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四章
第49話 嫉妬
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「…それはどういうことでしょう、クレア様」
セシリア様は、こてん、と首を傾げる。
きっと、このように可愛らしい方のほうが、男性にも好かれやすいのでしょうねーーもちろん、レアンドルにも。
「…言葉の通りです」
「私に、婚約の打診を断れと?」
「ええ」
「…私が、スザンヌ帝国の次期皇太子であるレアンドル様の求婚を安易に断れる立場でないことは…」
「重々承知しております」
なぜ、こんなことを言ったのか、自分でもわからない。
ただ、毎日毎日、辛くてーー。
"「クレア」"
毎夜出てくる、幼き彼。
いつも聞こえる、彼が私を呼ぶ声。
ーーやめて、と言っても、応えてはくれない。
ただ、私を傷つける、一番簡単な方法で、苦しめてくるのだ。
これは、醜い嫉妬だ。
たまたま居合わせてしまった、求婚の現場。
自分には大きな傷をつけるだけなのに、目が離せなかった。
「私と結婚してほしい」
初めは政治的な理由だと思った。
だけど、彼は最後に言ったのだ。
ーー私はあなたが好きです、と。
それは私に向けられることはない。
どんなに小さい頃に出会い、長く過ごしても、彼は私を「好き」にはならなかったのだからーー。
一度もそのような態度を見せられたことがないのが、その根拠である。
セシリア様は、困惑の表情を浮かべて、考えさせてください、と言い、その場を離れた。
「…レアンドル。何の用?」
後日、彼は訪ねてきた。
彼が話しかけてくれるのは久しぶりなので、少しわくわくしてしまった。
「…本を探しに」
「そう、熱心ね」
図書館に行かずとも、私の書斎には山ほどの本があり、そこで政治を学んできた。
ここには、地方にはない、はたまた城下にもない、皇宮にしかない本が多く存在するので、たまにこうやって訪ねてくる人がいるのだ。
彼は一人の侍従を連れて入ってきた。
「何の本を探しているの?」
「…」
どうしたのかしらーーどうして、反応しないの?
考え事でもしているのだろうかと、私は彼を放っておくことにした。
彼はすぐに終わるので、と私の書斎のソファに腰掛け、しばらく調べものをしていた。
「お茶を持ってきますね」
「ええ、ありがとう」
専属侍女が席を離れ、そしてお茶とお菓子を持ってきた。
レアンドルをお客様と見据え、気を利かせたのだろう。流石だと感心していると、レアンドルは言った。
「ーーいりません」
「っ…どうして?彼女はあなたを思って用意してくれたのよ」
あまりの冷たさと無反応さに怒っていたのだろうか。それとも、寂しかったのか。あるいは、悲しかったのかーー私は少し声を荒げてしまった。
流石に言いすぎたか、と謝ろうとしたその時ーー。
「あなたがそれを言いますか?」
レアンドルは、今までにない怒りの表情で私を見てきた。
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