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三章
第34話 王太子
しおりを挟む「…ジークフリート王太子。あなたは一体何をしに来たのですか?」
セシリアが問う。
確かに、ジークフリート王太子は「何の用か」と聞かれても答えていなかった。もし、セシリアを国に帰すことが目的だとすれば…。
「セシリア、僕はやっと気づいたんだ…。アメリアではなく。セシリアを愛していると!」
……ん?馬鹿なのか、こいつは?
という考えを、セシリアでさえも顔に表していた。信じられない、という表情で。
大体、セシリアの妹を愛しセシリアを散々傷つけたあげく、今度は隠し子だと知るとセシリアを迎えようとするなんて。
浅ましさにも程がある。
「…ほら、お前は女だろ?きっと僕の役に立つことを嬉しく思う日が来るよ!」
呆れて言葉も出ない……。
「女性」を見下す。そして、自意識過剰すぎる。なぜコーネリアの王位継承権を持つのがこいつだけなんだ。
「…ジークフリート王太子。彼女が誰なのかわかっているのですか?」
セシリアを守ると母に誓ったんだから、ここは私が出る番だ。
「ああ。僕の元婚約者だ!」
「ええ、そうです。ですが、私の婚約者です」
「皇太子殿下は誑かされているんですよ。この女は、私のものなんです」
さっぱり意味がわからない。
皇太子を誑かす女=王太子のもの、ではない。全く違うし、意味も分からない。
「彼女はもうすぐ皇太子妃となる。我が帝国はコーネリアくらいどうとでもできるんです」
「…っ」
彼が悔しそうにぎゅっと握りしめた拳の中には、おそらく先ほど見たペンダント…。
「隠しているのはなんですか?」
「は、は?隠してなんか、」
「みせてください」
しかし、彼は無礼だ。言葉も通じないほどに。そして、驚くほど非常識。すぐに脱走して、結局ペンダントは分からなかった。
「…セシリア。大丈夫か」
「はい。大丈夫です」
本当に、大丈夫だろうか。
浮かない顔をしているくせに、笑みを作って微笑む姿は痛々しい。
◇◇◇
「な、なんだよっ…!」
コーネリアまで届いていた名声。
「アスレリカ帝国の皇太子殿下はとても美形だ」「麒麟児と名高いだけある」「さすがだ」
皆揃って口にする。
そして、それと同時に僕の評判は下がっていく。
「それに比べて王太子殿下は…」「アメリア様まで蔑ろにされているそうだ」「女を見下している」「経済すら動かせないそうだ」
ようは、僕は「莫迦」、皇太子は「天才」と言いたいのだ。
両親も、もう何も言ってこなくなった。
そして、僕が自由にするほど、悪評が高まっていくのだ。
だから、あのとき、ミランダ皇妃から提案されたものは、すごく輝かしい計画だった。
【相応しいものを、あるべき場所にーー】
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