて嬉しかったのか、少し照れくさそうにしていた。
その表情を見た俺は微笑む。
「いや、ありがとうアンラ。ゆっくり焦らずにやっていこうな」
「うん……」
俺とアンラはお互い眼を合わせると、顔を近づけて唇を重ねた。
俺は本当にアンラに会えて良かったと心から改めて思った。
このまましばらくこの雰囲気で……
「おや、随分とべっぴんさんを連れてるなあ」
「「―――!?」」
やばい見られた!?
せっかくの雰囲気を壊された俺たちは慌てて離れると、声がした方へと振り向いた。
そこには懐かしい顔が映った。
「と、父さん?」
「その声は……まさかルーカスか!? その姿は一体何があったんだ!?」
声の正体、それは久しく見ていない俺の父親だった。
彼らのもとに着いて目に見えたものは驚きの光景だった。
ティフィーら七帝と魔王軍隊長たちが、話をして盛り上がっていたのだ。
「お、お前らもう打ち解けたのか……?」
「おかえりなさい! 魔王様とルーカス!」
「なんか暇だから話しているうちに、話の馬が合っちゃってさ」
「お前の姿と掛け合わせるなんて面白いじゃないか」
「ち、違うからね!?」
少し戸惑っている俺に対して、魔王軍隊長の3人は楽しそうに俺に話してくる。
それを傍で聞く七帝らもこくこくと頷いた。
ま、まさかここまで仲が良くなるとは思ってもいなかった。
種族の違いでしばらくの間はギスギスした関係になるだろうと心構えていたが……。
彼らのこの様子なら、心配はいらないみたいだ。
「じゃあ、フィルたちは先に帰還しててくれ。俺とアンラはこの後どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」
「やらなきゃいけないこと……? ああ、そういうことね」
ディージャジャはアンラの表情を見た途端理解したようだ。
さすがディージャジャ、察しが良い。
「さあ、早く帰るわよ!」
「えっ、ちょっと待ってくれよ!」
「いいから早く!」
ディージャジャはすくっと立ち上がると、部隊の方へと向かっていった。
残りの2人はわけがわからず、とりあえずそれぞれ自分の部隊へと戻っていった。
「さてと、残りはどうするんだ?」
俺はフィルたちから、ティフィーたちに視線を移した。
「わたしたちもルーカスが今いるところに行ってもいいかな?」
「俺も行ってもたいっす! 何だか気になってるんっすよね」
ティフィーは早くシャイタンを見てみたいのか、眼を輝かせている。
アキトもソワソワしている様子だ。
この2人は結構好奇心旺盛なところがあるからなあ……。
「他は?」
「わたしはティフィーちゃんについていくわ」
「まぁ、悪くはねぇな」
「ほ、ホムラがそう言うなら!」
「―――!?」
カラーも相変わらずだけど、この2人がなあ……。
今までこんな甘ったるい間柄の2人を見たことがなかったから……。
もしかしたら、そう遠くないうちに2人はくっつきそうだな。
今後の2人に期待しておこう。
「だってさアンラ。良いか?」
「う、あう……」
「アンラ、シャイタンの頂点のアンラが決めてもらわないと彼らをどうすればいいかわからないぞ?」
「い、良いよ……」
アンラは顔を真っ赤にしながらそう言った。
「だそうだ」
「じゃあルーカス。頑張ってね! あ、その前に……」
ティフィーは俺の元に駆け寄ってきた。
「帰ってきたら、ルーカスにお話があるんだ」
ティフィーは頬をほんのり赤くしながらそう小声で言った。
俺はなぜそんな顔をしてくるのかは理解できなかったが、まあ、ティフィーと一緒に話をするのは好きだから良いか。
「わかった。帰ったらティフィーのところへ行く」
「ほんと? やったあ! それともうひとつお願い」
「なんだ?」
「その時にアンラも連れてきてほしいの」
「えっ、なんでアンラが必要なんだ?」
「アンラの許可が必要になるから」
「―――? まあ、とりあえずはわかった。アンラも連れて行くよ」
「ありがとうルーカス!」
ティフィーはニコッと微笑むと、彼女たちはフィルたちのところへと向かっていった。
ティフィーは何をするつもりなんだろうか。
何かめんどくさそうなことにならなきゃ良いんだけど……。
「―――ねえルーカス」
「ん?」
「ほ、本当に行くの?」
「い、行くよ?」
アンラは震えた声で俺に話す。
正直、俺もかなり緊張気味だった。
なぜなら、これから俺たちは俺の両親のところへ行くのだから。
◇◇◇
俺とアンラは城の左側にある、森に囲まれた細い道を歩いている。
歩き始めてから、お互い一言も話していない。
アンラは恥ずかしさのあまりずっとあわあわしているし、それを見た俺も恥ずかしくなるの繰り返し。
な、なんとか話題を見つけないと……。
「な、なあアンラ」
アンラはゆっくりとこっちを見るが、顔を真っ赤にした途端すぐに反対側を向いてしまった。
ぐっ……可愛すぎる!
このままぶっ倒れてしまいたくなりそうだ。
「俺さ、実はここら辺に修行していたところがあるんだ。見てみるか?」
アンラは黙ったままこくこくと頷いた。
緊張をほぐすきっかけになってくれると良いんだけど。
俺が七帝になるために毎日のように通っていた場所。
そこは、今通っている道の右側に外れた草むらの向こう側にある。
もうしばらく使っていないから荒れ果ててしまっているかも知れない……。
俺は記憶を辿りながら、草が生い茂ったところを掻き分けながら進んだ。
「―――っと……。ここだ……」
目の前が急に開けた場所、そこが俺が昔修行をしていた思い出の場所だった。
アンラも草むらを抜け出し、俺の傍に来る。
「アンラ」
「ひゃい!?」
「―――!?」
アンラの名前を呼ぶと、彼女はいきなり裏返った大きな声で返事をした。
俺は思わずびくっと体が跳ねてしまった。
アンラを見ると……俺の顔を見たまま固まってしまっていた。
「とりあえずここで一休みしようか」
「えっ? ルーカスの実家に行かないの?」
「もちろん行くさ。でもずっとその感じじゃ俺の親の顔を見た瞬間に倒れそうな気がしたからさ。息抜きにここに立ち寄ったのさ」
俺は森が開けたこの場所に唯一残っている1本の木に歩み寄ると、その近くに大の字に寝転がった。
俺はアンラに手招きをした。
彼女は辺りを見渡しながらゆっくりと俺の横に歩み寄り、その場に寝転がる。
「ここさ、俺が七帝になる前の修行場所だったんだよ」
「そうなの?」
「ああ。この木に向かって木剣をひたすら打ち続けてたんだ。ほら、幹のところにいっぱい傷が付いているだろ?」
俺は木の幹を指した。
朝早くから日が暮れるまで、俺はひたすらこの木に向かって剣を振るい続けていた。
自分の両親は心配していたが、それでも俺は振って、振って……振り続けた。
七帝という自分の憧れに近づくために。
おかげで、木の幹には数え切れないほどの傷が付いている。
「本当だ……。でもルーカスって七帝の中では一番強かったんだよね? 最初から強かったわけじゃないの?」
「今はこれだけの実力を持てるようになったけど、最初は七帝になれる以前に試験に望めることすら絶望的に弱かったんだ」
「えっ? じゃあどうやって今のように強くなったの?」
アンラは寝返って俺の方を向く。
「―――勉強した」
「勉強?」
「そうだ。俺は元々剣を扱う才能もなかったし、魔法もそこまで良いとは言えなかったんだ。だから勉強しまくった。幸いにも、俺は光属性の魔法を使えたから、もっと色んな分野で使えないかなって思い始めたのが最初だったよ。でも光属性の魔法のことが記されたものなんてなかったから、他の属性の魔法について学ぶことにしたんだ。そしたら楽しくなっちゃってさ。読み解いていきながら光属性の魔法を使っているうちに、魔法がどういうふうな構造をしているのかが感覚的にわかるようになったんだ」
自分に全く適性のない属性の魔法について記された書物を、 俺は光属性の魔法で代用してやっていた。
周りからしたら、ただの馬鹿なやつに見えるかも知れない。
だけど、そんな馬鹿なことをやっていくうちに、俺は1つの答えに行き着いた。
『魔法は努力次第で、自分の適性以外の魔法も操れる』と。
これは一般的な考えでは到底不可能な話だ。
自分がこの魔法に適性があるとわかると、みんなはこの属性の魔法しか操れないと考える。
でも実は違って、それぞれの魔法の構造を知れば、案外簡単に色んな属性の魔法を自ら操れるものだった。
「あ、だからルーカスがその姿になってしまっても簡単に自分のものにしてしまったんだね」
「正直あまり簡単なものじゃなかった。闇属性の魔法って自分の適性の魔法とは真逆だから感覚を掴めるのに少し時間がかかったけど……」
俺は自分の手を見つめた。
『カラヒア』によって侵食されているせいで、俺の手は半分黒くなっている。
今はまだこの状態を戻す方法がわかっていない。
時間はかかるかも知れないが、コウキとの戦いで操れることは出来ることから、もっと探っていけば自分の姿を元に戻せる方法が見つかりそうな気がする。
「―――」
「アンラ?」
アンラは見つめている手にそっと触れた。
そして、俺の手を握った。
「ルーカスって……自分のリスクを負ってまで守ろうとするところあるよね」
「まあ確かにそうかも知れないな」
「もう、そんなことしないで」
「えっ?」
アンラは俺の眼の前まで近寄って来ると、地面に投げ出していた俺の腕に頭を置いた。
いわゆる腕枕というやつだ。
「今までルーカスは色んなリスクを背負ってまでそういうことをしてきたと思うけど……これからは無理しないでほしいの。これはわたしからのお願い」
「な、なんでだ?」
「だって、わたしが心配だから」
アンラは俺の頬に手を添える。
「まだ出会ってからそんなに時間は経ってないけど、わたしはルーカスのことをずっと見てきた。だから無理してるのかなって思う時もあるの。わたしだって国のみんなのために無理しちゃうところがあるってルーカスに言われたことがあるけど……ルーカスだって無理してない?」
「―――」
「だからお互い補い合いながら頑張っていこ? 時にはゆっくり羽根を伸ばすことだって大事だと思うから」
「そうか……そうだよな」
今まで無意識にやってきたけど、アンラにそう言われて自覚した。
アンラもそうだけど、俺も解決策を見つけようと焦っていた。
彼女の言う通り、そんなに焦らなくてもゆっくりとやっていけば良い。
「さすがアンラだな」
「べ、別に褒めなくても……わたしはあくまで意見を言っただけで……」
意外に褒められて嬉しかったのか、少し照れくさそうにしていた。
その表情を見た俺は微笑む。
「いや、ありがとうアンラ。ゆっくり焦らずにやっていこうな」
「うん……」
俺とアンラはお互い眼を合わせると、顔を近づけて唇を重ねた。
俺は本当にアンラに会えて良かったと心から改めて思った。
このまましばらくこの雰囲気で……
「おや、随分とべっぴんさんを連れてるなあ」
「「―――!?」」
やばい見られた!?
せっかくの雰囲気を壊された俺たちは慌てて離れると、声がした方へと振り向いた。
そこには懐かしい顔が映った。
「と、父さん?」
「その声は……まさかルーカスか!? その姿は一体何があったんだ!?」
声の正体、それは久しく見ていない俺の父親だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ゆとりある生活を異世界で
コロ
ファンタジー
とある世界の皇国
公爵家の長男坊は
少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた…
それなりに頑張って生きていた俺は48歳
なかなか楽しい人生だと満喫していたら
交通事故でアッサリ逝ってもた…orz
そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が
『楽しませてくれた礼をあげるよ』
とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に…
それもチートまでくれて♪
ありがたやありがたや
チート?強力なのがあります→使うとは言ってない
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います
宜しくお付き合い下さい
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
ハニーローズ ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~
悠月 星花
ファンタジー
「背筋を伸ばして凛とありたい」
トワイス国にアンナリーゼというお転婆な侯爵令嬢がいる。
アンナリーゼは、小さい頃に自分に関わる『予知夢』を見れるようになり、将来起こるであろう出来事を知っていくことになる。
幼馴染との結婚や家族や友人に囲まれ幸せな生活の予知夢見ていた。
いつの頃か、トワイス国の友好国であるローズディア公国とエルドア国を含めた三国が、インゼロ帝国から攻められ戦争になり、なすすべもなく家族や友人、そして大切な人を亡くすという夢を繰り返しみるようになる。
家族や友人、大切な人を守れる未来が欲しい。
アンナリーゼの必死の想いが、次代の女王『ハニーローズ』誕生という選択肢を増やす。
1つ1つの選択を積み重ね、みんなが幸せになれるようアンナリーゼは『予知夢』で見た未来を変革していく。
トワイス国の貴族として、強くたくましく、そして美しく成長していくアンナリーゼ。
その遊び場は、社交界へ学園へ隣国へと活躍の場所は変わっていく……
家族に支えられ、友人に慕われ、仲間を集め、愛する者たちが幸せな未来を生きられるよう、死の間際まで凛とした薔薇のように懸命に生きていく。
予知の先の未来に幸せを『ハニーローズ』に託し繋げることができるのか……
『予知夢』に翻弄されながら、懸命に生きていく母娘の物語。
※この作品は、「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルアップ+」「ノベリズム」にも掲載しています。
表紙は、菜見あぉ様にココナラにて依頼させていただきました。アンナリーゼとアンジェラです。
タイトルロゴは、草食動物様の企画にてお願いさせていただいたものです!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました
あーもんど
恋愛
ずっと腹違いの妹の方を優遇されて、生きてきた公爵令嬢セシリア。
正直不満はあるものの、もうすぐ結婚して家を出るということもあり、耐えていた。
でも、ある日……
「お前の人生を妹に譲ってくれないか?」
と、両親に言われて?
当然セシリアは反発するが、無理やり体を押さえつけられ────妹と中身を入れ替えられてしまった!
この仕打ちには、さすがのセシリアも激怒!
でも、自分の話を信じてくれる者は居らず……何も出来ない。
そして、とうとう……自分に成り代わった妹が結婚準備のため、婚約者の家へ行ってしまった。
────嗚呼、もう終わりだ……。
セシリアは全てに絶望し、希望を失うものの……数日後、婚約者のヴィンセントがこっそり屋敷を訪ねてきて?
「あぁ、やっぱり────君がセシリアなんだね。会いたかったよ」
一瞬で正体を見抜いたヴィンセントに、セシリアは動揺。
でも、凄く嬉しかった。
その後、セシリアは全ての事情を説明し、状況打破の協力を要請。
もちろん、ヴィンセントは快諾。
「僕の全ては君のためにあるんだから、遠慮せず使ってよ」
セシリアのことを誰よりも愛しているヴィンセントは、彼女のため舞台を整える。
────セシリアをこんな目に遭わせた者達は地獄へ落とす、と胸に決めて。
これは姉妹の入れ替わりから始まる、報復と破滅の物語。
■小説家になろう様にて、先行公開中■
■2024/01/30 タイトル変更しました■
→旧タイトル:偽物に騙されないでください。本物は私です
逆行令嬢と転生ヒロイン
未羊
ファンタジー
【注意】この作品は自己転載作品です。現在の他所での公開済みの分が終了後、続編として新シリーズの執筆を予定しております。よろしくお願い致します。
【あらすじ】
侯爵令嬢ロゼリア・マゼンダは、身に覚えのない罪状で断罪、弁明の機会も無く即刻処刑されてしまう。
しかし、死んだと思った次の瞬間、ベッドの上で目を覚ますと、八歳の頃の自分に戻っていた。
過去に戻ったロゼリアは、処刑される未来を回避するべく、経過を思い出しながら対策を立てていく。
一大ジャンルとも言える悪役令嬢ものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる