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三章
第44話 いなくなった王太子
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「…王太子はまだ見つからないのか!」
ある日いなくなった婚約者。
ジークフリート王太子は、5ヶ月、いや6ヶ月前に見たのを最後に、消息不明となった。
あの日、ミランダ皇妃が訪れたとき、なにやら話し込んでいたが、よく聞こえなかった。
償いとして、お姉様のために何かしたかったのに。
おかしなことを吹聴されたのか。
彼は、「アスレリカに行ってくる」と言って、それから連絡も途絶えたままだ。
そして今、最悪の状況に陥っているーー。
国王が、倒れた。
国家存続の危機だ。
君主がいないということはすなわち、国家滅亡を意味する。
他の国から侵略されるかもしれない。お父様は、日々それを案じて、なんとか女性の王位継承権を認めようと動いているのだが…。
「滅びるのは時間の問題よ」
王妃様は、どこか遠くを見つめて、そう言い放った。
きっと昔なら、「息子の行く末を案じているのでは」と思ってしまうだろう。だが、あの日事実を知り反省した私が学び直すとわかってきた。
ーーあの時まで、私はどれだけ愚かだったのだろうと。
目先の利益。愛に囚われ、現実から目を背けて来た。
王妃様は、常にこの国の行く末を案じている。
それが分かるようになって来た。王太子など、もはや見放されたも同然。もし見つかって王位につけても、きっと誰かの操り人形と化するだろう。
「…王妃様。もし女性の王位継承権が認められれば、王妃様が王位につくのでしょうか」
「…そうね。それが好ましいけれど、私はすでに「王妃」だから」
「王妃」と「王」は違う。
そして、いつも「王」を支える「王妃」として務めてきた彼女が、いきなり「王となれ」など言われても困惑するだろう。
それに、夫婦で「王」となるのは、あまり好ましくない。
確かに王家があってこそのコーネリアだが、彼らはすでに「用済み」となる。コーネリアでは、「夫婦」は一心共同体、と考えられている。
だから片方が「用済み」になれば、自然と片方も「用済み」になる。
コーネリアの歴史は古く、しかしそれのせいで考えも古い。
ただし、これは受け継がれてきた考えだ。王が信じなければ、それを信じる民との間に隔たりができてしまうと、王妃様はおっしゃった。
「では、誰が…?」
王室に男児はいない。
それどころか、女児もいない。他国と違い、皇室は「唯一」とされてきたコーネリアに、皇室の血を正統に受け継ぐ家柄は残らず、だからこそ存続の危機だ。
「…どうなるのでしょう」
人は、未来を知ることができない。
でも、未来を見据えることはできる。そうだと言わんばかりに王妃様は言った。
「…相応しいのは、あなたでしょうね」
彼女は、偽りなく真っ直ぐな視線で、私の方を向いた。
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