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三章

第41話 遺品

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「…クレア、見せてやりなさい」
「はい、お父様」

後に知ったことだが、普通は部外者には見せてはいけない、という暗黙の了解があるらしい。どうにも後ろめたさが残ってしまった。

見せてもらったペンダントは、確かにアレクシス様のと同じだったーー。
形も八面体、美しく赤色に輝いている。

「…これは、魔石だと聞いたのですが」
「ええ、ですが、実際は神聖力が込められているのです」

神聖力は、マナの発動を助ける。
そして、神聖力の量は、マナの量に比例するーー。

「…光ったり、とかは」
「…そうですね、見たことはありません。古い書物には書いてありましたが、あくまでも伝説上ですので」
「そう、ですか…」

光らない。
だけど、アレクシス様のは紛れもなく光っていた。眩いほどに…。

「魔術は、一発で成功しますか?」
「そんなことはありえません。ーー神聖力が強すぎたら、可能性はあるとは思いますけど」

だけど、私に神聖力はないしーー。
あれは、どう考えても、「不慮の事故」では片付けられないだろう。

その後、クレア皇女は、エレナ様の遺品を見せてくださった。
残って、もう期限が切れたはずの化粧品、アクセサリー、服に小物。愛用していた書物ーーなどなど。

クレア皇女は、お父様が残しているのです、と苦笑しながらおっしゃった。
確かに、もう要らないはずで、でも残している理由は、やはり愛だろうか?

「触っても?」
「…多少は」

どれも美しい細工やデザインだが、どこか質素だーー。
きっと、国民のことを考えられる人だったのだろう。

そして、アクセサリーに触れた。

「っ!」

思わず手を引っ込める。
間違いない。これは、あの時のーー。エレナ妃の墓に触れたときと、同じ感覚。
今回はわかる。体に、何かが流れ込んでくる…。

ピリッとした感覚。

「大丈夫ですか?」
「…ええ」

共通するのは、「エレナ妃のもの」。

◇◇◇
「はぁ…殿下、集中してください」
「…わかっているよ」

私はマルクス。
そして、今、そこそこ機嫌の悪い主を宥めているところだ。

セシリア様はすごい。
女性を極端に嫌い、21歳、と結婚適齢期を軽く通り越した殿下を一瞬で惚れさせたのだから。

初めは、どんな女かと思った。
媚を売るか、あるいは脅しか、あるいはーー?

可憐な女性で、淑女だった。綺麗で、だけど芯の強い、しっかりとしたひと。あのミランダ皇妃をも警戒させ、国を第一に考えるべく育てられてきたような。

それをリュカに言うと、同意を得られた。

誰もが思うのだ、セシリア様がいないといけないと。
だけど、いなくなったのは、あの女狐ーー皇妃ミランダのせいだ。
でも、そろそろ。

「…潮時かな」

殿下が私の考えを汲み取ったように答えた。

そう、潮時だ。
ミランダ皇妃を、これ以上好き勝手させるわけにはいかないーー。

「殿下。セシリア様に会いにいけばよろしいのでは?」

愚かに見せるように。全て、計画すればいいのだ。
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