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五章
第61話 帰国
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アレクシス様は、スザンヌ国からアスレリカ帝国へ帰ることとなった。
しかし、どうやらーー私も一緒に帰らせていただけるそうで。
「…だが、気をつけるんだ。皇妃がさらに力を持っている可能性が高い」
「わかっております」
「苦労をかけるな」
すまない、と謝ったアレクシス様は、どこか切ない顔をした。
きっと、王太子派と第二王子派に分かれているのだろう。そして、数の差も圧倒的なのは目に見えている。私たちは、中立派の貴族たちをどれだけ味方につけるかが重要になってくる。
「おかえりなさいませ、王太子殿下、セシリア様」
使用人たちの出迎えはいつも通り。
城に入ると、まずは皇帝陛下のお目通りを優先させなければならない。
「ただいま帰りました。アレクシスです」
「右に同じく、ただいま帰還いたしました。セシリア・ラファエルです」
すると、唐突に「は!?」という声が聞こえてきた。
もちろんその声の主は、皇妃ミランダである。その腕にはまだ幼き第二王子がいらっしゃった。
しかし、一段下に座っているのはなぜだろう。皇帝と皇妃(もしくは皇后)は同じ段上に席が用意されているはずなのに。
「…どういうこと?あなたは、罪人でしょ」
ぴく、とアレクシス様が動揺したのがわかった。
「セシリアは…」
「ミランダ、口を閉じろ」
アレクシスに被さって、皇帝陛下がおっしゃった。その言葉に、ミランダでさえも小さくなる。
「…セシリア嬢。今回の件は、誠に申し訳なかった。国外追放は、すべてミランダの独断だということがわかったんだ」
「そ、そんな……っ、頭をお上げください!」
ーーミランダの、独断。
その言葉は何よりも、私自身に傷をつけた。
「まあ、なぜですの?フェイマス。それに、彼らは婚約破棄して…」
「婚約破棄?そんなものはされていない」
皇妃は、今まで自分を寵愛してくれていたであろう皇帝の一変した態度に驚いている。それもそうだ、皇帝は。ミランダにだけはこんなことを言う人ではなかった。
「…は?」
「婚約破棄の書類は、アスレリカで作られたものではなかった。質が明らかに違う」
「そ、それは、つまり」
悔しそうに顔を歪め、彼女は私を睨みつけた。
「…まあ、今回は許してやろう。次はないが」
今まで聞いたこともない、低く冷たいその声と言葉にすっかり萎縮してしまった皇妃は、そそくさとその場を立ち去った。
ーーおかしい。
私がこの城を、国を、出る前まではミランダが絶対だったはず。そして、それは第二王子が生まれてさらに確立されたはずーー。
それが、皇帝の態度の変わりようで、急変した。
その証拠が、廊下で聞かれるミランダへの噂話だ。
「…聞いた?ミランダ様の、国外追放の件…」
「知ってるわ、セシリア様を追放するってやつでしょ?あれ、独断だったなんてね」
「そうよ、おかしいと思ったわ。ーーだって、セシリア様はアスレリカ国を救ってくれたのに、皇帝陛下がそれを知らないはずないもの」
以前なら、彼らは即クビだ。
王都から追放されている可能性だってあるーーけれど、そんな心配もせずに彼らは噂している。
どうやら、私が不在の間に、何かあったようだーー。
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