魔王に見初められる

うまチャン

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第25話 元聖帝vs現聖帝2

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「――――」

 この魔法が完成した途端、俺の面影は1つもなくなった。
髪も、目も何もかも黒に染まる……。
背中が熱くなり、ドロドロと音を立てながら背中に黒くて鋭い羽が生え始める。
 正直に言えば極力使いたくなかった。
ほとんどの確率で自我を失い、敵も味方もわからなくなり暴走してしまうからだ。
使ってしまった以上は自分の意識がある限り、早めにコウキを倒し、解除しなければならない。

「行くぞ」

「ぐはっ!?」

 憎い、憎い、憎い……そう心のなかで言い続けた。
そうすれば、魔法の特性でどんどん威力が増していくのだ。

「くっ……!」

「―――!?」

 コウキはなんと俺の攻撃を防いだ。
バカな……この魔法を使ってでもだめなのか……?

「ふっ……ははは! そんな魔法なんて光属性でなんともないんだよ!」

「がっ……」

 コウキは光属性の魔力を纏った聖剣で俺に対抗してくる。
くそ、光属性を超えられると思ったのに!
 闇属性と光属性はお互い弱点同士。
俺もコウキもお互いリスクを背負っている。
なのに、コウキはその常識を破っていくかのようにどんどん俺を押し返していく。

(俺は、コウキに何をやっても勝てない、のか……)

 そんな言葉がよぎった瞬間、俺の中にどす黒いものがものすごい量・スピードで入り込んでいく。
タイムリミット――――いや、これは自分の一瞬の不安が弱い部分になって、それに憎悪が入り込んでしまったようだ。

「ははは……」

「―――」

 まるで自分が底なし沼に沈んでいくように、どんどん暗闇へと落ちていく。
なにもなくて全部黒い、孤独な世界……。

「―――」

「がっ!」

 完全に憎悪に操られた体はもう言うことを聞かない。
どうあがいてもびくともしない。
ただ自分の眼に写っているものが見えるだけ。
 そして、この魔法は憎悪の思いが強ければ強いほど力を発揮する。
完全に憎悪に支配されてしまった俺は、最大限の力を発揮する。
最低、最悪の方法で、敵味方関係なく殺しまくり、最終的に自分で自分を殺すことになる。

「がっ、あ……」

 コウキは対抗しようとはしているが、もう光属性の魔法を使っても意味がない。
どんどんコウキの体に、俺の剣が刺さってゆく。
違う、俺は七帝を殺すために来てるんじゃないんだ。

(止めてくれ、止めてくれ……!)

 そう願っても、憎悪に支配された俺は聞く耳を持たない。
お構いなくどんどんコウキの命を削っていく。

「くくく……」

 力がなくなったように、だらんとなったコウキの襟を掴むと、剣を振り上げた。
最後の止《とど》めを刺そうとしていた。

(や、やめてくれええぇぇ!)

 ビキッ、ビキキ……ガシャン!

 そう叫んだ時だった。
フィールドの崩壊が始まった。
ガラスが割れるような音を立てながら、どんどんフィールドの欠片が落ちては消えていく。
 そして右側の少し離れたところには、お互いボロボロの姿で倒れている2人がいた。
氷帝ティフィー・ヒムロ、そしてアンラがいた。

(ア、アンラ!)

「―――!」

 すると、制御できなかった俺の体が、少しずつ言うことを聞くようになった。
真っ黒な世界が、少し明るくなった気がする。

「アンラ!」

 意識を取り戻した俺は、アンラの元へ駆け寄る。
アンラの下に、赤い血の海が広がっていた。
非常にまずい状況だ。
 実は習得するのが非常に困難な回復系の魔法も習得している。
どんな危険な状態でも、高等魔法を使えばなんとかなる。
 しかし条件があり、それは心臓が動いているかどうか。
心臓は生きるのに必要ないちばん重要な器官。
これが動いていれば、俺の回復魔法で100%助かる。
だが、動いていなかった場合は……。

「頼む、動いていてくれ!」

 俺はそう願って、アンラの胸に耳を当てる。

ドクッ、ドクッ……

「―――生きてる、生きてるぞ!」

 なんと奇跡的に心臓が動いていた。
俺はアンラが助かることを確信した。
 しかし、早急に対処しなければアンラの命が危ない。
俺はアンラの体に触れると、魔法を展開する。

『アフディル・アルタエアフィ』!

 俺の周りに集まった魔力がアンラへと注がれていく。
回復魔法の習得が難しい理由、それはその人の持っている属性に合わせる必要があるからだ。
アンラの場合は闇属性のため、闇属性の魔力を集めてアンラに注ぐ必要がある。
その他の属性は光属性を除いて、一般的に多い属性のため、比較的簡単に回復を行うことができる。
しかし、闇魔法は俺とは全く逆の属性。
制御が難しい上、いつも以上の力を必要とする。

「もうちょっとだアンラ!」

 血の海が引いてきた。
アンラから流れた大量の血は、回復魔法と一緒に綺麗に浄化されながら体内へと戻っていく。
10分くらいかけ、流れ出た血はアンラの体内に戻った。

「う、ん……」

 意識を取り戻したのか、アンラはピクリと体が震えた。
よ、良かった!
アンラが生きていて、本当に良かった。

「―――ルーカス、なの?」

「あぁ、そうだよアンラ! 良かった! 生きててくれて!」

 俺は思わずゆっくりと起き上がったアンラを抱きしめた。
自分の愛する大切な人が危険な状態から戻ってくれたことが、とても嬉しかった。

「―――はあ……」

「―――? どうしたアンラ」

「バカ……」

「えっ?」

「ルーカスのバカァ!」

「―――!?」

 アンラもさぞかし喜んでいるだろう、という考えは大間違いだった。
逆に大粒の涙を流し、俺を睨んでいる。

「なんで、なんでその技を使ったの……? ルーカス死んじゃうかもしれないのに!」

「そ、それは……」

「わたしはその姿を絶対見たくなかったのに……」

 アンラの言葉にハッとし、俺は自分の手を見つめた。
自分の心が戻っても、体は『カラヒア』を発動させた時のままになっていた。
 俺は、俺はなんてことをしてしまったんだ……。
思い返せば、コウキに勝てる術なんて色々考えればあったはずだ。
なのに、俺は思いのままに『カラヒア』を発動してしまった。

「あぁーーーーー! ルーカスのバカァーーーーー!」

「ごめん、ごめんアンラ……俺がバカだった……!」

 俺は強く拳を握りしめた。
あの時の自分をぶん殴りたい……!
 アンラはひたすら大声を出して泣き続ける。
俺は悔しくて仕方なかった。
これだけアンラが泣いている姿、しかもこれだけ本気で泣いているを見たのは初めてだったからだ。

「ごめん、本当にごめん……!」

 俺はアンラを再び抱きしめ、背中を優しく撫でた。
もうこれ以上アンラを心配させたくなかった、そして自分の過ちをアンラにしっかりと謝りたかった。
俺は何度も彼女にごめんと謝り続けた。

「―――ぐすっ、でもルーカスが生きててくれて良かった」

「―――!」

「だって、わたしが世界で1番好きで大切な人と一緒に……これからも隣にいられるから……」

「―――っ!」

 その言葉は自分の心に深く刺さった。
眼が熱くなったかと思ったら、頬に涙が伝っていく。
そしてそのままお互い顔を近づけ、唇を重ねた。
いつもよりもかなり長く、そして深く……。
 アンラのぬくもりが唇に、舌を通して伝わってくる。
これからも、アンラと一緒に居続けたいと思った。

「でも、1つ言うとしたら」

「ん?」

「今日ルーカスがその技を使ったことはずっと覚えとくし、ずっと許さないからね?」

「は、はい……」

 アンラは笑顔で俺にそう言ったが、俺からすれば、その笑顔はいつもより怖く感じた。
肝に銘じて絶対にやらないって誓いますんで、これからもうそのめちゃくちゃ怖い笑顔見せないでね?

「まあ、ルーカスがまたやらかさない限りは見せないから大丈夫!」

「―――心を読まれてしまったな」

「そりゃあルーカスと長い間一緒にいるんだもん。そんなふうに考えることぐらいわかるわ」

「そうだよな、アンラだって本当はもっと俺に甘えたいんだろ?」

「なっ……! そ、そんなことないもん!」

「そう言ってるけど顔めちゃくちゃ真っ赤だぞ?」

「―――っ!」

 俺の指摘にアンラは恥ずかしさのあまりに顔を手で覆った。
俺は笑うとアンラに追い打ちをかける。

「本当は?」

「―――もう! ルーカスの意地悪! そうよ、本当は……もっとルーカスに甘えたいの……」

「―――っ!」

 気のせいだろうか。
いつもより思いっきり可愛し色っぽく見えてしまっているのは。
俺に向ける彼女の上目遣いはクリティカルヒットだった。

「やばい、俺の婚約者最高すぎ」

「な、何言ってるのルーカス!?」

「これが結婚を約束した人ですよ? 俺幸せ者過ぎない?」

「わ、わたしだってこんな人が婚約者なんて……とても嬉しい……よ?」

「―――!」

「きゃっ!」

 俺は嬉しさのあまりにアンラを強く抱きしめた。
驚いていたアンラも、俺をゆっくり優しく腕を回す。
 もう幸せすぎて頭がふわふわしてしまっている。
何も考えられなかった。
このまましばらく2人きりの時間を……と思ったときだった。

「ぐっ、あぁ……」

「―――まだ生きていたのかコウキ」

 あれだけ攻撃を食らったはずなのに、コウキは血だらけになった姿でよろよろと立ち上がった。

「『ダワ』……」

 コウキは自分の腹部に手を当て、回復魔法を唱える。
少しずつではあるが、傷口が塞がってきている。

「ちっ、また戦わないといけないのか……」

 アンラに回復魔法を使った影響で、もう魔力は枯渇状態に近く、体もだるい。
まともに戦える気がしなかった。
アンラも氷帝ティフィー・ヒムロの戦いで、万全の状態じゃなさそうだ。

「絶対に殺す!」

「やめて!」

 俺とアンラに襲いかかろうとしたコウキの目の前に立っていたのは、小さい体で青いロングヘアーの容姿を持った少女。

「どけろよティフィー。邪魔しないでくれ」

「だめ、絶対だめ!」

 氷帝ティフィーがコウキの進路を塞ぎ、両腕を広げていた。
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