41 / 65
三章
第41話 遺品
しおりを挟む「…クレア、見せてやりなさい」
「はい、お父様」
後に知ったことだが、普通は部外者には見せてはいけない、という暗黙の了解があるらしい。どうにも後ろめたさが残ってしまった。
見せてもらったペンダントは、確かにアレクシス様のと同じだったーー。
形も八面体、美しく赤色に輝いている。
「…これは、魔石だと聞いたのですが」
「ええ、ですが、実際は神聖力が込められているのです」
神聖力は、マナの発動を助ける。
そして、神聖力の量は、マナの量に比例するーー。
「…光ったり、とかは」
「…そうですね、見たことはありません。古い書物には書いてありましたが、あくまでも伝説上ですので」
「そう、ですか…」
光らない。
だけど、アレクシス様のは紛れもなく光っていた。眩いほどに…。
「魔術は、一発で成功しますか?」
「そんなことはありえません。ーー神聖力が強すぎたら、可能性はあるとは思いますけど」
だけど、私に神聖力はないしーー。
あれは、どう考えても、「不慮の事故」では片付けられないだろう。
その後、クレア皇女は、エレナ様の遺品を見せてくださった。
残って、もう期限が切れたはずの化粧品、アクセサリー、服に小物。愛用していた書物ーーなどなど。
クレア皇女は、お父様が残しているのです、と苦笑しながらおっしゃった。
確かに、もう要らないはずで、でも残している理由は、やはり愛だろうか?
「触っても?」
「…多少は」
どれも美しい細工やデザインだが、どこか質素だーー。
きっと、国民のことを考えられる人だったのだろう。
そして、アクセサリーに触れた。
「っ!」
思わず手を引っ込める。
間違いない。これは、あの時のーー。エレナ妃の墓に触れたときと、同じ感覚。
今回はわかる。体に、何かが流れ込んでくる…。
ピリッとした感覚。
「大丈夫ですか?」
「…ええ」
共通するのは、「エレナ妃のもの」。
◇◇◇
「はぁ…殿下、集中してください」
「…わかっているよ」
私はマルクス。
そして、今、そこそこ機嫌の悪い主を宥めているところだ。
セシリア様はすごい。
女性を極端に嫌い、21歳、と結婚適齢期を軽く通り越した殿下を一瞬で惚れさせたのだから。
初めは、どんな女かと思った。
媚を売るか、あるいは脅しか、あるいはーー?
可憐な女性で、淑女だった。綺麗で、だけど芯の強い、しっかりとしたひと。あのミランダ皇妃をも警戒させ、国を第一に考えるべく育てられてきたような。
それをリュカに言うと、同意を得られた。
誰もが思うのだ、セシリア様がいないといけないと。
だけど、いなくなったのは、あの女狐ーー皇妃ミランダのせいだ。
でも、そろそろ。
「…潮時かな」
殿下が私の考えを汲み取ったように答えた。
そう、潮時だ。
ミランダ皇妃を、これ以上好き勝手させるわけにはいかないーー。
「殿下。セシリア様に会いにいけばよろしいのでは?」
愚かに見せるように。全て、計画すればいいのだ。
449
お気に入りに追加
1,673
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
恋は盲目とはよく言ったものです。
火野村志紀
恋愛
魔法と呼ばれる力が存在する世界。
水魔法の名家であるロイジェ公爵子息クリストフには、かつて愛していた婚約者がいた。
男爵令嬢アンリ。彼女は希少な光魔法の使い手で、それ故にクリストフの婚約者となれた。
一生守るつもりだったのだ。
『彼女』が現れる、あの時までは。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。
火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。
そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。
式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。
愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……
愛は全てを解決しない
火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。
それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。
しかしデセルバート家は既に没落していた。
※なろう様にも投稿中。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる