魔王に見初められる

うまチャン

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第23話 魔王vs氷帝2

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 共に全解放をしている影響で、わたしとティフィーを囲むように魔力が渦巻いている。

「―――っ」

 ティフィーは何とか立っていられるのが精一杯のようだ。
そして、いつでも対応できるように身構えているものの、やっぱり萎縮しているせいで腕を震わせている。
 わたしが一歩踏み出すと、ティフィーは一歩下がった。
もう一歩踏み出すと、また一歩下がる。

「―――もう勝てないって思ってるでしょ」

「―――!」

 わたしの言葉に、ティフィーは大きく反応した。
動揺を隠せないようで、目が揺れ動いている。
どうやら図星のようね。

「ティフィーは七帝の1人なんだよね?」

 ティフィーはわずかに頭を縦に動かした。

「じゃああなたは今、なんのために戦っているの?」

「―――え?」

「わたしはシャイタンのために、ルーカスのために戦ってる。あなたはどうなの?」

「わ、わたしは……」

「戦うってことは何かを背負って挑むっていうこと。まあ、よくわからずに戦っているっていう例外もあるけどね。でも今のあなたを見てると、わたしのこの姿を見て、負けた……もういいやって感じる」

「―――」

「それじゃあ面白くないの」

「は?」

「こっちの身にもなってみなさいよ! 自分は正々堂々戦っているのに、相手はやる気がなかったら全く面白くないでしょ! 例えばボードゲームやってて、自分は真剣にやっているのに、相手は鼻ほじりながら他のことしてたらどう思う? こいつ腹立つッて思うでしょ! ねえ、そうでしょ!?」

「―――?!」

 ティフィーはこの人突然何言ってるの……?みたいな顔をする。
ムキー! わたしはちゃんとわかりやすく説明しているのに、何ででそんな顔するの!

「でも、今はそれと同じでしょ?」

「―――!」

「あなたがやる気を出してくれないと楽しくないの。さあ言ってみなさい、あなたは何のために戦っているのかを!」

「そ、それは国のために―――」

「違う、それは嘘。あなたはもう国として戦う気力はないことぐらいわかる。あなたの中には大切な人がいるんじゃないの?」

「―――!」

 ティフィーは大きく目を見開いた。
ティフィーの仲間――――七帝の人たちが出てくるだろうけど、結果は絶対にあの人が出てくる。

「―――ルーカス?」

 ティフィーは自分の想い人を口にした。
すると彼女はすくっと立ち上がり、さきほどとは違った表情をしていた。
何かを決心し、それを背負って全力で行く……そんな感じだった。

「―――いい顔してるじゃない。そうこなくっちゃ!」

「まさか魔王に説教されるなんて、わたしも未熟、子どもね……」

「―――!」

「あなたに勝って、ルーカスのお嫁さんにしてもらうんだもん!」

「わたしは最後ね……。さあ行くよ!」

 わたしとティフィーは同時に強烈な一歩を踏み出し、終止符を打つ最後の戦いが始まった。
わたしはもう力が残っていない。
対してティフィーはまだ余力があるから、極めて不利な状況だ。
この一撃で勝敗を決めるしかない!

「『クルアット・アルジャリッド』!」

 ティフィーの詠唱で、彼女の掌から巨大な氷塊が生成される。
わたしに標的を定めた。

「『アルザラム・アルハズム』!」

 わたしは今ある全ての魔力を使って掌に集中させた。
この魔法が押し返されたら、確実にわたしは……死に至る。

ガッ!

 わたしとティフィーの魔法がぶつかりあった。
ティフィーはまだ余力を残しているから、わたしの方に向かってどんどん氷塊を押していく。

「魔王! もう諦めなさい、あなたに勝ち目はない!」

「ぐ、ぐう!」

 巨大な氷塊がわたしの目の前まで迫ってきている。
体力的に限界を超えてしまっている。
―――ルーカス……。

『ねえルーカス』

『ん?』

『もしわたし達が負けちゃったら……もし、わたしが死んじゃったら……ルーカスはどうするの?』

『―――どうしたんだ? 急にそんな重い話をして……』

『いや、えっと、もしもの話よ。もしもの話!』

『そうだな……。シャイタンの後継者にはなったりするかもしれないけど……。ずっと外に出ないかもしれない』

『―――え?』

『だってアンラがいなくなったら、俺は寂しい。ずっとアンラのことを考えてしまうかもな。んで、ずっと根に持って病んでしまうって感じかな……』

『もう、どんだけわたしのこと好きなのさー』

『そんなこと言ってるアンラもそうなんだろ?』

『う、うん……』

『―――可愛い』

『―――!?』

『―――ま、まあとにかく! 俺はアンラがいなくなったら寂しいな。そのくらいアンラと出会ったことは、俺の人生で一番影響してる。そのくらいアンラの存在は大きいんだ。だから、俺はずっと……アンラの傍に居続けたいんだ』

「はああああああ!」

「―――!」

 そう、わたしだってルーカスの傍にずっといたい!
幸せな暮らしを、ルーカスとしたい!

「だから……ここで負けるもんかぁ!」 

ピキピキ……

「な……氷が!?」

バキィィン!

「―――!?」

ドゴォォン!

 巨大な衝撃音とともに、ティフィーはそのまま倒れた。

「はあ……はあ……勝っ、た……」

長い戦いに終止符が打たれ、力を使い切ったわたしも意識を失ったかのように倒れてしまった。
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