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二章
第21話 皇妃の思惑
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「皇妃殿下。報告でございます」
「言ってみなさい」
「セシリア・ラファエル公爵令嬢はーー」
あのパーティーで、アレクシスにエスコートされて入ってきた女、セシリア・ラファエル。彼女のことは、調べに調べた。
「主賓」とされている彼女だが、裏があった。
ーー王太子との婚約破棄。
妹に寝取られ、婚約破棄されてここに来たとは。なんとも図々しい小娘ねーー。
王国側《コーネリア》も、情報が漏れ出ているだなんて、思いもしないでしょうに。まあ、こちらとしては有利だったから良かったけれどーー。
あの冷めた目つきをしている皇太子アレクシスは、セシリアと話す時だけ笑っていた。だから、利用してやろうと思った。どうせ、婚約破棄される女のことだ、大したものではないだろうーー。
「あらこんにちは」
「…ミランダ皇妃殿下にご挨拶申し上げます」
意外に、挨拶はしっかりしているようね。まあ、ある程度の妃教育は受けてきたのでしょう。
紅茶には、簡単に口をつけた。ーーいいえ、簡単ではなかったーー。
ゾクっとした。
なに、この感覚は…………。
見て、いる。睨みつけている……私をーー?
ああ、そういうことか。セシリアは、私が毒を入れないことを分かっていて簡単に紅茶を飲んだのだ。
「そういえばセシリア嬢。アレクシスと大変仲がよろしいようね」
「いえ…とても。殿下にはエスコート役をしていただいただけですわ」
なるほど、自慢はしない、か。
流石に私のことは知っているのだろうーー私が、「皇太子アレクシス」の敵だということくらいは。
誰かがコーネリアにはいつ帰るのかと聞いた。
婚約破棄されて出てきた身だというのに、今更のこのこ帰れないわよね……?
「…まだ未定ですの。ですが、何もない限りはもうすぐだと思いますわ」
ーー「何もない限りは」。
そこを少し強調していることに気づいたのは私だけだったのかもしれない。他の客は気にも留めない様子で「そうですのね」と疑いもせずに答えただけだった。
アレクシスは、セシリアが帰ると知れば、どう思うだろうーー。
「リカ。セシリア嬢にはこう聞くのよ、「皇妃殿下はどうでしたか」と」
リカは私の配下にいる、「影」……。
セシリアを探るための、私付きの侍女だ。
「報告です」
「…それで、なんて言ってた?」
「良い方でした、と」
……そう。
だけど、もう私は気づいた。観察力だけは優れていると自負してもいいだろう。
その答えは、本心で本心じゃない。
セシリアは、私の思惑に気づいている、きっとーー。
セシリア・ラファエル。恐ろしい女ーー。
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