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四章

第57話 任命式・即位式

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「皇太子殿下、おめでとうございます!」
「この国も安泰だ!」

まさに今、スザンヌ帝国の皇太子任命式・即位式が行われている。

国民たちはわあぁ、と手をあげて喜んでおり、それに応えるようにレアンドル様も手を振りかえす。

そして、新皇太子殿下、レアンドル殿下の隣に並んでいるのはーークレア様だ。

「私は今日より、クレア皇女を婚約者として迎える!」

拍手喝采。
それはしばらく止むことなく鳴り続け、一方のクレア様は少し頬を赤らめている。

「…良かったですわ、ねぇーーアレクシス様」
「ああ。巻き込まれはしたが…」

少し呆れたように言いながらも、彼の顔から祝いの心は読み取れる。



今朝、レアンドル様とクレア様は私のところにやってきた。

「申し訳ございませんでした、セシリア様」

二人して頭を下げられ、流石に戸惑った。
詳しく聞くと、どうやら二人は想いあっていて、昨夜通じ合った、とーー。

「…帝国アスレリカを巻き込みましたこと、誠に反省しております」

アレクシス様はやれやれと言った感じで、だけど笑みは絶やさなかった。

「もしもこれでセシリアを奪うなど言い出せば、戦争になっていたかもしれませんからね。聡明な決断をなさったようで、心から安堵しました。二人に祝福をいたします」

戦争……と息を呑んだのは、私だけではなかったようだ。
レアンドル殿下は肝に銘じておきます、と曖昧な返事をして、はらはらと見つめるクレア様の方を向いた。

「心配しないで。私はクレアをずっと守っていくから」
「……!」

仲睦まじい彼らを横目に、私たちは式の準備に取り掛かったのだった。



「本当、おめでたいですわ」

各国の主賓がたくさん挨拶にやってきている。
もちろん我がアスレリカ国にも挨拶はひっきりなしで、やっぱり疲れてしまった。

「少し夜風に当たってきます」

バルコニーに出る。

クレア様とレアンドル様はお互いの気持ちを確かめられた。ーーだけど、私は?
すごく寂しかったこと、すごく好きだということーー何も伝えられずにいる。

でも、今はアレクシス様は大変な時期よね…?
お邪魔してはいけない。そう思っていたけど。

「…いつも、だわ」

いつもーー出会った時から、婚約をして、ミランダ皇妃の様々な仕掛け、国外追放されても再会できた。この今までの数々の機会チャンスを逃してきてーー。

二人の私が葛藤する。
アレクシス様は忙しいのだからまだ、という私と、告げるべき、という私。

「セシリア、ここにいたんだね」

はっと振り返ると、まさにアレクシス様が微笑んでいた。
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