57 / 65
四章
第57話 任命式・即位式
しおりを挟む◇
「皇太子殿下、おめでとうございます!」
「この国も安泰だ!」
まさに今、スザンヌ帝国の皇太子任命式・即位式が行われている。
国民たちはわあぁ、と手をあげて喜んでおり、それに応えるようにレアンドル様も手を振りかえす。
そして、新皇太子殿下、レアンドル殿下の隣に並んでいるのはーークレア様だ。
「私は今日より、クレア皇女を婚約者として迎える!」
拍手喝采。
それはしばらく止むことなく鳴り続け、一方のクレア様は少し頬を赤らめている。
「…良かったですわ、ねぇーーアレクシス様」
「ああ。巻き込まれはしたが…」
少し呆れたように言いながらも、彼の顔から祝いの心は読み取れる。
今朝、レアンドル様とクレア様は私のところにやってきた。
「申し訳ございませんでした、セシリア様」
二人して頭を下げられ、流石に戸惑った。
詳しく聞くと、どうやら二人は想いあっていて、昨夜通じ合った、とーー。
「…帝国アスレリカを巻き込みましたこと、誠に反省しております」
アレクシス様はやれやれと言った感じで、だけど笑みは絶やさなかった。
「もしもこれでセシリアを奪うなど言い出せば、戦争になっていたかもしれませんからね。聡明な決断をなさったようで、心から安堵しました。二人に祝福をいたします」
戦争……と息を呑んだのは、私だけではなかったようだ。
レアンドル殿下は肝に銘じておきます、と曖昧な返事をして、はらはらと見つめるクレア様の方を向いた。
「心配しないで。私はクレアをずっと守っていくから」
「……!」
仲睦まじい彼らを横目に、私たちは式の準備に取り掛かったのだった。
「本当、おめでたいですわ」
各国の主賓がたくさん挨拶にやってきている。
もちろん我がアスレリカ国にも挨拶はひっきりなしで、やっぱり疲れてしまった。
「少し夜風に当たってきます」
バルコニーに出る。
クレア様とレアンドル様はお互いの気持ちを確かめられた。ーーだけど、私は?
すごく寂しかったこと、すごく好きだということーー何も伝えられずにいる。
でも、今はアレクシス様は大変な時期よね…?
お邪魔してはいけない。そう思っていたけど。
「…いつも、だわ」
いつもーー出会った時から、婚約をして、ミランダ皇妃の様々な仕掛け、国外追放されても再会できた。この今までの数々の機会を逃してきてーー。
二人の私が葛藤する。
アレクシス様は忙しいのだからまだ、という私と、告げるべき、という私。
「セシリア、ここにいたんだね」
はっと振り返ると、まさにアレクシス様が微笑んでいた。
290
お気に入りに追加
1,673
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
恋は盲目とはよく言ったものです。
火野村志紀
恋愛
魔法と呼ばれる力が存在する世界。
水魔法の名家であるロイジェ公爵子息クリストフには、かつて愛していた婚約者がいた。
男爵令嬢アンリ。彼女は希少な光魔法の使い手で、それ故にクリストフの婚約者となれた。
一生守るつもりだったのだ。
『彼女』が現れる、あの時までは。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。
火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。
そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。
式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。
愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……
愛は全てを解決しない
火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。
それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。
しかしデセルバート家は既に没落していた。
※なろう様にも投稿中。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる